間に合わなかったね
二十世紀梨が届いた。
食べて欲しかった母は、もう居ない。
昨年9月から入院していた母が、
「梨が食べたい」
と電話してきたのは、真冬だったか。
残念ながら、その願いを叶えることはできなかった。
少しでも早く、梨を食べて欲しい。
夏が近くなるころ、
ハウス栽培の二十世紀梨のチラシを見つけた。
発送開始は8月
梨が届くまで生きていて欲しい。
祈るような気持ちで、申し込みをした。
このとき母はもう、
リクライニング機能無しでは
上半身を起こすことすらできない程
筋力が低下してしまっていた。
誤嚥性肺炎防止のため、口にできるのは
とろみがついているものだけ。
それでも
「夏には退院して帰るから」
そう言っていた。
確かに、その通りになった。
7月12日15時17分
母は天に召された。
帰りたい、帰りたいと言っていた我が家に
ようやく帰ってこられた。
届いた梨は、祭壇にお供えした。
梨が届くまで、
もうちょっと待っててくれたらよかったのに。
📝つむぎの ひとこと ふたこと✒️
父と共に、病院で母を看取った。
用事を済ませた私が家に着いたときには、
母は既に北枕で寝かされていた。
枕元には枕飾りと、木彫りの熊?!
北海道土産の定番の熊がなぜ?
「小さい頃にお風呂に入るのを待つ間、
ばあばと熊のおもちゃで遊んだの」
飾り棚から熊が移動したのは、
小学四年生の甥っ子の仕業だった。
彼なりに哀悼の意を表したようだ。
子どもの発想の豊かさに、
内心舌を巻いた。