竿とリールにかかる力
ある動画が目に留まった
バスフィッシングをやる方はご存じかもしれないが、ヒロ内藤さんという方のYoutubeチャンネルがあって、色々なテクニックと知識を紹介してくれる。穏やかな語り口で順序立てて詳細に説明してくれるし、何より演出や宣伝が過剰でないのが気に入ってよく視聴している。ちなみにバキバキに宣伝色を出している「四季の釣り」チャンネルはまさに対極の存在で、こっちはこっちで清々しくてむしろ好き。
それはさておき、ヒロ内藤さんのチャンネルである。何気なくアーカイブを見ていたら下のような動画が目に入った。ドラグの設定方法を解説した動画となっている。
見ていてふと気になった。ドラグの設定をする時って、リールを竿に付けなくていいの?竿が曲がれば力が吸収されるので、竿につけた時のドラグは設定値よりも大きくなってしまうのではないか、という疑問である。
タックルにかかる力
曲がっているのだから、竿に何らかの力がかかっているのは間違いない。負荷が強くなればなるほど、竿の曲がりも大きくなっていく。曲がりを見れば竿に力がかかっているのは明らか。一方で、強い負荷がかかってもリールの見た目は変化しない。ただ、ある一定の強さを超えて糸が引っ張られるとドラグが作動してジリジリと音がするので、やはりリールにも何らかの力がかかっている。
なんとなく、魚の引く力の一部を竿が引き受けるので、リールにかかってくる力は実際よりも弱そうだ。どういうことかというと、
仮説:魚の引く力=竿が引く力+リールが引く力
ではないか?と。
もし仮にそうであれば、竿を立てて強く竿を曲げてやるほどリールへの負荷は減る。であれば多少ドラグが弱くても竿でカバーできるということになるが、結論から言ってしまえば、この図式は成り立たない。。竿にかかる力とリールにかかる力は厳密には同じ種類の力ではないのだ。
まずは魚をかけてみよう
それではまず、魚がかかって竿がグッと曲がっている状況を考えてみる。糸を張った状態で綱引きしている、あの緊張の一瞬を妄想してください。
この時、リールは魚の力を受け止めて走らせないようにしている。
ガイド≒滑車
ガイド部分を拡大してみよう。
上の図は、竿に装着されたガイドの横断面を示している。竿の曲がりに追従して、ガイドリングの曲面に接触する糸の角度が変わる。魚の引っ張る力はガイドで方向転換されてリールに伝わっていく。
力の方向を変化させるガイドの働きは何かに似ている。中学校くらいの時に物理の授業で習った「滑車」に良く似ているのだ。
滑車も力の方向を変える働きを持っている。
ここで非常に重要なことは、滑車には摩擦が無いということだ。理論上、滑車は摩擦がないので、糸を通した力は減衰することがない。竿のガイドはどうか。
ガイド製造の最大手・富士工業の説明によると、摩擦係数の非常に小さい素材がガイドには使われている。そのためガイドと滑車はほぼ同じものと見なせる。
リールに張力が伝達される
「滑車をはさんだ糸に働く力」は一般的に「張力」と呼ばれる。張力は、糸の角度に関係なく、滑車の前後で変化しない(一定である)。この滑車の性質を表したのが下の図である。5 kgの重りが引く力は、増えたり減ったりせずに5 kgのまま壁に伝わる。そして釣り合いを保つために、壁と糸の接点では反対方向に5 kgの力が生じる。
「ガイド≒滑車」であるから、各ガイドの前後で糸に働く張力も「ほぼ」同じである。
そのため魚の引きは、「ほぼ」減衰することなくリールに伝達されることになる。「ほぼ」と前置きしているのは、理論上の滑車と違って、糸とガイドの接点にはある程度の摩擦が生じるからである。だから厳密に表すと下のようになる。ただ、先ほど述べたようにこの摩擦力は非常に小さい。
ガイドの摩擦が限りなく小さい場合、竿を立てても、リールにかかる力は不変である。竿を地面と平行にしようが、垂直に立てようが、糸の先が引っ張る力は糸を通した張力としてそのままダイレクトにリールに伝わる。ガイドが滑車としての役割を十分に果たす場合、これが成り立つ。
というわけで、
魚の引く力=(ガイドの摩擦力)+リールが引く力
であることが分かった。
この式から分かるのは、「竿の曲がり」がリールに伝わる力をほとんど考慮されない、ということである。ガイドの摩擦がほぼゼロの場合にこの等式が成り立つ。
おわりに
これでさて、今までの話で何かが置き去りにされている。実は「竿の曲がり」の正体は未だ説明されていない。実を言うと竿の曲がり自体は違うベクトルの力であり、今回はほぼ無視できるものとした「ガイドの摩擦」が関わる話となる。少々説明がややこしいので今回は省いたが、機会があれば補足として公開したいと考えている。
※補足記事を公開しました。
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