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【やさしい】体外受精・胚移植とはなんなのか【不妊症ガイド】
たなかゆうすけです。
不妊症のやさしいガイダンスです。
前回までのお話はこちら。
不妊の原因と治療についてお話しました。
そして、最終的に残る受精卵という問題は、体外受精・胚移植で緩和することができるということをお話しました。
では、体外受精・胚移植とは、いったいなにをやっているのでしょうか。
『受精卵』や『卵子』への直接介入はできない
『受精卵』や『卵子』へ介入するとして、どのようなものが考えられるでしょうか。
・卵子のクオリティを上昇させることで受精卵のクオリティを上昇させ、妊娠率を上昇させる。
・卵子のクオリティは変わらないが、受精以後の操作で受精卵のクオリティを上昇させ、妊娠率を上昇させる。
・良いクオリティの卵子のみを排卵させることで受精卵のクオリティを上昇させ、妊娠率を上昇させる。
といったところでしょうか。
これらはいずれも、治療として確立した方法はありません。
卵子のクオリティについては、喫煙習慣や睡眠、食生活などの生活指導を行うことがありますが、たとえば薬剤を内服するといったような治療行為としての介入に確立されたものはありません。
受精以降の操作については、そもそもおなかの中に排卵した場合に行うことはできません。
体外受精・胚移植では受精卵を体外で管理できますが、受精卵のいる環境を整えるといった、クオリティを下げない方向の試みがメインです。
受精卵のクオリティを大きく上昇させる試みはなされてきましたが、現在のところ確立した方法はありません(一部はまだ評価が定まっていないものがあります)。
おなかの中に排卵する卵子を選ぶことができたら、受精卵のクオリティが上昇するかも?
実際には排卵する卵子を選ぶ方法はありません。
このように、受精卵や卵子への直接介入は困難なのが実情です。
直接介入はできないが、対応方法はある
ではなにもできることはないのでしょうか?
そんなことはありません。
実際、体外受精・胚移植では、そこの『対応』を行っています。
直接介入は困難ですが、対応する方法はあります。
では、どのように対応をしているか見ていきましょう。
当たりが一定の確率で出てくるくじ引き
『子は授かりもの』といいますね。
妊娠については、昔からコントロールすることが難しかったため、このような言葉ができたのでしょう。
望んでいるときにはなかなか授からないけれど、なにかの拍子にポンと授かってしまう。そういったこともよくあります。
ある意味くじ引きみたいなものですね。
このくじ引きの仕組みはどうなっているのでしょうか。
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まず排卵が起こることが前提ですが、上図のように、排卵→受精→受精卵の発育→着床→妊娠成立までに、一個の卵子は一定の確率で脱落していきます。
おなかの中へ排卵した場合はこの過程は見えないのですが、体外受精・胚移植の場合はこの過程がある程度可視化されます。
体外受精・胚移植は、もともと受精の改善を行う方法です。
体外『受精』ですからね。
受精の過程には、介入は可能です。
受精卵自体への介入はできないというお話はしましたね。
着床への介入も体外受精・胚移植自体ではできないと、前の記事でお話しました。
では、残る排卵への介入は可能でしょうか?
答えは、可能、です。
そして、この排卵への介入が、体外受精・胚移植においてかなりの重要度を占めています。
数打てば当たるの論法
体外受精・胚移植で、成熟した卵子1個が状態の良い受精卵になる可能性は、約30%です。
もちろん、個々人で差はあります。
受精卵への直接介入はできませんので、基本的にこの確率はあまり変動することはないと考えてください。
体外受精・胚移植での最大の目標は、この状態の良い受精卵を確保することです。
状態の良い受精卵を確保できたら、子宮の中に適切な時期に入れるだけです。
では、どうやって状態の良い受精卵を確保できる確率を上げていきましょうか?
これはごく単純な話です。
くじを1回引けば、30%の確率で当たり(良い受精卵)がでてきます。
ちょっとズルをして、1回に10本くじを引いてしまえばどうなるでしょうか。
たぶん、その中に当たりは含まれているでしょうね。
少なくとも、含まれている確率は上がっているはずです。
つまり、排卵の個数を増やしてしまえば良いのです。
時間をかけて数を打っても仕方がない
トータルで10回くじを引けば、当たりが含まれる確率は同じです。
くじをどんどん引いていけるならそれもまた良いでしょう。
しかし、くじを引くには対価が必要です。
時間とお金というコストがかかります。
やりたいことは、『少ない時間とお金でくじを多く引きたい』ということになります。
体外受精・胚移植では、卵子の個数を増やすことで、これが実現可能です。
どうやって増やすかは、別稿で。
おなかの中に排卵する個数を増やすとどうなる?
