『アイカツスターズ!』みんなの「ゆめ」が叶うとき、それが新たなスタートライン!
『アイカツスターズ!』全100話、ついに完走した。「あと99話もあるのか」と慄いたのが二か月前で、今では「あと4話しかない」と終盤の話数の鑑賞を限界まで先送りした挙句、覚悟を決めてゴールテープを切った。そこに待っていたのは、彼女たちのアイカツがこれからも続いていくことを示す、未来へ伸びる鮮やかな虹だった。
一年目:自分らしく輝くために。
『アイカツスターズ!』は、トップアイドルグループ・S4、その中でもセンターを務める白鳥ひめに憧れる虹野ゆめが、幼馴染の七倉小春と共に全寮制のアイドル学校・四ツ星学園に入学するところから始まる。他の誰でもないその人だけの「個性」を磨くことを重視する校風ながら、当初ゆめは「ひめ先輩のようになりたい」と言うばかりで、自分だけのアイドル像を見出すことができなかった。
そんな駆け出しの中で、親友でありながらライバルとなる桜庭ローラとの出会い、他の組に属する一年生の香澄真昼や早乙女あことの交流を深め、さらには自身に科せられたとある「力」と向き合うことで彼女がどんな成果を果たすのか。その過程を50話という贅沢な時間を使って描き出すのが、一年目の物語である。
アイドル活動、すなわち「アイカツ」の定義は広い。自分を応援してくれるファンのため、あるいは自分自身がパフォーマンスを楽しむため。はたまた、勝ちたい相手がいるから自分の能力を伸ばしていく。アイドルとして高みを目指し、より輝きを増していくための努力を、本作では総じて「アイカツ」と呼称する。ゆめはようやく見つけたなりたいアイドル像に向けて、ローラは勝ち負けに囚われない自分らしいアイドル像に向かって切磋琢磨していく。小春は、一度は四ツ星を離れるも異国の地で自分の長所を伸ばし、真昼は自身の憧れと正面からぶつかり、あこは悩みぬいた末にファンの声に応えることを選び取る。
その積み重ねの集大成となるのが、一年目終盤に開かれるS4戦である。四ツ星の門を叩いた者なら誰もが目指す、頂点の座。全てはこの時のためと言わんばかりの、毎話毎話が最終回の如き熱量を放つ初年度のクライマックス。ことS4戦が印象的だが、『アイカツスターズ!』の全100話に通底しているのが、夢の成就と挫折を描く「勝ち負け」のドラマであることだ。
本作に登場するアイドルは誰もがオーディションやトーナメントといった闘いに挑み、その競い合いの中で切磋琢磨して成長していくのだが、勝者がいれば敗者がいるのもまた必然。勝った者は夢を叶えまた次の目標へ進んでいく中で、敗者はその悲しみを胸に「それでも」と言い続ける覚悟を試される。アイドル一人一人が背負うドラマがどのように結実するか、その集大成が「勝敗」という形で可視化され、どんな学びを得るのか。言葉に気遣わなければ露悪的になってしまうが、S4決定戦に向かっていくにつれストーリーはよりドラマティックに、面白さを増していく。
二年目:孤独の女王様を救え!
熾烈なS4戦の結果、ゆめ・あこ・真昼・ゆずがその座をつかみ取った。26代S4として目覚ましい活躍を遂げる彼女たちの前に、同じくアイドル養成校であるヴィーナスアークが現れる。その船長にしてパーフェクトアイドルを自称するエルザ・フォルテは、自身を含む9人がアイカツシステムに認められ「星のツバサ」を手にし、さらにツバサが揃うことで誕生するとされる「太陽のドレス」を手に入れるべく、自校他校問わず優れたアイドルの成長を推し進めていく。
そしてついに念願の太陽のドレスを手に入れることに成功するのだが、彼女の真の目的はその先にあった。目的を果たし、ヴィーナスアークの解散を宣言するエルザ。エルザの輝きに魅入られヴィーナスアークを訪れた騎咲レイは、花園きららや双葉アリアと共に彼女のアイカツ離脱を阻止すべく、ツバサを持つ少女たちに全てを託す。二年目の物語は、エルザ・フォルテという孤独の女王様の笑顔を取り戻すためにあらゆるアイドルが手を取り合い共闘する、さながらバトル漫画のような熱い展開が見ものである。
並行して、アイドル一人一人の夢に向けた挑戦は一年目から変わらず続いている。「アイカツ!ランキング」の決勝トーナメントに向けて、日々アイカツに励む少女たち。勝敗に絡んだ彼女たちの栄光と挫折の物語は激化し、涙する者もいるほど。されど、前へ前へと進む足は止まらない。桜庭ローラを筆頭に、敗者の物語に寄り添いその無念をしっかり描写する辺りが『アイカツスターズ!』の矜持の部分で、ステージで笑顔を振りまく彼女たちの涙でぐしゃぐしゃになった顔はこちらの感情を大きく揺さぶる。と同時に、諦めずに努力した結果が実を結ぶこともしっかり描いており、どんなに月並みな表現でも「諦めない、絶対!」が泥臭くも輝かしいものであると示してくれているところが、誠実さを感じさせてくれた。
