感想|NEX_FEST:Ayase への共感、BABYMETALの主体性とファンダム、念願の9年ぶりBMTH
YOASOBI
開催およびラインナップが発表された時、一番驚いたのがこのアクト。他のアクトとあまりに音楽性がかけ離れていると思ったためだ。正直なところ、元々YOASOBIには良い印象を抱いていなかった。1stアルバム『THE BOOK』では同じようなメロディや、ラストのサビで半音上げる手法が繰り返されていて退屈したし、そもそも「Novel into music」というコンセプト自体、創造性を拡張するためではなく、タイアップをしやすくするために設定されたようしか思えなかった。そのため『THE BOOK』以降、このグループの曲を積極的には聴いてこなかった。
しかし、当日を前に様々な記事を読んでいるうちに、それまでとはまったく異なる印象を抱くことになった。特に、「SiM MAH×YOASOBI Ayase、メタルをテーマに特別対談 “ロックスター”を掲げて語り合う、日本発の音楽として果たすべき役目」では、SlipKnoT「Psychosocial」に衝撃を受けたこと、『Sempiternal』からBMTHに入ったことが語られており、ものすごい共感を覚えた。他の固有名詞も含め、自分やその友達と重なりすぎていて、年齢も同じと知った時には、中学校の時同じクラスだったんじゃないかと思ってしまうほどだった。だからこそ、そんな彼がBMTHやホルモンと同じフェスに名を連ねることにどれだけワクワクしているのか想像して、自分までなんだかワクワクしてきたし、上から目線っぽくて申し訳ないが「存分にカマしてほしい」という想いが芽生え、当日が楽しみになっていた。
そして当日。結論から言うとかなり楽しかった。曲が有名だからこそシンガロングの規模が大きくて気持ちよかったし、最近の大ヒット曲「アイドル」には思えばメタルコア的な要素もあるような気がして、存分に首を振ることができた。そして何よりも、MCでフェス公式のタオルを掲げながら、自分たちのロゴが大好きなバンドたちの中に混ざっていることを嬉しそうに語るAyaseの姿に感動した。
YOASOBIのやり方、より正確に言うと2人のことではなく、YOASOBIを売っている人たちのやり方が気に食わないというのは今も変わらない。だからこそ、これからは2人の考えや音楽への愛をもっと表現できるようになってほしいなと思った。(今がそうじゃないとは限らないが、より一層。)
I PREVAIL
ボーカル2人の声、飽きさせない曲の展開、客の巻き込み方など、安定感抜群のパフォーマンスだった。
マキシマム ザ ホルモン
アルバム『ぶっ生き返す』を中学の時に聴きまくっていたので、「シミ」「What's up, people?!」「絶望ビリー」を生で聴けてよかった。それだけではなく、かつてBMTHと対バンした経緯や、そんなBMTHと今回再会した時の雰囲気、さらにはフェス名をもじってのヘドバン指示など、MCもめちゃめちゃ面白かった。
YUNGBLUD
表情や動きが愛嬌に溢れていて、なんというか皆に対して「楽しもうよ!」と肩を組んでくれるような雰囲気で、多幸感にあふれるステージだった。楽曲も多彩で、客演だけじゃなくて彼メインの曲もたくさん聴いてみたいなと思った。
BABYMETAL
正直なところ、あまり乗り切れなかった。ステージ全体を通じて観客とのコミュニケーションに乏しく、ライブとしてのダイナミズムが欠けているように思えたからだ。なお、ここでの「コミュニケーション」は、直接的なコミュニケーション(つまりMC)のみを意味しないし、「ダイナミズム」は観客の動きの総量のみを意味しない。むしろ動きの総量は、ファンがたくさんいたこともあり、皆でタオルを振ったり、WODができていたりとすごく多かった。しかしそれらは「この曲はこうするものだから」というある種のお作法に基づいたものであって、その時その時放たれる演者からのコールや、耳や目で感じたものを体全体で受け止め、自分なりに跳ね返した結果として生じた動きではないような気がした。極端な話、そこで演じているのが「彼女たちと同じ見た目、声、動きをした何か」でも成立するように感じてしまった。まとめると、彼女たちのその時ならではの気持ちが表現され、それに受け手が応えるというような「コミュニケーション」は感じられなかったということだ。
