クローネンバーグは夢心地
新作「クライムズ・オブ・ザ・フューチャー」はクローネンバーグ節が利いていて、古巣に帰ったような懐かしさだった。といっても、クローネンバーグ作品はかじった程度なのだが。
私的フィルモグラフィ
出会いはたぶんテレビで放送されていた「ザ・フライ」(1986)。
あの設定には妙に納得してしまった。ハエと人間が一緒にいったん分子レベルまで分解されて合成されたら、ハエ男に……なるよな。再放送でも何度か鑑賞。
つぎに、クローネンバーグ作品と知らずに「エム・バタフライ」(1993) を。ちょうど「さらば、わが愛」の頃、京劇に惹かれて見にいき、ジェレミー・アイアンズにやられて映画館を後にした。その後京阪神のミニシアターをはしごし、デヴィッド・ヘンリー・ウォンによる原作も購入。
そして、ジェレミーつながりで「戦慄の絆」(1988) にさかのぼる。古本屋でパンフを入手。わたしのドッペルゲンガー好きの原点はここら辺かもしれない。
ジェレミーが一人二役について語っていたActors Studioのインタビューが面白かったのだが、YouTubeに見当たらない。たしか喉仏で声を響かせるのが Elliot、脱力して頭頂部から発声するのがBeverlyと言っていたと思う。キャラの演じ分けは予告編でも一目瞭然だ。
新作「クライムズ・オブ・ザ・フューチャー」
遅刻していき、最初に見たのがオーキッド・ベッド。大事なシーンを見逃したと後で知る。
人間は眠りのなかでしか痛みを感じないという設定なのに、主人公が夢をみて痛がっている大事なシーンで寝落ちした。他にもあちこちで意識が途切れた。不覚……
ただ、最後の手術シーンで
"Born this way."
と聞いたとき、頭のなかでイメージが接続した。スクリーンに映る被膜にサインが書かれた臓器と、記憶にある骸骨のタトゥーがはいった顔。
Born This Way をヒントに
映画の欠落部分を確かめるかのように、MVを見た。かつては意味不明に思えた歌の前後の語りが、クローネンバーグの世界観を通すとふしぎと明確に響く。
神のつくったものだから、他人と違っても、どんな形態でもあなたは美しいとGagaは歌う。DNAが同じであるかぎり。
でも、この映画のように、多様性がDNA変異の現れだったとしたら? 臓器を生み出す人間、プラスチックを食べる人間を、わたしたちは美しいと言えるだろうか。個性として受け入れるだろうか。
バイオ・ホラーの発見
クローネンバーグのテーマは「ザ・フライ」の頃から、いやたぶんもっとずっと前から一貫している。今回、動物(とくに昆虫)の生態に幼少期から興味を持っていたというインタビューを読んだ。
そして『ホラー小説大全 完全版』では、クローネンバーグが「ボディ・ホラー」「バイオ・ホラー」と定義されていた。
そうか! わたしはホラーよりもバイオの部分に惹かれていたのだ! なぜクローネンバーグなのか自分でもわからなかったが、これでようやく腑に落ちた。