ミリしらでプリキュアの集大成を浴び、鼻水垂らして泣くオタク
まずは、経緯から話しますね。
誰も悪くないこれは悲劇やさんのこちらの記事がとても面白かったんですよ。この記事の内容とはズバリ、
仮面ライダー本編を一切観たことがないまま『劇場版 仮面ライダージオウ Over Quartzer』を観るとどういう感想を抱くのかという人体実験
というもの。平成ライダー映画の最終作を飾る超ド級の怪作ジオウOQを、ライダー慣れしていない視点での感想を通して客観視することができる点で、こちらの記事はとても興味深い。同時に、集大成とは門外漢が観てもすごいもの、そこだけつまみ食いしても楽しめる=映画単体として出来がいいという証明にもなるんですよね。まぁジオウOQは出来栄えよりは勢いというか、平成ライダーだからこそ許される悪ふざけがリミットを破壊して生まれた異端児(褒めている)ですが。
昨年で言えば「MCUミリしらで『エンドゲーム』を観た」人の感想とかを検索して読み漁りましたし、私自身TVシリーズほとんど未見の状態で『劇場版シンカリオン』を観て、後追いでTVシリーズを履修するくらいハマった経験があり、いつも同じものしか摂取しないエンタメ趣向の幅を広げるいい機会になりました。その時の感想を書き起こすことで、その作品のファンの方々に喜んでいただけることも肌で感じました。オタクは初見さんの感想って大好物なんですよ。
で、なぜ今回選んだのがプリキュアだったのか。私自身はいわゆる特撮ファンで、テレビ朝日のニチアサ枠は当然毎週の楽しみ。それなのに、プリキュアだけはどのシリーズも、1話たりとも観たことがありませんでした。興味はあったものの、女児が観るものという偏見や、1シリーズ50話近くを有する沼にハマったら大変なことになるという恐怖から、自ずと避けていたのです。その小さな器をこじ開け、女児向けアニメでも大人が観るべき価値があると教えてくれたのが『プリティーリズム・レインボーライブ』であり、「映画だけつまみ食いする」という楽しみ方を教えてくれた上述のジオウ記事だったわけで、意を決して観てみよう!と思い立ちました。その絶好のタイミングで、amazonプライムビデオで見放題配信が始まったのも大きい。プリキュアシリーズ15年記念作品にして、総勢55名(wiki調べ)のプリキュアが一堂に会する超絶クロスオーバーを、まったくの初見で目の当たりにする。引用元の表現をお借りするなら、プリキュア本編を一切観たことがないまま『映画 HUGっと!プリキュア・ふたりはプリキュア オールスターズメモリーズ』を観るとどういう感想を抱くのかという人体実験を、己で治験してみる試みです。
鑑賞前のプリキュア知識としては以下の通り。
・プリキュア本編はTVシリーズ、劇場版問わず一話も観たことがない
・初代が黒と白の二人組であることは知っている
・劇場でペンライトを渡され、応援上映が突如始まる
その状態で、『映画 HUGっと!プリキュア・ふたりはプリキュア オールスターズメモリーズ』を鑑賞し、その最中に書き留めたメモ帳を元に振り返っていきます。
初っ端から応援上映の心得を幼女に叩き込んでいく
おなじみの東映マークが出る前に、まずは諸注意から始まるんですよ。入場時に配られたペンライト(プリキュア界隈ではミラクルライトと呼ぶ)について、「プリキュアを応援するときに使ってね!」と呼び掛ける。相手は女児なので、難しい言葉や漢字は使えないのですが、「周りに迷惑かけんな」「節度は守れ」という社会の基本を短い時間で教えてくれます。ありがとうプリキュア。
巨大モンスター、横浜襲来
横浜みなとみらいや赤レンガ倉庫の風景に、突然謎の巨大生物が現れます。この世界って、こういうモンスターやプリキュアの存在が一般に認知されている世界なんですかね??いきなり街が破壊されていくあたり、仮面ライダー春映画の強引な話運びテイストが香ってくる。
そこにいきなり、三人のプリキュアが登場。おそらく初代の二人と、追加戦士?の金髪のプリキュア。ゴールドとシルバーはスーパー戦隊では追加戦士の証しなのでおそらく合っている。登場シーンにしっかりとテーマ曲のライトモチーフを入れてくるあたり、作り手の丁寧なプリキュア愛が伝わる。
