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町家オープンカレッジ「きっかけは東北、持続可能な水産業の未来」開催レポート
2019年9月19日、水産業をテーマに町家オープンカレッジ(MOC)を開催しました。ゲストは、ヤフー株式会社石巻ベースに勤務する会社員でありながら、地域や職種を超えた漁師集団フィッシャーマン・ジャパンを立ち上げるなど、多岐にわたる活動を行なっている長谷川琢也さんです。長谷川さんが目指す日本の水産業の未来とは?イベントの様子をご紹介します。
長谷川 琢也 (はせがわ たくや)氏
1977年3月11日生まれ。ヤフー株式会社石巻ベースに勤務。
自分の誕生日に東日本大震災が起こったことをきっかけに、東北に関わり始める。
被災地の農作物や海産物、東北の歴史が息づく伝統工芸品などをネットで販売する「復興デパートメント」立ち上げなどに従事するなかで、震災復興を超え、漁業の未来をみつめる漁師たちに魅せられる。
漁業を「カッコよくて、稼げて、革新的」な新3K産業に変え、 担い手があとを絶たないようにするため、地域や職種を超えた漁師集団フィッシャーマン・ジャパンを立ち上げる。
そもそも、町家オープンカレッジとは?
町家スタジオにて、ツナグムが不定期に開催している学びの場。ツナグムのメンバーが学びたいことを実践するイノベーターをお呼びし、これからの京都や仕事について考える場です。
震災をきっかけに立ち戻った自分の原点
横浜出身である長谷川さんが、なぜ東北に深く関わるようになったのか。そんなお話からトークイベントがスタートしました。
「もともと自分は東北とは縁もゆかりもありません。誕生日が3月11日、いわゆる3.11なので、勝手に運命を感じて東北に通うようになって。もうかれこれ7~8年、東北に関わっています」
もともと地方が好きで、バイクで日本各地を訪れていたという長谷川さん。いつかインターネットを使って地方を元気にしたい。そんな志を持ってヤフーに入社したものの、思いを形にできないまま仕事に追われる日々を過ごしていたそうです。
「震災をきっかけに東北に行って、思い出したんですよね。地域の良さや自然の豊かさ。都会のインターネット企業に染まってしまっていた自分を変えてくれた。いろいろなことを教えてくれて、感動を与えてくれた。だから自分だけでなく、都会の人たちが地域の良さを再発見することで、感動したり、本来の日本人の在り方みたいなものを思い出したりするきっかけに、絶対なるなと思いました」
原点に立ち戻り、決意を新たにした長谷川さんは、被災地の農作物や海産物、伝統工芸品などをネットで販売する「復興デパートメント(現在はエールマーケットに改称)」をはじめ、東北の地でさまざまなプロジェクトを立ち上げていきます。
震災の翌年には、ヤフーの事業所としてヤフー石巻ベースを拠点に構え、家族とともに石巻に移住。東北にさらに深く関わるようになっていきます。
漁業と出会い、新たな取り組みへ
東北の人々と関わるなかで、長谷川さんが出会ったのが漁業でした。
「復興デパートメントでさまざまな業種の人たちと知り合って、そもそも東北の食や文化のルーツは何かと考えると、やっぱり海なんですね。とくに津波の被害を受けた沿岸部の地域は、加工品はもちろんお祭りなどの文化も、どんなことも海から始まっているんです」
そこで、漁師と会って話をした長谷川さんは、漁業が多くの課題に直面していることを知ります。
さらにデータを調べていくと、日本の漁業を取り巻く状況は厳しいものでした。
漁師の数が減り、平成5年には32万5000人ほどだったのが、平成30年には15万人台に。25年の間に半数以下にまで減少している。
日本人の人口が減り、さらに一人あたりの魚の消費量が減少。現在は肉の消費量のほうが上回っている。
かつては世界一だった漁業生産量も、今はどんどん下がってきている。
そんな現状が見えてきました。
(長谷川さん講演資料より)
しかし、さらに詳しく調べると、意外な事実が浮かび上がってきました。
「実は世界は、日本の真逆。人口が増え、一人あたりの海産物を食べる量もどんどん増えている。漁業生産量はこの30年で倍以上、3倍近くになっているんですよ」
世界では、漁業は成長産業。このことを知り、長谷川さんは日本の漁業の可能性を見出しました。
「FAOという国際機関によると、2025年、漁業の成長率は日本以外は全部伸びると予測されています。伸びしろがめちゃくちゃあると期待される中、縮小してるのは日本だけじゃんって」
(長谷川さん講演資料より)
日本の漁業をなんとかしたい。そのことによって、東北の復興を超えた何かを生み出せるかもしれない。そんな思いを抱き、長谷川さんは漁業の分野に取り組むことを決意します。
漁師集団「フィッシャーマン・ジャパン」の誕生
2014年、長谷川さんは漁師集団「フィッシャーマン・ジャパン」を立ち上げました。
地域の枠を超えた団体であることが重要だと、長谷川さんは語ります。
「漁師って浜ごとに小さい集落に分かれてるんですけど、隣の浜とすぐケンカするんですよ。自分のワカメが一番うまい、隣のワカメが世界で一番まずいんだ、みたいな(笑)。めちゃくちゃ狭い世界だったんで、そんなんじゃダメだ、地域を超えた強いチームをつくろう、ということで生まれたのがこの団体です」
