おそらくもっと遠い
青い空と大きな魚が泳いで光るところが見たい。
水槽ではなくあの懐かしい大きな海を泳ぐところが見たい。
なのに一昼夜水槽の中ばかりを眺めている。
水槽だと思ったらただの生簀。
明日には命はないだろう随分立派な蟹や海老。
明日もあるだろう水草。
なんだかなぁ。
先日まではよく泳ぐ貝だった私も
今では石ころとなんら変わらない。
キラキラ光る自慢の殻は水草が張り付いて重くなり
気を抜けばガシガシとこじ開けられて一貫の終わりだ。
他の奴らは泳いでいる時に捕まった。
そしてそのまま鍋にドボンだ。
それから泳ぐことをやめた。
なんだかなぁ。
この殻があるから貝に生まれて良かったと思ったのに
今はあの一際大きな蟹になりたかったと思っている。
奴ならなんとか壁をよじ登り出られるだろう。
高い値が付けられるには理由があるというものだ。
あのやたらと長い腕を目一杯伸ばせば縁に届くだろう。
それに水がなくとも歩けるのだろう。
私は外に出れば乾いてそのままお陀仏だ。
生まれ変わったら蟹になりたい。
蟹になってこの生簀から出て行けば
すぐそこに海が待っているはずだ。