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降霊術とミステリ「船長の話」

『吟醸掌篇vol.5』女性作家ミステリ号に翻訳で参加しました。
レベッカ・ハーディング・デイヴィス「船長の話」(1866)をご紹介します。

降霊術をたのみに失踪事件の解決を試みる、という一風変わった設定の作品です。でも、これをオカルトじみたミステリと思うのは現代人の早とちりかもしれません。

語り手はミシシッピ川とオハイオ川を航行する蒸気船の船長。
ある日、部下のジョーが忽然と姿を消してしまう。
失踪したジョーの妻子を乗船させたことから、船長は彼の行方を探すのに協力することになるが、その謎解きはしだいに別の方向へ――。

乗客のなかに霊視能力のある若い女がいたのを皮切りに、寄港した先々でも霊媒が登します。三人の霊媒師は年齢も経歴も異なり、それぞれの手法で霊視や降霊をしてみせます。

作中に出てきた地名をひろっていくと、こういう感じ。

降霊術ブームまっただ中の時代に、降霊術にたよるひと、降霊師として生きるひと、その時代背景を、こんなに俯瞰して描いているのです。

ちなみに地図上の家のマークは、作家の故郷ウィーリング(Wheeing)。
終盤にさらっと出てくる「第三十六オハイオ歩兵連隊」は実在し、ウィーリングで解隊したそうで、作家が身近な時事問題にヒントを得ていることがうかがえます。

当時のアメリカの社会派ミステリともいえそうな「船長の話」。
デイヴィスの作家紹介と併せて『吟醸掌篇』で楽しんでいただけたらと思います。

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