マイム2

何かが違うと思いながらも、顔も悪くないしスタイルもそこそこで僕の好きな服装だったし家事もちゃんとしてくれてた。だからずるずると一緒にいてしまった。でも僕の中の違和感は年々大きくなるばかりだった。


彼女にしか興味がないのではなく誰にも興味が持てない自分がいる、ということに薄々気付きながらも目をそらしていた。

生活に必要のない感情に関しては極力考えたくないのだった。

29歳になって彼女はどんどん焦っていった。そして遠回しに僕を追い詰めていった。僕は家に帰るのが憂鬱になり、職場のバーカウンターで朝まで過ごして彼女が仕事に出る頃帰宅することが増えた。

彼女はさらに焦って親や友人を使って結婚の流れになるよう仕向けてきたけど僕はますます帰りたく無くなるだけだった。


そんなことが続き、彼女は結局僕のことを相談していた会社の上司と不倫をし、略奪婚ってやつをした。


最後に荷物を片付けながら彼女はぽつりと言った。

ずっと僕のことを下の名前で勇士と呼び捨てにしていたのに、高校の頃のように名字でよんで。


『中町なんか、一生自分だけが不幸です、って顔して生きていけばいいわ、一人でずっと』と。


その通りだと思った。僕は誰といてもいつだって一人だった。そしてそれを悪くないな、とさえ思っていた。君に出会うまでは。

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