藤井のおじいちゃん
お憑かれさまです。怪談師 ピオーネです。
今から10年前、僕が調理の専門学校を卒業し、地元を離れ、O市で学校給食の調理の仕事をしていた頃の話です。
初めての仕事だったので、右も左もわからない状態で、メモを取ったり、分からないことを聞いたりと、不器用ながらも仕事をこなしていました。
一人暮らしの最中、実家の母から連絡があり、電話にでると
「あぁ ピオーネ 今ちょっといい?」
と前置きをして、
話し始めたのは、藤井のおじいちゃんが病気で入院したとの内容だった。
藤井のおじいちゃんは、私から見ると父方の祖父にあたり、私が子供の頃、よく面倒を見てくれていたおじいちゃんだった。
母が言うには、
「誤嚥性肺炎」で食べ物が喉を通らず、点滴を打つようになった
と、電話越しに伝えられた。
私は職場に休暇をもらい、藤井のおじいちゃんの入院している地元の病院へ母と一緒にお見舞いに行った。
病室に入るとベットに横たわり、点滴に繋がれているおじいちゃんがいました。
私はおじいちゃんに
「大丈夫?」
と声をかけ話をしました。お土産で"桃ようかん"を渡しました。
仕事で習った知識ですが、"スベカラーズ"というものがあり、これをミキサーでお粥などと一緒に混ぜると流動食になり、飲み込まずに食べることができるというものがあります。
看護師さんにそのことを頼み、おじいちゃんにも伝えると、おじいちゃんは
「有難う」
か細い声で言ってくれました。
しばらく話をしていると、看護師さんが「おじいちゃんは無口なのかな?」と聞くと、おじいちゃんはニコッと笑って、「ばーか」と言いました。そんなやりとりを見ながら、私と母はホッとしました。
看護師さんに挨拶をして帰宅しました。
一週間後、母から電話がなった。
「藤井のおじいちゃんが亡くなった。」
と知らされました。職場に忌引をもらい実家に帰ると、母はお通夜のため家を空けており、実家には誰もいなかった。
私は、明日の葬式に参列するのみ。一人テレビを見ていた。
しばらくみていると、
視線を感じ、左を向くと、
藤井のおじいちゃんの顔があった。
私の肩口のところに。
一瞬、びっくりしたが、次の瞬間には安心感に包まれた。
その顔は苦しそうでもなく、助けを訴えるでもなく、あの病室で見せてくれた笑顔のままだった。それを見て安心そていると、スーっと消えていった。
その次の日、私は葬式に参列し、藤井のおじいちゃんを天国に見送った。
後日、私は母に話てみた。すると、母は「ああ、ピオーネのとこにも来てくれたんだ」
と言い、詳しく聞くと母がおじいちゃんのお墓の前で手を合わせて帰ろうとして背を向け、歩いていると、
急に呼ばれている気がして振り返ると、
お墓の塔婆が左右に揺れていた。
それはまるで、有難うと手を振っているようだった。