夫婦が逆転した日: Day 0
「今日は会食があるから遅くなる」と言って出かけた夫から連絡が入った。
「中止になったから、子どもたちのお迎えに行ってくるね」と。
折しもその日は夫婦の記念日。
会食があると聞いたときは「夫婦も10年経つと予定が入るのね・・・」とぼんやり思ってました。
なので、帰宅の連絡を受けて、ちょっと舞い上がってた。
なんだかんだ言っても、何年経っても、一緒に過ごせるのはやっぱりいいよね。
記念日に一緒に過ごせないからと取り寄せてくれたルタオのチーズケーキ、一緒に食べようかな。
そんな風に考えながら、仕事を定時で終わらせて帰路についたあの日。
帰宅した私を待っていたのは、夫の衝撃的な一言でした。
「・・・・・・離婚でもいいよ」
あまりにも衝撃的で、前半は聞こえなかった。というか、理解できなかった。
「え・・・ごめん、聞こえなかったの。もう一回言って」
「転職、ダメになった。キョウゴウヒシに指定された。」
「え、なにそれ」
「転職先に、行ったら訴えるって。」
「え、でもライバルじゃないよね」
「会社にとっては、ダメみたい。猶予がないからしばらく無職かもしれないし、もう就職できないかもしれない」
「・・・なにそれ」
「リコン、してもいいよ。」
「何言ってんの。共働き夫婦でよかったじゃん」
そんな会話があったあの日。
何のお夕飯を作ったのか、何を食べたのか、記憶にない。
ルタオのチーズケーキがあんまり甘くなかったのは、覚えてる。
「有休消化に入ったらさ、旅行とか行こうと思ってたんだけど。」
「うん」
「そういうことだから、転職活動やり直しだし、家にいるよ」
「わかった。」
「でさ、家事やるから。」
「えー、いいよー。」
「だってさ、これから、無職になったら、無給なんだよ」
「そうだね」
「養ってもらわなくちゃいけないし。働かざる者食うべからずじゃん」
「そうかもしれないけど」
「とりあえず、やるから」
「わかった。お願いします。でも、無理しないでね」
「うん」
そんなやりとりを経て、夫が有休消化に入ると、家事と育児は夫がやってくれるようになりました。
元々、妻の私がフルタイムで働きながら、育児と家事のほとんどを担い、さらに仕事を綱渡りしていた状態。この話は渡りに船だったのかもしれません。
ただ、夫が家計のほとんどを負担していたのも事実。
正直、この先どうなるのかな?という不安はよぎる。
けれど、その不安について話ができないくらい、この時の夫の顔色は悪かったのです。
仕事が大好きなこの人が、明日、一つでも楽しいと思えることを作らないと、死んでしまうんじゃないか。
そう思って、この時、「まーなんとかなるよ」という気にしていないそぶりを見せることに必死になっていました。