以下、個々の話数を掘っていくとキリがないので、キャラクターごとに感想をまとめていきたい。全員ではありません、終わらないので。
虹野ゆめ、「憧れ」の先達者
強力すぎるあまり「個性」すら奪い取りアイドル人生を破滅させる主人公補整すら捨て去ってもなお輝く、太陽の暖かな光。『アイカツスターズ!』は虹野ゆめが「ゆめ」を叶え、やがて彼女が七倉小春だけでなく四ツ星学園みんなの「ゆめ」を背負い、羽ばたいていく物語だった。彼女の輝きが他者へと伝播し、次の世代の憧れを産む流れは、代替わりが避けられないS4という制度の象徴でもあり、これから続く未来のアイカツへの期待を高めてくれた。
憧れだけで四ツ星に入学し、ひめ先輩の影を追うだけの少女だった虹野ゆめ。しかし、仲間たちとの切磋琢磨で実力を磨き、「謎の力」の誘惑も跳ね除け、ついには倍率の最も高い歌組としてのS4の座を手に入れる。それでも彼女の歩みは止まらず、「みんなで輝く!」ための彼女のアイカツは、やがて大きな奇跡を呼び起こした。彼女の真っ直ぐな心が他者を動かし、ローラにはアイドルを続ける原動力を、エルザには救済をもたらした。太陽系の中でも豊かな自然と多種多様な生命の源である「地球」のドレスを授かった彼女は、アイドルとして頑張る者、アイドルに憧れる者全てを受け入れる、優しい輝きを放つ。
桜庭ローラ、涙の数だけ
半分ネタ記事のような構成になって申し訳ないのだけれど、趣旨は間違っていない。桜庭ローラは『アイカツスターズ!』における「敗者」を代表するアイドルである。実力が伴っていないわけではないし、彼女もまた努力家であることは疑いの余地がない。されど、彼女はアイカツシステムによって理不尽な敗北を幾度となく味わわされ、その度に這い上がってきた人物だ。誰を恨むわけでもなく、システムの過酷な采配に対し「それでも」と抗い続け、自分なりの輝きに到達した、最も気高い少女。
終盤にかけてやや雑になっていく「面白いじゃない!」構文も、ハロウィンで率先して「めでたい鯛」している様も、いつしか虹野専属マネージャー兼後方腕組み彼氏面している様も、ぶっちゃけ全部愛おしい。虹野ゆめと桜庭ローラ。最高の友達にして永遠のライバル、という関係性は、例えば私にとってはストレイライトの在り方を彷彿とさせるし、お互いが同じ空の下で輝き続けていればその光を見つけられる、だから離れていても大丈夫、という結末は涙腺を激しく刺激した。そして虹が祝福する時、二人は相まみえるのだ。虹野ゆめと桜庭ローラは、ロッキー・バルボアとアポロ・クリードである。この例えであれば、私がこの関係性が刺さる理由が伝わるだろう。
ハッキリ申し上げて、私にとっては桜庭ローラは「推し」なので、今では日常に桜庭を取り込むべく、日々Amazonをチェックしている。定期入れに忍ばせるとしたら、バトスピのコラボカードだろうか。家にはご神体(S.H.フィギュアーツ)を飾るべきだろうか。失敗と後悔だらけの毎日で頑張る力を得たいとき、私は桜庭を頼りたい鯛なのである。
七倉小春、遅咲きの少女
虹野ゆめと一緒に「ゆめ」を叶えた少女、七倉小春。彼女はツバサを得られなかった=アイカツシステムに選ばれなかったものの、その輝きは本物である。幼馴染と一緒にステージに上がること。その成就に至るまで、小春は辛い別れを経て、自分を磨き、ゆめを輝かせるための力をステージの外で獲得する必要があった。ゆえに、彼女のステージデビューはなんと79話を待たねばならず、そのカタルシスは強烈なものだった。
そして、ゆめとのパフォーマンスという夢を叶えた後、彼女はS4を目指すと宣言。結果は真昼に敗れるものの、次の夢へとひた走る様は『アイカツスターズ!』の精神性を体現している。デザイナーとして、アイドルとして、小春ちゃんの物語はこれからも続いていく。
早乙女あこ、「憧れる」から「憧れられる」へ
アイドルでありながら男性アイドルである「すばるきゅん」に好意を抱いている、という異色な立ち回りを見せたあこ。その想いが強すぎるゆえにアイドルとしての本懐を忘れ行動してしまう、プロ意識の欠如を指摘されるも、自身の飛躍とファンの声に応えるか否かを悩みぬいて、後者を選び取る。それからは彼女自身もアイドルとしての能力を伸ばし、劇組S4として君臨するように。
