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VALISとおなかについて考える ~おなかは脱・偶像に挑む~


はじめに

 こちらは2024/10/12に開催された「Observer Effect 2」にて、タタミベリさん主催のおなか合同誌「ONAKA」に、つららが寄稿したおなかVALIS論考「VALISとおなかについて考える」の公開版となります。

 神椿スタジオが唱える強烈なナラティブから生まれた熱狂的なファンコミュニティによる次世代型UGC、「ONAKA」。
 「おなか」という極シンプルなテーマの下、数々のトレンドセッター達が飽くなき探求心から生みだした複雑怪奇なこの一冊は、単なるフェチズムを飛び越えた新たなる挑戦と呼べるでしょう。

 筆者もこの強烈なメッセージ性に心を奪われ、その渦中に身を投げ入れた一人です。今回は「おなかVALIS論考」「おなか伝奇ホラー小説」の寄稿という形で参加させていただきました。そのほか、表紙/裏表紙ロゴもお手伝いさせていただいています。
 タタミベリさん、貴重な機会をいただきありがとうございました。

 前置きが長くなりましたが、この記事はその中の「おなかVALIS論考」となります。コタツで寝ころびながら読めるようなトンデモ評論を目指しました。
 最近めっぽう寒くなりましたね。皆さんも体にお気をつけて、特におなかを冷やさぬよう、ご自愛ください。

 それではどうぞ!


VALISとおなかについて考える

 皆さんはバーチャルアイドルグループ「VALIS」のライブに行ったことはあるだろうか。もしくは観たことがあるだろうか。
 VALISはこれまでに、ワンマンライブだけで通算五回(2024年8月時点)、配信ライブやゲスト出演を含めると多くのステージを披露している。洗練されたダンスに、レッスンの積み重ねから裏打ちされた歌唱力、そして場数を踏んだメンバー達による魅惑的なファンサービス。バーチャルとオリジンの垣根を越えた彼女達の壮大無比なライブは常に圧巻であり、観客の心を掴んで離さない。
 もしもこの文章を読んでいる読者の中に、まだVALISのイベントを経験していない方がいれば、是非一度は足を運んでいただきたい。そこで繰り広げられる彼女達のショーは、きっとあなたを虜にすることだろう。

 すると、一つの疑問が浮上してくる。回を追うごとに迫力を増す彼女達のライブがこれほど盛り上がる要因とは、一体何だろうか?
 圧倒的な表現力。魅力的な楽曲の数々。VALISが持つ唯一無二のテーゼ。これらもまた答えと言えるだろうが、しかし要素の一つに過ぎない。VALISをVALISたらしめる本質とは何か。
 ここで僭越ながら私から、新たな答えの可能性を提示させていただきたい。そう、おなかである。


 VALISにおいて最も重要視されるものはおなかである。そう聞くと少しばかり飛躍した意見なのではないかと思われるだろう。それでは、ここからはなぜVALISにとっておなかが重要となるかを解説していこう。
 VALISのステージは、フォーメーションダンスを基本としている。これは隊列を組んで集団としての美を追求し、時には立ち位置や振付の入れ替えを行う踊り方である。多種多様な構成により観客を飽きさせない、多人数ユニットならではのダンスと言えるだろう。
 現在でこそ互いに盤石の信頼を築き上げたVALISだが、デビュー当初はメンバー同士が反発しあうまとまりのない六人の集まりだったと言えば、驚く者は少なくないだろう。彼女達は四年間の活動のなかで徐々に一つのユニットとしての結束感を強め、現在ではバラエティ豊かな個性が各々を高め合う、独創的な世界観とパフォーマンスを披露するに至った。VALISとダンスには、切っても切ることのできない深い関係性があるのだ。
 フォーメーションダンスを行うにあたって重要となるのが、ステージ上の移動である。激しい振付を繰り広げながらの移動が困難を極めることは、想像に難くない。それを可能とするには、まず人体の重心を意識する必要がある。すなわち、おなかである。
 美しいターンやステップも、安定した体幹なくしては実現しない。それらは確かに彼女達のダンスをより鮮烈に印象付けるが、おなかは決してそれらに従属するものではない。むしろ、このとき意識の集中するおなかこそが、彼女達の躍動を私たちの目に送り出す主体なのである。おなかには、その美貌(こちらの美しさについては是非ご自身の目で確かめてほしい)を誇るだけではない、VALISの要となるダンスを実現するためのもう一つの役割が備えられていたのだ。


 余談となるが、おなかとは何も人体の胴のみを指す言葉ではない。他にもおなかの対象となる部位は存在している。それは何処か。指である。
 気を付けの姿勢を取った時に太ももに触れる部分。指先における爪の反対側。指紋がついている範囲。私たちはこれをしばしば「指の腹」と形容する。腹、すなわちおなかだ。指にもおなかは存在するのだ。
 これは単なる言葉遊びではない。前述したおなかの主体性は、当然ながら指にも見てとることができる。アイドルであるVALISがファンサを行う際には、客席へ向かって指を用いてその愛情を表現する。その様式は多岐にわたり、ハートマークや指差し、投げキッスなど様々である。このようにVALISとファンの交流においても、おなかは現れる。


 さて、このあたりで本旨に戻ろうと思う。続いては、VALISというグループの特色について考えてみたい。彼女達の活動背景には、何かに挫折した過去を持つ女の子たちがバーチャルの世界に挑み、改めてオリジン元来の輝きを取り戻す、というストーリーが存在していた。そのため、彼女達はバーチャルとオリジン二つの姿を持っている。
 同時に、彼女達はアイドルであり、まなざされる存在である。アイドルである彼女達の一瞬一瞬は、多くの人の手を通じて常に客体化されている。ステージに立った彼女達は、即座に誰かに意識される対象となる。
 この瞬間、VALISのステージがおなかによって支えられているという事実に重みが生まれる。私たちは、彼女達がVALISというグループに込めた願いや、活動を通じて届けたい思いを知っている。おなかは、そんな彼女達の熱い想いを消化し、より情熱的なパフォーマンスへと昇華させる。それはただ見られているのではない。おなかは見せるものなのだ。
 私がVALISのおなかを特に重要視してきた理由はここにある。おなかはVALIS自身の身体を飛び越え、アイドルという構造においてもその主従関係を逆転させ、脱却したのだ。

 さて、本稿ではVALISとおなかについて様々な角度から論考を行ってきた。おなかには、VALISを単なるアイドルに留めない「脱・偶像」という可能性が秘められていたのである。アイドル業界においても特異な存在である彼女達の秘密は、そのおなかにあったのだ。
 最後となるが、ここまでお付き合いいただいた読者の皆さんに一つお願いをさせていただきこうと思う。是非VALISのライブに参加し、一緒におなかから声を出して彼女達を応援してほしい。そのとき、私たちはきっとバーチャルやリアルの垣根を超えた感覚を手にすることだろう。

VALISとチノ先生に愛を込めて つらら(2024/11/08)


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