フィッシャーマン・ジャパンの立ち上げには、漁師8人、魚屋3人、事務局2人の計13人が参加。職種の枠を超えたチームであることもポイントだといいます。
「魚屋と漁師って、基本的にはケンカすることが多いんです。小さな漁村の中で、高く売りたい漁師と、安く買って自分の利益を増やしたい魚屋。そんな小さなところでケンカしてるからダメなんだと。手を組んでチームを作って、自分たちの誇りであるすばらしい海産物に、いかに価値を付けて売るか。それを一緒に考えよう、ということで魚屋が3人入ってくれました」
フィッシャーマン・ジャパンが掲げるコンセプトは、「新3K」。
水産業を「新3K=カッコよくて、稼げて、革新的」な産業に変えることをめざし、活動しています。
「漁師が増えないのはなんでだろうって考えた時に、キツい、汚い、稼げないとか、危険だ、腰が痛い、結婚できない、とか。ヤバい“K”が多すぎる、と(笑)。それをひっくり返さないと、未来につながる誇れる産業にならない。そこで作った言葉が、カッコいい、稼げる、革新的、という新3Kです」
この言葉ができたのは、実はフィッシャーマン・ジャパンの立ち上げよりも後だったといいます。
「団体を立ち上げて、メディアにもたくさん取り上げていただきました。でも、ただ注目の波に乗るんじゃなく、自分たちのブレない軸、倒れない旗を立てよう、と。団体ができた後に、メンバーとめちゃくちゃ話し合ってこの言葉をつくりました」
新3Kを実現するというミッションを共有していることが、フィッシャーマン・ジャパンの活動を続けてこられた重要なポイントだと長谷川さんは語ります。
「5年間、横の繋がりを壊さずに団体を続けてこられたのは、このミッションがあったからだと思います。だから、もしこれから何かを立ち上げたい人にアドバイスをするとしたら、めんどくさいし時間かかるんですけど、まず良い仲間を見つけて、その仲間たちとミッションを共有しながらやることが大事だなと思います」
さまざまな活動を行なっているフィッシャーマン・ジャパン。なかでも特に力を入れているのは、新たな漁師、担い手を増やすための活動です。
移住定住のために必要なことは何か。長谷川さんは、「家、仕事、コミュニティ」の3つだと考えました。
「まず家がないと、その土地で生きていけない。でも、被災地では物価や土地の値段が上がっていて、とても弟子時代に払えるような家賃じゃなかった。だからまずは家を整備することにしました」
仕事に関しては、漁師の親方と弟子をマッチングする制度や、漁師専用の求人サイトを立ち上げるなどの取り組みを行ないました。
「もう1個、大事なのはやっぱりコミュニティ。漁村にポツンと一人で若い子が入り込んでも、文化が合わないし言葉もわからないし、さみしいですよね。だから、横のつながりや地域の同期みたいなものを増やそうと、シェアハウスをつくりました」
こうした活動が実を結び、現在では石巻への移住者の数は35人を超えたといいます。
ほかにも、ユニークな取り組みとして話題になったのが「フィッシャーマンコール」。漁師が海から電話でモーニングコールをしてくれるというこのサービスは、メディアでも多く取り上げられました。
アパレルブランドと連携してワークウェアを開発するなど、他業種とのコラボレーションが多いのも特徴。
ほかにも、イオンに直売コーナーをつくったり、西友で国際認証を受けた魚を販売したり、さまざまな企業との連携が進んでいます。
人と人をつなぎ、強いチームを作る
東北での実績が認められ、今では他の地域の漁業団体立ち上げなどにも携わっているという長谷川さん。数々のプロジェクトを実現させてきた、その秘訣はどこにあるのでしょうか。
「自分はよく“つなぎ役”と呼ばれます。自分は漁師でもないし、職人でもない。でも、自分ができないことでも、できる人を集めてくっつけちゃえばできちゃうんです。いろんな人を巻き込んだりつないだりすれば、一人でできないことができちゃうってすごいことだと思います」
プロジェクトを成功させる上で、人と人をつなぐこと、そして、チームを作ることが大事だと長谷川さんは言います。
「よく若い子に言っているのは、“枠も壁もハードルも気にするな”ということ。これは僕の仕事、これはあなたの仕事、とか。これは僕にはできません、とか。今の若い子はすぐ壁をつくりがちなんですよね。でもこのイベントだって、多種多様な年齢、職業の方が集まってますけど、隣の人との間に、壁ないですよね?自分の肩書や役割といった壁にとらわれないことで、チームとしてできることが増えると思います」
地域や職種の枠にとらわれず、見えない壁を取り払う。
人と人を繋いでチームを作り、思いを共有しながら取り組む。
水産業だけでなく、地域に携わるうえでのヒントとなるキーワードがたくさん詰まった長谷川さんのお話でした。
トークイベントの後の交流会では、一次産業や環境問題など、さまざまな興味を持ってこの場に集まった参加者同士の交流も深まりました。
▼次回の町家オープンデイは?
10月17日、「社会と自分をつなぐロールプレイング 〜 N P Oゲーム体験会 〜」を開催します。ぜひご参加ください。
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