脚本が香村純子、音楽が林ゆうき
オープニングのテロップで確認。脚本がルパパトの香村さんで、音楽がビルドファイターズの林さん。信頼できる。
赤ちゃんの子育てがテーマらしい
タイトルにある『HUGっと!プリキュア』がおそらく公開当時の現行プリキュアで、彼女たちははぐたんという女の子の赤ちゃんを育ているらしい。育児経験は半年ほど。たぶん背格好的に中学生か高校生だとは思うんですが、その歳でお母さんになって、育児の過酷さを学び、お母さんお父さんに感謝する…っていうストーリーなのかな。めちゃくちゃ教育に良いけど、過酷な運命背負いすぎでしょ。普段何と闘うんだろうこのプリキュア。育児に参加しないお父さんの怪人とかかな。
紫の髪のプリキュアはアンドロイドらしく、出産する能力が(おそらく)無い機械が、はぐたんの子育てを通じて人間らしい感情を得る、という話が絶対TVシリーズにあったでしょ。たぶん泣く。
敵がねっとりしたCV宮野真守
突然現れた、てるてる坊主の化け物。声帯が宮野・ウルトラマンゼロ・真守氏で、もう少し大人向けアニメなら『ガッチャマンクラウズ』のベルク・カッツェの演技になっていたかも。そういえば東映アニメーションなので、デジモン映画の敵デジモンにこういうのいたような気がする。
このミデンとかいう敵、プリキュアの記憶を奪って周る習性があり、奪ったプリキュアの能力を使うことが出来るとか。おお、敵の能力そのものがクロスオーバー性を帯びているやつ、めちゃくちゃ好き。
ところで、プリキュアってそれぞれの世界は共通しているのか、それとも異世界扱いなのかは、明示されなかったな。ミデンはおそらくディケイドなので異なる世界を行き来する能力を持っているけれど、プリキュアたちはどうなんだろう。平成ジェネレーションズみたいに、緩やかに繋がっているのかな。
育児戦隊 HUGっと!プリキュア
戦闘になったので変身シーン。HUGっと!プリキュア、変身バンクになるとちょっと大人びたキャラデザになるというか、黄色の子がめちゃくちゃ美人さんなんですよキメ顔が。プリキュア=大人への飛翔=お母さんのモチーフに変身する、ということなのかも。
プリキュアが赤ちゃんになっちゃった~!?!?
ミデンの攻撃を受け、リーダーを除きメンバーが赤ちゃんになっちゃったHUG組。初代のブラックさんも参戦するも、ホワイトさんまでもが赤ちゃんにさせられてしまう。
記憶を奪う=赤ちゃんになっちゃう、は現行作品に寄せたご都合すぎる設定だけれど、5人ではぐたんを育てていたのに、それが逆転して1人で5人の赤ちゃんを守ることになってしまう主人公ちゃん(名前がまだわからない)。育児の負担が5倍なわけで、もう悲惨です。
物は乱暴に扱うし、すぐ泣くし、漏らすし。赤ちゃんって本来、こちらの都合や当たり前が通用する相手ではないんですよね。そこはプリキュアだって同じで、まだ幼い主人公ちゃんは赤ちゃん軍団に翻弄され、疲れ切ってしまう。可愛らしいキャラデザなんだけど、その辺りは容赦ない。
その一方、さっきの紫のアンドロイドちゃんがボルトになっちゃった!?みたいなブラックなギャグを入れてくるの、こわい。
プリキュアだって女の子だ
HUG組の青の子が「お化け怖い」「お家に帰る」と泣きじゃくるの、結構スゴイ展開ですよ。プリキュアとして敵と戦う当たり前を「怖い」と表現するのは、かなり禁じ手なんじゃないかと。
幼児退行したからこその言葉とはいえ、彼女たちはまだまだ幼い少女。プリキュア活動が死を伴う危険性があるかは定かではないものの、闘えば傷つくし、痛いわけです。そこを真正面から抉ってくるし、建前が使えない幼児だからこそ、普段隠している本音がつい出ちゃったという展開だったら、こんなにエグいことはないわけで。
思い通りにいかない育児に疲弊し、つい大声をだしてしまう主人公ちゃん。顔をぐしゃぐしゃにして泣いてしまう。これ、子連れのお母さんが劇場で泣いちゃうわけだ。そこで、使い魔?のハムスターが無責任に言うわけですよ。「プリキュアがへこたれとる場合ちゃうやろ!」と。
