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聖杯大戦、開幕。『Fate/Apocrypha』(アニメ)

 本作は東出祐一郎による同名小説のアニメ版。『Fate/stay night』とは異なる歴史を歩んだ世界を舞台に語られる、これまでにない新たな形の聖杯戦争が幕を開ける。

第二次世界大戦前夜、日本の地方都市・冬木で執り行われた第三次聖杯戦争において、ユグドミレニアと呼ばれる魔術師の一族がナチスと共謀して万能の願望機である「大聖杯」を強奪、聖杯戦争を強制的に終了させてしまう事件が発生する。
それから60年後の現代、ユグドミレニア一族の指導者ダーニック・ブレストーン・ユグドミレニアは聖杯をシンボルに掲げ、魔術師を統括する「魔術協会」からの離反を宣言。この報告を受けた魔術協会はユグドミレニア討伐の部隊を派遣するが、ダーニックが召喚したサーヴァントによって壊滅する。
しかし、部隊最後の生き残りの一名が、聖杯戦争の緊急システムの起動に成功していた。聖杯戦争のために召喚された7騎のサーヴァントが全てユグドミレニア陣営によって独占された膠着状態を解決するため、新たに7騎のサーヴァントが召喚され、魔術協会も聖杯戦争に参戦。かくして、ユグドミレニア一族こと「黒の陣営」と、魔術教会一派による「赤の陣営」による、7騎対7騎のサーヴァントが対立する「聖杯大戦」が始まった。

 聖杯の強奪という大事件をきっかけに、『stay night』にて描かれた第四次聖杯戦争が起こらなかった"if"の世界。その結果生じた「聖杯大戦」というイレギュラーなルールによって、これまでのシリーズとは全く異なる聖杯戦争が描かれることが『Apocrypha』の見どころとなっている。

 それぞれが聖杯に願いを託すマスターとサーヴァントを1組として、あくまで個人戦が基本だったこれまでの聖杯戦争に対し、今回の聖杯大戦はチーム戦。異なる能力や宝具、性格のサーヴァントの連係が求められる団体戦であり、サーヴァント同士が連携して戦う、シリーズでも異色のシチューションが本作の醍醐味だ。遠距離攻撃を得意とするアーチャーが後方支援を行い、前線ではセイバーやランサーが八面六臂の活躍を魅せる。さながらシミュレーションゲームじみたロールをこなすサーヴァントたちのチームプレイは、それ自体が新鮮で面白い。

※以下、本作の核心に触れる記述があります。
未視聴の方はご注意ください。

 英霊・英雄大合戦の様相を呈する聖杯大戦こそがこれまでの作品にはない魅力を放っていた一方で、その他の要素については新鮮味に欠けているように感じられる。というより、第1話冒頭で示された「人が願いを叶える物語」というコンセプトに忠実に、文句の付け所がないほど綺麗に着地してみせたにも係わらず、その過程も結末も手垢のついたものであった、という印象を受けた。

 その“人”が誰を指すかと言えば、主人公にあたるホムンクルスの少年ジークである。魔力供給のための人形としてユグドミレニアに造られた大勢の内の一体だったにもかかわらず、死への恐怖から自我に目覚め覚醒した存在。そして、自身の命を救った英霊ジークフリートへの変身能力を身につけ、自らが得た自由と命を価値を見定めるために闘いに身を投じていく。

 やがて彼は全ての人類の魂を物質化させ、恒久的な「救済」を目論む天草四郎時貞の思想と対立し、人の善性を信じる心でそれに打ち勝つ。天草四郎の願いによって起動した大聖杯を止められないと悟ったジークは、己に宿ったジークフリートが挑んだ邪竜へと自らを変貌させ、大聖杯もろとも世界の裏側へ旅立つことで人々を救う。

 肉体を捨てさせることで人類に革新と平和を促す黒幕、自己犠牲で大勢を救う主人公。どこかで観たような動機、どこかで観たような結末…。『Zero』では願いが絶望に裏返る慟哭が、『Unlimited Blade Works』では理想の限界を突き付けられてもなお進み続ける意思を問う物語が、忘れがたい印象を残してきた『Fate』のこれまでのアニメ作品と比べて、それに匹敵する衝撃を、本作からは得ることが出来なかった。

 登場人物を徹底的に追い詰め、それでもと願い続けること、理想や信念の尊さを描いた『Zero』~『stay night』の過激さ熾烈さに魅了された身にとって、本作は物足りなさを感じてしまった。それが執筆者の相違によるものか、あるいはこちらの身勝手なハードルゆえのものかは判別つかないが、これまでの作品が纏っていたダークな作風にこそ惹かれていたことを、自覚するに至った全25話であった。


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