二年目からは、主に花園きららとのブランドを巡る競い合いをする一方で、女優としての活動に専念するためにアイカツ!ランキングには参加しないと宣言。持ち前の面倒見の良さでライバルであるはずのきららを導いたり、S4メンバーを手助けする様子も幾度となく描かれた。
子猫のように甘えん坊で、実はしっかり者のあこちゃん。アイドルに魅せられた少女が、いつしか魅せる側へ。子どもたちの期待を背に、今日もあこにゃんにゃんは大活躍しているだろう。ツバサを持たずとも、「早乙女あこ 輝いてまいりますわ!」である。
香澄真昼……。
可愛い。トニカクカワイイ。
香澄真昼さんのエグいところは、日ごろはプロ意識の高い立派なアイドルでありながら、家や姉(夜空)の前ではめちゃくちゃ「末っ子」であることを、神の視点である視聴者しか知らない、ということである。作中世界の真昼オタは、真昼たそが自宅では髪をゆるふわにしたり、お姉ちゃんと二人っきりでは甘えん坊だったり、この歳でも動物園に行きたがる一面があるなんて、知る由もないのである。か、可哀想~~~~~~~!!!!!!!
さらに真昼女史、姉と如月と組んでの「SKY-GIRL」があり、その上「まひロラ」なる凶悪すぎるカップリングを幻視する者が後を絶たないという。アイカツスターズにおける顔のいい女を取り込む魔性の甘えん坊末っ子アイドル香澄真昼、その魅力に私もメロメロである。この度の5周年を祝い発売された新商品にて「指ハート」を披露し、令和のトレンドにも柔軟に対応しているの、めちゃくちゃ解釈一致なんですよね。ありがとうございます。
ゆずっとリリィ、永遠を抱いて
一まとめにして申し訳ないのだけれど、今年度の覇権カップリングの一つ(もう一つは「ゆめロラ」)は間違いないくゆずリリである。ゆずっとリリィ、ネーミングに「永遠」が刻まれている美しさもさることながら、お互い離れていてもアイカツし合えるゆめロラとは対照的になっているところも芸術点高すぎるんですよね。二階堂ゆずにとって一番輝ける場所、一番楽しいと思える場所にいるのが彼女のアイカツなら、そこはリリィの隣でしかるべきなんですよ。それは決して「停滞」などではなく、二階堂ゆずの納得こそが全てであるという在り方も尊重するところが、『アイカツスターズ!』の深さなんですよね。
しかもアレですよ。リリィにとっては明るく眩しいゆずが太陽だと思っていたのに、ゆずにとってもリリィが太陽だった、のオチですよ。月と太陽じゃねぇ、太陽と太陽なんですよ!!10倍だぞ10倍!!!!
個人的には、『アイカツスターズ!』に触れるきっかけを作った人物こそ白銀リリィであったため、人一倍思い入れが強い。病弱という「個性」に縛られ、それでも諦めず命を削りながらでもステージに立ち続けたその姿はローラにも影響を与え、誰かのメンターでもありながら自身もまた夢に向かって挑戦を続けるアイドルであるという立ち位置は、同年代でありながらも“強者”としての風格を湛えていた。二年目からは体調も持ち直し、チェーンソーを振るうくらいには元気になったらしい。個人では優雅なドレスでステージに華を添え、ユニットではゆずと共に元気いっぱいな姿を見せてくれるのなら、ファンとしてこれ以上嬉しいことはない。ありがとうゆず先輩、あなたが救世主です……。
如月ツバサに失恋したい合同
如月ツバサ、先代の劇組S4にして「白鳥ひめの実力を目の当たりにし歌組から劇組に移籍してS4になった」とかいう劇ヤバ過去を背負った女である。S4の頂に至った彼女もまた「敗者」の一人だったわけだ。そんな彼女が、後輩の成長を信じ、それを喜び、時に導き手になったなんて展開があればどうなる?知らんのか、夢女が増える。
き、如月ツバサ先輩に失恋してぇ~~~~~!!!!!!!!ツバサ先輩に憧れて劇組に入ったはいいものの中々芽が出ず、もう辞めちゃおっかな、アイドル……ってなったところを引き留めてくれたツバサ先輩に恋してしまい、でもS4の輝きには全然敵わなくて予選落ちし、三年生の卒業ライブで披露された「エピソードソロ」のライブを観て号泣してぇ~~~!!アイドルを辞めて普通の高校生に戻った時、ふと街中で見かけた映画館のポスターに写っている「TSUBASA KISARAGI」に古傷を痛ませてェ~~~~!!!!!助けてくれ!!!!!!!!!
