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【読書メモ】『月の影 影の海( 十二国記:EP1)』(著:小野不由美)

地位でもって礼を強要し、他者を踏み躙ることに慣れた者の末路は昇紘の例を見るまでもなく明らかだろう。そしてまた、踏み躙られることを受け入れた人々が辿る道も明らかなように思われる。

人は誰の奴隷でもない。そんなことのために生まれるのじゃない。他者に虐げられても屈することない心、災厄に襲われても挫けることのない心、不正があれば糺すことを恐れず、豺虎(ケダモノ)に媚びず、ー私は慶の民にそんな不羈の民になってほしい。己という領土を治める唯一無二の君主に。

出典:『風の万里 黎明の空』

物語の中とは言え、一つの理想の「王(指導者)」としての描かれ方をしています。地位を暴力(テロリズム)と読み替えれば、現実世界でもそれなりに考えさせられるトリガーになるのではないかな、と、パレスチナにとってのハマスの立ち位置を思い返しながら。

といっても、この物語の主人公たる陽子も最初からこんなに"出来た"存在であったわけではなく、前日譚となる『月の影 影の海』では挫折と屈折から始まっています、結構えげつない内容での。

そんな『月の影 影の海』、小野不由美さんによる大河ファンタジー「十二国記」の開幕の物語との位置づけ。主人公は、一見どこにでもいそうな女子高生、でも人とは違う"何か"を持つ「陽子」。

退屈ながらもなんてことのない日々の高校生活を送っていた陽子ですが、、ある日、金髪の男性に異世界に誘われるところからその物語が始まります。

流されるままに渡った先は文化も価値観も全てが異なっている世界、それでも不思議と言葉は通じ、一振りの剣と共に彷徨うことになります。

道中、これでもかと云うくらいに"人間"に裏切られ続けながら、元の世界を垣間見ても、友人はもとより両親からも忘れられつつありながら。

そんな負のエネルギーが覆いかぶさってくる状況は、徐々にしかし確実に、陽子を荒んだ心境へと追い込んでいきます。

それでも、行きつくところまで行きついて、堕ちそうになった限界での一つ出会いによって、少しづつではありますが、再生と自立への道に戻っていく事になります。

決して善意だけではないけれど、一つ一つを積み重ねていくことで救われていく、そんな風に自分を見つめ直しながら戻った道の先には、一つの"カタルシス"が待っています。

初めて読んだのはもう20年以上前、確か妹に借りて手にとって(講談社X文庫版でした)。妙にシステマチックでどこか社会実験をしているかのような設定とオリエントな雰囲気に引き込まれたのを覚えています。

背景の一つにあるのは、天帝や西王母などの古代中国の神話となりますか。当初少女向けに描かれたにもかかわらず、埋め込まれたテーマは重く、印象的でした。

さて、陽子の旅路の涯てに待っているモノは、、なんて思い出しながら、久々に再読したくなってきました。

以下、余談です。

昨年10月7日のイスラエル南部への襲撃は正しい判断だったとの回答は3分の2を占めたが、3月の前回調査から4ポイント低下した。ガザでは回答者の57%が「正しい判断だった」と答え、3月の71%から減少した。

出典:「パレスチナで「武装闘争」支持が54%に増加、ハマス40%=調査」
(「Reuters」2024年6月14日)

世論調査によると、ガザ地区住民の57%が10月7日の攻撃は誤った判断だったと考えている

ハマスへの支持はやや低下しているが、依然として最も人気のあるグループであることに変わりはない

出典:パレスチナの世論調査で、10月7日の攻撃に対する支持が大幅に低下していることが判明
(「ARAB NEWS Japan」2024年9月17日)

イスラエルが報復としても非対称さが過ぎ、明らかにやり過ぎていると思いますが、一方でパレスチナも我が事として「2023年10月7日のハマスによるテロ攻撃」を肯定している点には留意しておくべきかな、と。

AFP通信は多数の情報源を相互参照して、(2023年)10月7日に(ハマスに)殺害された1,195人のうち815人が文民だったことを明らかにした。武装組織は文民とイスラエル治安部隊員の計251人を人質としてガザ地区に連行した。AFP通信によると、(2024年)7月1日時点で116人の人質がいまだガザにいるが、そのうち少なくとも42人はすでに殺害され遺体となっている。このほか遺体35体はイスラエルに返還されている。

イスラエル南部での攻撃直後、イスラエル国防軍は激しい空爆を開始し、その後地上侵攻にも踏み切った。これは現在も続いている。ガザ保健省によれば、2023年10月7日から2024年7月1日にかけて殺害されたパレスチナ人は37,900人以上(大半は文民)にのぼる。イスラエル軍はガザの大部分を焦土化し、ガザ住民の大部分を避難させ、危険な状況に置いている。

ガザとイスラエルの武力紛争の全当事者は国際人道法を完全に遵守すべきだ。ガザのパレスチナ武装組織は人質にしている文民の即時無条件解放を行うとともに、戦争犯罪に責任のあるメンバーには適切な懲戒処分を行い、国際刑事裁判所(ICC)の逮捕状が出ている者については、訴追のための引き渡しを行うべきである。

一方の残虐行為が、もう一方による残虐行為を正当化しない」と、前出のソーヤー局長は述べた。「イスラエルとパレスチナでの人権侵害の終わりなき連鎖を止めるには、根本原因に対処し、重大犯罪の違反者に説明責任を果たさせることが重要だ。それこそがパレスチナ人とイスラエル人双方の利益になるのである」。

出典:「10月7日のハマスらによる人道に対する罪と戦争犯罪」
(「HUMAN RIGHTS WATCH」2024年7月17日)

双方に対してそれぞれ言及されていてバランスが取れているなと、個人的には。少なくともイスラエルだけを指弾しているようなインテリ層()のように偏らないよう気をつけておこう、とも。

結局は、まずはパレスチナ人がハマス(テロリズム)を否定しないと始まらないのですよ、と思います。

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