物語の中とは言え、一つの理想の「王(指導者)」としての描かれ方をしています。地位を暴力(テロリズム)と読み替えれば、現実世界でもそれなりに考えさせられるトリガーになるのではないかな、と、パレスチナにとってのハマスの立ち位置を思い返しながら。
といっても、この物語の主人公たる陽子も最初からこんなに"出来た"存在であったわけではなく、前日譚となる『月の影 影の海』では挫折と屈折から始まっています、結構えげつない内容での。
そんな『月の影 影の海』、小野不由美さんによる大河ファンタジー「十二国記」の開幕の物語との位置づけ。主人公は、一見どこにでもいそうな女子高生、でも人とは違う"何か"を持つ「陽子」。
退屈ながらもなんてことのない日々の高校生活を送っていた陽子ですが、、ある日、金髪の男性に異世界に誘われるところからその物語が始まります。
流されるままに渡った先は文化も価値観も全てが異なっている世界、それでも不思議と言葉は通じ、一振りの剣と共に彷徨うことになります。
道中、これでもかと云うくらいに"人間"に裏切られ続けながら、元の世界を垣間見ても、友人はもとより両親からも忘れられつつありながら。
そんな負のエネルギーが覆いかぶさってくる状況は、徐々にしかし確実に、陽子を荒んだ心境へと追い込んでいきます。
それでも、行きつくところまで行きついて、堕ちそうになった限界での一つ出会いによって、少しづつではありますが、再生と自立への道に戻っていく事になります。
決して善意だけではないけれど、一つ一つを積み重ねていくことで救われていく、そんな風に自分を見つめ直しながら戻った道の先には、一つの"カタルシス"が待っています。
初めて読んだのはもう20年以上前、確か妹に借りて手にとって(講談社X文庫版でした)。妙にシステマチックでどこか社会実験をしているかのような設定とオリエントな雰囲気に引き込まれたのを覚えています。
背景の一つにあるのは、天帝や西王母などの古代中国の神話となりますか。当初少女向けに描かれたにもかかわらず、埋め込まれたテーマは重く、印象的でした。
さて、陽子の旅路の涯てに待っているモノは、、なんて思い出しながら、久々に再読したくなってきました。
以下、余談です。
イスラエルが報復としても非対称さが過ぎ、明らかにやり過ぎていると思いますが、一方でパレスチナも我が事として「2023年10月7日のハマスによるテロ攻撃」を肯定している点には留意しておくべきかな、と。
双方に対してそれぞれ言及されていてバランスが取れているなと、個人的には。少なくともイスラエルだけを指弾しているようなインテリ層()のように偏らないよう気をつけておこう、とも。
結局は、まずはパレスチナ人がハマス(テロリズム)を否定しないと始まらないのですよ、と思います。