[香澄夜空 何歳] [検索]
令和になって観た最も美しいもの、それはアイカツスターズ!86話であり、アイカツスターズ!96話であり、アイカツスターズ!47話である。
漏れは美しい女が好きなので、当然香澄夜空推しになるだろうと思っていた。が、もれなくそれは「香澄姉妹オタ」への立派な入り口であり、その中学生とは思えぬ大人びた容姿とエキゾチックな衣装センス、そしてどこまでも「お姉ちゃん」な一面に、打ち抜かれてしまうのであった。何なんだ香澄家、姉妹愛がオタとしても最も美味しいコンテンツなのにそれを全面に出さず(商品にせず)してトップアイドルになっているのが格好良すぎるし、その関係性を見られるのは我々視聴者だけの特権なんだよな。き、気が狂う。
騎咲レイ、忠義の剣
騎咲レイである。どれくらい喰らったかと言うと、80話を観て1時間後には3,000字のnoteが産まれたくらいに“劇薬”だった。最速執筆記録堂々の更新である。
騎咲レイ、「何のためにアイドルになるのか」「何のために輝きを求めるのか」という問いに対して、平然と「エルザのため」と答える女。未だかつて、このようなメンタリティのアイドルに出会ったことがなかった。自己実現のためにアイドルをやっている、というキャラクターは数えきれない程にいるとして、他人の夢の成就を自らの願いと定め、それでいてトップアイドル(ツバサを授かった9人の内の1人)に登りつめる実力、執念。その価値観を認めるか否か、自らのステージを「審判」と呼ぶその覚悟。一人だけ闘っている次元が違うと言われればその通りなほどに異端で、しかし彼女はシステムに選ばれた。
その後、白銀と一緒のステージを披露したり、ヴィーナスアーク解散を宣言したエルザと真正面から相対したりと、あの手この手でこちらの情緒をめちゃくちゃにしていった女。エルザへの信頼を失ったVAの乗員たちをまとめ上げ、エルザをアイカツから引き離さないために虹野ゆめに勝負を託すという、もう凄まじいことになっていた。徹頭徹尾、全てにおける最優先事項が「エルザ」であり、最後の最後までブレることのなかった、初志貫徹のアイドルである。エルザの側にいるべき人物の座を明け渡すことなく、笑顔で「Bon Bon Voyage!」を踊る姿に、彼女なりのアイカツの答えが表れていた。
未来へ
アイカツスターズ!を走り抜けた。不思議と喪失感はなく、彼女たちのアイカツがまだ続くことを明言してくれた最終回の余韻が、まだ見ぬ明日を想像させてくれたからだろうか。
ゆめが夢を叶え、その後ろ姿を見た次の世代に憧れが芽生える。そうして広がるアイカツの輪は、これからもっとたくさんの輝きを放つだろう。その一編を私は『アイカツスターズ!』という物語から垣間見ることが出来て、その輝きを受け取って生きて行くのである。元気が欲しいとき、辛いことがあったとき、悩みごとがあるとき。そんな時心の支えになるのは、星々たちがステージで見せた煌めきや、その裏での努力と涙の日々を観て「頑張るぞ」と思えた、一瞬一瞬の前向きな気持ちに他ならない。『アイカツスターズ!』を観るために仕事を早く終わらせようと奮闘したあの日、確かに私はアイドルたちに支えられていた。その想いを、絶えず胸に秘めていたい。
これから、どこへ行こう。『アイカツ!』無印や『フレンズ』を観て、『オンパレード』でスターズの皆に再会できたら、これ以上ないほどに感動するだろうと思う。けれど、まだ離れがたい気持ちもあって、未だに再生ボタンを押せずにいる。それほどの大切な作品に出会えたことが、今はとても嬉しい。