こうしたライブの場でコミュニケーションをあえて紡がない感じは、それ自体ひとつの魅力になりうるし、特にSU-METALが持つカリスマ的な存在感にも合致するだろう。しかし、それが彼女たちのやりたいことなのかどうか、という視点は持っておくべきだと思う。「アイドルなのにこんなにハードな音楽性」というギャップや、「下火な状況が続いているメタルの救世主」というストーリー性を期待するあまり、彼女たちの主体性を無視してしまってはいないだろうか。
こうした考えは、彼女たち以外のアイドルにも当てはまることではあるし、自分にとってライブの場でのコミュニケーションが乏しいように見えたからといって、彼女たちがやりたいことをできていないとは限らないのだけれど、彼女たちの客の巻き込み方やそれに対するファンの応え方があまりに手続き的だったので、こう感じてしまった。
また、今回こう感じたことをきっかけに、音楽や表現に関する彼女たち自身の発言を見つけるために、Twitterであれこれ調べてみたのだが、彼女たちの活躍(主に、海外のライブが盛況だったり、大物ミュージシャンとコラボしたり、批評的にも評価が高まっていたりすること)に対して、「そんな彼女たちを応援している自分たちもすごいんだ」的な重ね合わせをしているファンが多い印象を受けた。もちろん直接的にそう主張しているわけではないが、どことなく「うちの娘たちは普通のアイドルとは違いますんで」感が滲み出ていて鼻についた。
もしその音楽性を愛でているのであれば、似たジャンルのアーティストや、少なくともコラボしているアーティストのことはリスペクトするはずで、BMTHの出番で「Kingslayer」が終わったら帰る、なんてことはしないはずだ。単に電車の都合だったのかもしれないが、周りにそういう人が複数名いたのでかなり驚いた。となると、一番好きなのは彼女たちのルックスである可能性が高く、それは他のアイドルファンとさして変わらない。「可愛いのに音楽性はゴリゴリのメタル」というギャップに興奮しているのだとしても、その起点が「可愛い」にある以上、普通のアイドルファンである。それにもかかわらず、「BABYMETALこそがすごい」的なファンダムの雰囲気にはけっこうキツいものがあった。
Twitterで見かけた一部のファンの、しかも明言しておらず私が勝手に感じ取った雰囲気と、現場のファンの行動を結びつけての感想なので、かなり飛躍を含んでいるが、思ったことを書いてみた。
BRING ME THE HORIZON
今回のお目当て。『Sempiternal』をきっかけに好きになり、2014,15年頃は一番聴いていたアーティストだと思う。「Throne」のリリース時には向こうのラジオをリアルタイムで聴いて鳥肌が立って、Twitterで友達と「やべえ」みたいに言い合ったのを覚えている。
好きになり始めて早速、2014年のKnotfest Japanで観ることができたけど、その時はオリバーの調子が悪めで、次の2016年の来日は流れてしまったし、そしてなぜか2019年の来日には行かなかった。そんなこんなで今回のNEX_FESTが9年ぶりとなり、彼らのパフォーマンスを本当に本当に楽しみにしていた。
セトリは、エレクトロニックとの融合に舵を切った『Sempiternal』以降の楽曲からバランスよく構成されていて、加えてそれ以前の人気曲「Chelsea Smile」という嬉しいサプライズもあり、たいへん充実していた。特に終盤の「Drown」で周りと一体になりながら "Cause you know that I can't do this on my own." とシンガロングしたあの瞬間はずっと忘れないだろう。
音楽のテイストがどうこうという意味ではなく、「新しい表現を模索し、型にはまらずむしろ打ち破っていく」という意味で、BMTHはロックだ。しかもそれを、とにかく打ち破ることを目的にしているというよりは、結果としてそうなっている感じがクールで、そんな彼らの凄みを再確認できるステージだった。