それに対し初代先輩が「プリキュアだってふつうの中学生だよ!」と返す。プリキュアたちは世界を救った戦士でも、全員がお母さん初心者。どうしていいかわからなくなるし、つらくて泣いてしまう。それでも強くあれ!っていう押し付けは、お母さんに対する暴力なんですよ。母性へのファンタジーが世のお母さんを追い詰める現実を、しっかりこの映画は描いている。
その上で、大丈夫だよと手を差し伸べてくれる。育児に悩んだこと、失敗したことも、ちゃんと肯定してくれる。今一緒にお子さんと映画館に来られたのは、アナタが頑張ったからだよ、と優しさで包み込んでくれる。
このシーンを観て、大人がプリキュアにハマる理由が見えた気がしました。
ミデン再び
そこに再びミデンが現れる。残されたプリキュアは主人公とブラック先輩の二人だけ。しかも、ブラック先輩はホワイトと二人一緒じゃないとプリキュアに変身できないらしい。え、エモ~~~~!!!!!!「ふたりはプリキュア」ってそういうことね。
で、ホワイトちゃんの記憶を奪ったミデンは、ブラックしか知らない二人だけの思い出で彼女を揺さぶってくる。それがそのままTVシリーズのおさらいになって、走馬灯っぽく映される。初代から観てきた大きいお友達は、ここで揺さぶられるわけですよ。『ふたりはプリキュア』そのものを飲み込んだミデンは、「記憶こそが本質だろ」と訴え、ホワイトさん(を含む全てのプリキュア)と同化し、成り代わろうとしている。でもブラックは、「ホワイトとの」思い出にこそ価値を見出すし、ミデンを偽物だと断じる。記憶のアーカイブではなく、ホワイトの実存あってのプリキュアだと、ミデンを通じてファンに伝えようとしている。
その願いを得て、ホワイトちゃんが復活ですよ。「ふたりはプリキュア」タイトル回収ですよ。初代オマージュとして、これ巧いよなぁ。『仮面ライダー1号』さんも見習ってよ。こういうことよ。で、歴代プリキュアの技を使う敵よりも強い初代、っていうのもアゲとして最高。
あなたと私のキュア「エール」
ここでようやく主人公のプリキュア名を知るのですが、彼女はキュアエールちゃんなんですね。キュア(癒し)とエール(応援)。先ほどのお母さん応援メッセージが込められたHUGプリの主人公の名前がキュアエールって、もう上手く出来すぎていていて、ここで初めて泣いてしまう。
キュアエールはここで自分を応援し、奮い立たせてプリキュアに変身するんですよ。ここで、冒頭の説明が活きてくる。ミラクルライトを振ってキュアエールを応援しよう!応援上映のギミックと作品のストーリーが完璧にリンクした(というよりは宛書した)、最高の燃えパート。プリキュア映画って毎作こういうのがあるんだろうなぁ。女の子がプリキュアを応援する光景を想像して、また泣いちゃった。
偉大なる初代と共闘する現行ヒーロー。この座組もアツいですよね。ちゃんと後輩を立ててあげる先輩プリキュア、『MOVIE大戦MEGA MAX』のWっぽくて、間違いなく東映クロスオーバーイズムの体現者。
思い出を奪われ暴走するミデンは、プリキュアのみならず街の人々の記憶まで奪い去ってしまう。その際、記憶と結晶やステンドグラスのような綺麗なもの、キラキラしたものとして物質化してしまうんだけれど、採石場みたいな開けた場所を用意するあたり、東映イズムですよ。
忘れさられたミデン
プリキュアの記憶で構成された世界に飛ばされたHUG組と初代たち。なんかこれ、シュガーラッシュやキングダムハーツめいていて、これだけで一本ゲーム作ったら面白そう。それはさておき、歴代プリキュア赤ちゃんズが一同に集まっている部屋があるんですが、食事やトイレのお世話をする保護者が用意されていないので、たぶん大変なことになっている。
エールの記憶をもとに復活したHUG組は、ミデンの正体を知る。ミデンとはメーカー倒産によって生産が終了したフィルムカメラの商品名で、市場に出回ることなく思い出を写し取ることが出来なかった無念から生まれた化け物が、てるてる坊主の形をとって現れたもの。思い出を持たない自分を「空っぽ」と評し、他者の思い出を奪う形でその空白を埋めようとする悲しいモンスターだった。
