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麻布市兵衛町

「我善坊谷」について書いた時に少し触れたのだが、現在のアークヒルズ 仙石山森タワーのある辺りはかつては財務省(大蔵省)所管の土地であり、その前は皇室所有の東久邇宮邸、その前には江戸幕府第14代将軍・徳川家茂の正室、いわゆる皇女和宮が晩年、静寛院宮として生活していた場所であるという。このあたりの経緯は鈴木博之 (著)「日本の地霊(ゲニウス・ロキ)」に詳しい。

またその向かいのエリア、現在は再開発で地形まで変わってしまっているのだが、御組坂(おくみざか)の坂下には、明治から昭和にかけての文豪、永井荷風の邸宅があった。

「十一月十三日。市兵衛町崖上の地所を借る事に決す。建物会社社員永井喜平を招ぎ、其手続万事を依頼せり。来春を侯ち一廬を結びて隠棲せんと欲す。夜木曜会運座に往く。
五月廿三日。この日麻布に移居す。母上下女一人をつれ手つだひに来らる。麻布新築の家ペンキ塗にて一見事務所の如し。名づけて偏奇館といふ。」(永井荷風「断腸亭日乗 第一巻」)

永井荷風は1920年(大正9年)から1945年(昭和20年)の東京大空襲で焼失するまで、この偏奇館で暮らしている。「濹東綺譚」などでも書かれているが、都電などをつかって新橋や浅草、そして玉の井まで足を延ばしていた。またカフェーの女給に金をせびられ、近くの派出所に相談したなどと「断腸亭日乗」にかかれているが、その派出所は(建替えはされていたと思うが)90年代末まではあったと記憶している。

西側の谷に降りれば地下鉄南北線六本木一丁目駅、逆に東側を降りれば地下鉄日比谷線神谷町駅なのだが、将来的には地下で両駅がつながるらしい。今のところ、それがいつになるかはアナウンスがない。

(撮影 2023)

model;tulle(Instagram


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