【ショートストーリー】旗の下へ
作戦の成否のカギは橋だった。
周囲が次々と連合軍の手に落ちていくなかで、唯一帝国側の支配下にある橋。
もしこれを陥落することができれば、連合軍の勝利は確実だといわれている。
そしてついに連合軍は空挺部隊による作戦を開始した。
A国軍空挺部隊。
連合軍参戦国のなかでも最も強力な軍事力を持つ。
「今回は、敵味方乱れての混戦が予想される。同士討ちは避けたい」
輸送機のなか、隊長は隊員たちを見回しながら言った
「ついては、地上にて、この旗を私が掲げる。諸君は降下後、この旗を目指して集まってくれ」
隊長が掲げた部隊旗。イーグルをモチーフにした勇壮なデザインだ。
「おーっ」隊員たちが気合いを入れる。
「間もなく降下予定地点に到着。武運を祈る」
B国軍空挺部隊。
連合国のなかで一番歴史ある国であり、最も成熟した軍事力を誇る。
「混戦をさけるため、降下後、諸君らには、この旗を目指して集まってもらいたい」隊長が掲げた部隊旗。神話に出てくる英雄をモチーフにしたデザインだ。
隊員たちの表情が戦士のそれに、変わる。
「間もなく降下を開始する。総員準備!」
X国軍空挺部隊。
連合国のなかでは最後まで戦争に反対していた国であり、正直あまり頼りにされていない。
「風に飛ばされて、迷子になっちゃうかもしれないから、私が目印として、この旗を掲げて、皆さんを待っています」
隊長が旗をかざして見せた。
そこには、隊長が孫を抱っこして満面の笑顔を浮かべているスナップ写真がプリントしてあった。前回の休暇の時に撮ったものだと、隊長は、はにかんだ。
「この作戦のために特別にあつらえました。みんなこの旗の下に集まってくださいね」
輸送機内の士気が明らかに下がった。
「ではそろそろ到着します。くれぐれも無理しないように。よい一日を」
橋を巡るこの戦いは、連合軍の圧勝に終わり、間もなく終戦を迎えた。
数年後、あるジャーナリストが取材のため、この戦いに参加した元兵士たちにインタビューをしたことがあった。
「あのときのX国の兵士たちの戦いぶりはすごかった」
「X国を馬鹿にしていたよ。でも今は反省している。彼らは最高の戦士だ」
ジャーナリストは意外に思った。彼の持つX国のイメージとは正反対の証言だったからだ。
ぜひX国の元兵士にも話を聞いてみたい。
交渉の末、インタビューに応じてくれる元兵士がみつかった。
「帝国側の兵士が、私たちの旗を見て、笑いやがったんだ。俺たちは恥ずかしいのを我慢してた。あいつら、戦闘中なのに指さして笑ってたんだぜ。そりゃ、俺たちだってキレるだろう」
(終)