カメラというモチーフ、世界を飛び越える能力者ということで、予想通りミデンは仮面ライダーディケイド=門矢士と近しい存在。記憶を失い他のライダーを投影する鏡でしかなかった男が、仲間との記憶によって蘇った『MOVIE大戦2010』のように、誰かの記憶に残ることが生きる証であり、その機会さえ奪われたミデンは誰の記憶にも残らない孤独=死に恐れるあまり、誰かの記憶を奪い生き延びようとする悲しい存在。プリキュアたちはミデンをより強い力で葬ることが出来なくなるわけですが、どうするのか。
プリキュア、アッセンブル
ついにエールを取り込んで、闘えるプリキュアがおらず、全滅してしまう。だが、プリキュアたちはまだそこにいる。赤ちゃんになってしまった歴代のプリキュアたち。HUG組やはぐたんには、彼女たちとの思い出がないから蘇らせることができない。でも、思い出ならあるじゃないか。劇場に駆け付けた、プリキュアの映画を観に来てくれた観客たちの中に。
ここで、またしても応援上映のギミックが活きてくるんですよ。使い魔のハムスターが「みんなが大好きなプリキュアの名前を叫んでくれ!」と呼び掛け、観客がスクリーンの外からキャラクターを鼓舞する従来の応援上映を超えて、観客を映画の中に参加させてしまう。シリーズを長く見続けた分、プリキュアシリーズへの思い入れや推しキュアが観客の数だけ存在して、そこへの愛を叫ばせてくれるんですよ。プリキュアを蘇らせるのはプリキュアを愛してきたおれたちなんですよ。こんなにオタクに優しい映画があっていいのか~~~~~~~~~~!?!?
ライダー映画でいうなら、本作は『平成ジェネレーションズFOREVER』です。仮面ライダー(プリキュア)を愛してきた自分たちを肯定し、ヒーローの存在を信じさせてくれるような。この作品には「人の記憶こそが時間」という言葉が登場するのですが、今回のプリキュアでは「時間こそが記憶」であり、プリキュアを観てきた時間や知識、愛情の集積がシリーズ15年を紡いできたことを、その記憶こそがプリキュアを蘇らせるストーリーをもって表現する。ファン感謝祭として、これほど愛のある展開を見せられたらもう我慢できません。プリキュア門外漢でも、これは泣ける。
ついに復活したプリキュアオールスターズ。音楽が目まぐるしく変わるのは、おそらくそれぞれの作品の主題歌やテーマソングのインストが数珠つなぎになっているからと思われ、それに乗せて各作品のプリキュアがチームで闘う。乱暴な言い方をすれば、「もし坂本浩一監督がプリキュアを撮ったら」なバトルシーンに、劇場で嗚咽するシリーズファンを想像して勝手に泣いちゃう始末。こういうのにオタク弱いんですよ。ミラクルライトを貰えるのは中学生以下のお客様だけらしいんですが、今回は大人のお客さんにも配ってあげてよ。
結末
ミデンの分身体を退けたプリキュアオールスターズ。ですが、それではミデンは救えません。空っぽな彼を満たさない限り、真の解決はあり得ない。そんなミデンの心に寄り添うのは、キュアエールでした。
自分には一緒にプリキュアとして闘う仲間がいて、ミデンは孤独に苦しんでいる。その心を理解したキュアエールはミデンを抱きしめ、「思い出が無いならこれから作ればいい」と歩み寄る。その言葉に支えられ、ミデンは本来のカメラに戻ることへ。
総勢51名参加のプリキュア打ち上げ、その風景を写し取るのは、ミデンのカメラを持ったキュアエールちゃん(いい加減本名を知りたい)。打ち上げで終わるのはオールスター映画の鉄則ですが、そこにミデンへの救いが重なるのが巧いなぁ。このカメラがTVシリーズの最終回で一瞬だけ登場するシーンを幻視してまた泣いちゃった。
完走した感想
めちゃくちゃ泣きました。プリキュア文脈は全くないのですが、シリーズファンへのご褒美のような展開のつるべ打ち、とくに大きなお友達や現役のお母さんを包み込んで肯定してあげる優しさに触れ、ミラクルライトを通じてプリキュアの世界にこちらを引き込むギミックに心奪われました。また、なんとかビーム☆などではなく、生身で闘うプリキュアがしっかりボロボロになっていくので、これは女の子も手に汗握っちゃうな、夢中になって応援しちゃうよな、と感じ入った次第でございます。
15年の集大成だけをつまみ食いする試み、「プリキュア」の何たるかを最短時間で学び、描き出そうとするものの深さを少しだけ垣間見られて、一気に大好きになっちゃいました。でもどうしようかな、観始めたら大変だよなぁ…。