鋭い方は、こう思うかもしれません。
それって、おなかの中に排卵する個数を増やしても、妊娠率は上昇するんじゃないの、と。
それはそうです。
しかし、それにはリスクが伴います。
排卵した後には、状況のコントロールは不可能になっています。
例えば10個排卵したとして、そのうち3個くらいが受精卵になって、そのすべてが着床したらどうなりますか?
おなかの中に赤ちゃんが3人できることになります。
2人以上の赤ちゃんを同時に妊娠することを多胎妊娠と言いますが、赤ちゃんが2人(双胎、双子)でもハイリスク、赤ちゃんが3人(品胎、三つ子)以上なら超ハイリスクです。
妊娠したは良いけれど、また別の問題が発生してしまいます。
場合によっては命にかかわることもあります。
このため、おなかの中へ排卵する個数は安易には増やせません。
リスクと引き換えに妊娠率を上げますか?
そのリスクはあなたが思っているより、ずっと大きいかもしれませんよ。
当たりを選ぶという行為
この多胎妊娠は、体外受精・胚移植でも当然問題になります。
体外受精・胚移植では、いったん卵子を体外に取り出して、体の外で受精卵ができるので、2個も3個も子宮の中に入れなければ、通常多胎妊娠にはなりません。
実はこの点に関しては、体外受精・胚移植のほうがむしろコントロールがしやすいところになります。
1個だけ子宮の中に入れれば、双子以上には通常なりません(なることがないわけではありませんが)。
ただし、1個だけ入れるには条件があります。
その1個で妊娠する可能性がある程度わかっているという条件です。
体外受精・胚移植の妊娠率にもっとも関係するのは、受精卵の状態です。
受精させた直後には妊娠率が全く分かりません。
この状態の受精卵を1個だけ子宮に入れても、結局のところ、当たるも八卦当たらぬも八卦、運試しになってしまいます。
これではすべての卵を順番に入れていって、当たるまで繰り返すことになります。
これでは、肝心かなめの受精卵というファクターに十分対応しているとは言えないでしょう。
では2個、3個同時に子宮の中に入れますか?
それでは、おなかの中でたくさん排卵させたときと同じことになりかねません。
つまり、体外受精・胚移植では、妊娠率のだいたいわかっている受精卵を1個だけ子宮の中に入れることが重要なのです。
理想的には、妊娠率の高い受精卵です。
それが、リスクを下げ(多胎妊娠を避け)、リターンを上げる(妊娠率を上げる)ことになります。
受精卵の選び方
では、その妊娠率はどうやって見分けていきましょうか。
それには、少しの時間が必要です。
受精直後は、受精卵がどのくらいのポテンシャルを持っているかは、ほとんどわかりません。
しばらく体の外に置いておくと、受精卵は自分の力で赤ちゃんになろうとして行きます。
あくまで、自分の力で、です。
この、体の外に環境を用意して受精卵を置いておくことを、胚培養と言います(胚とは受精卵のことです)。
なにかすごく特殊なことをしているように思われがちですが、やっていることは環境を用意して、発育を待っているだけです(だけとは言いますが、ここは培養士さんの腕の見せ所です)。
そして、受精してから5日も6日も経過すると、受精卵ごとの差が明確になってきます。
人の目で見てわかるくらいにはっきりとです。
受精卵が胚盤胞という状態になり、ある程度発育すると、胎盤になる細胞と赤ちゃんになる細胞にはっきりと分かれてきます。
それらの細胞の状態(数やボリュームなど)で妊娠率がある程度判別できます。
妊娠率が高いのは状態の良い胚盤胞になりますので、これを選び取るのが基本になります。
これはあくまで基本になりますので、受精卵を選ぶときの考え方については、また別稿でお話しましょう。
次回予告
結局、体外受精・胚移植は、排卵個数を増やしたうえで、妊娠率の高い受精卵を選び取り、同時に卵管と受精の問題も対応してしまうというものです。
では、これを踏まえて、現代の治療は体外受精・胚移植を軸に考えるということについてお話していきましょう。
妊娠を希望される皆様が、幸せな結末へたどり着けますように…
たなかゆうすけでした。
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