南青山 1
青山には「青山」という行政上の地名は無く、北東から南西に走る青山通りを挟んで北青山・南青山と分かれている。さらに東から西に向かって青山一丁目、二丁目といった具合の町割りになっている。青山墓地があるのは南青山二丁目だが、隣の南青山一丁目とは六本木トンネルから北に伸びる道で、南青山三丁目四丁目とは外苑西通りで隔てられる。
青山墓地は東西の谷に挟まれた台地の上にある。目貫通りは東西南北に走り、中央部で十字に交差する。東西の道路は乃木坂トンネルを出た所で高架で都道319号環状三号線を超え、青山墓地を抜けた所で再び高架で外苑西通りをまたぐという、東京の谷戸を象徴するような立体構造になっている。この道路は南青山4丁目を抜けた所で南にカーブし、広尾、恵比寿駅を経て駒沢通りにつながっている。この辺りの道路整備が完成したのは割と最近の事で、六本木トンネルが93年、乃木坂トンネルが97年に開通、どちらももっと前から工事がされていてほぼ完成の状態が長く続いたが諸問題で完成は遅れた。また駒沢通り方面への接続も道路が接続したのは12年である。
西側の谷にはちょうど青山通りを分水嶺とする形で、青山通りの梅窓院辺りを最北の水源とし根津美術館辺りの湧き水などを集める笄川が流れていた。現在もその暗渠上は道路となっており、「SKI SHOP JIRO」の裏手側、ステージ後ろの壁の大きな月で知られるライブハウス「月見ル君想フ」の前、世界的に知られるファッションデザイナー森永邦彦さんのブランド「アンリアレイジ」のフラッグシップショップ前など、その跡をたどることができる。笄川は西麻布交差点の少し西側を通り広尾橋で有栖川公園側からの水を集めて、天現寺橋で渋谷川と合流する。
谷がある以上、そこに向かって降りていく坂がいくつもある。かつてのこの土地の豪族の姫が人の目を忍んで白金の若君に会いに行くために下った坂は姫降坂というロマンティックな名前がついている。
広大な墓地周辺は最近は人通りは増えているようだが、青山通りから西麻布交差点付近までの青山墓地横の道は普段は人も多くない。今以上にかつては寂しい通りであり、また東側には斎場などもあることから、墓地横でタクシーに乗った女性客が運転手がミラーで後部座席を見ると消えていたなどという昭和怪談の舞台でもあった位である。またその人通りの無さを利用して、写真家の篠山紀信は都市の中のヌード作品を撮影していたが(「20XX TOKYO」シリーズ、09年)、誰にも迷惑をかけていないにも関わらず、何故か警察沙汰になっている。
(撮影 2023/4)