「天使なんかじゃない」矢沢あい

7月に少女まんが館に行ったときに読んだ漫画の感想です。

🌼「天使なんかじゃない」矢沢あい

調べものをするために、連載当時のりぼん本誌で「天ない」を読みました。

書誌情報:矢沢あい「天使なんかじゃない」(1991年9月号~1994年11月号、りぼん、集英社)


時間なくて晃が修学旅行に合流して以降は飛ばし読みしました。。

久しぶりに「天ない」を読んだのですが、翠ちゃんじゃなかったら絶対鬱になる恋愛だな…とつくづく思いました。

用意された試練がメンタルに過酷なんですよね…。
他の少女漫画と比べて翠と晃の関係性がはっきりしない期間が長すぎると思います。多分。
たぶんほかの少女漫画だったら主要キャラの意志が揺れることはご法度なのでは。付き合う前なら男キャラはちゃんと一線をひくし、付き合って以降はヒロインに一途である、という描写の漫画のほうが多い気がします。そういうキラキラ系の恋愛漫画(って何だろう、「君に届け」とか)あんまり読んでないんですけど…
晃は付き合ってからも翠を裏切るし、、でもそれにはいろいろ事情があって、晃は晃で自分の問題に対処した結果だったりするんですよね。
そういうところが、快感やロマンや夢を与えるだけの漫画ではない、人間ドラマらしさを生むのだと思います。

それにしてもしんどい恋愛だと思うけどなー


終盤以外の全体を読み返して思ったんですけど、マミリンの「あたしは冴島翠みたいになりたい」の場面はほんとうにいい場面だなと思いました。
このシーンに割いているページ数も多いし、コマも大きいし、すごく力の入った場面でした。
感動したのでセリフを引用します。

あんたならなんにだってなれるわよ
あたしは冴島翠みたいになりたい
うれしい時はちゃんと喜んで
悲しい時はちゃんと泣けるような
そんなあたり前のことがみんな意外と出来なかったりするのよ
あんたがみんなに好かれる理由(わけ)がわかるわ
須藤くんがあんたを選んだ気持ちがわかるわ
あたしもあたしなりにがんばるわよ
意地はっててもいいことなんかひとつもないし

りぼん 1992年4月号

マミリンのキャラはすごく物語に効いている。
翠って活発なようでいて実は消極的で、実際問題が起こった時には核心には突っ込めず、様子をみてしまうタイプなんですよね。
でもマミリンのズバッと言うセリフがあるからこそ、ほかの登場人物たちの気づきを導き出せ、物語が進むんです。

主人公の悩みに対して「じゃあ耐えるのね 須藤くんだってほっときゃそのうちあんた一本に絞ってくれるわよ」(りぼん1992年12月号)って突き放すマミリンも、すごくよかったです。。

「別れて淋しいのはあんたの方だけじゃないと思うから」(りぼん1993年6月号)もマミリンにしか気づけなかったことだと思います。

ケンちゃんにプロを目指すよう言ったり、ケンちゃんの翠への思いを制するよう喝をいれるのもマミリンだし。マミリンは大事なキャラクターです。。美人だし…


あと、志乃ちゃんもすごくおもしろいキャラクターでした。
「天ない」のなかで最も成長したキャラクターなのであろう…

わたしは瀧川とのおうちデートなのにシャツをインしてジーンズを履いている志乃ちゃんのおしゃれさにキュンとしました。。


志乃の遊びが発覚する連載第24回では、編集部の担当者さんと作者のあいだでマミリンが志乃を平手打ちすべきかどうかの議論はあったんじゃないかなーと妄想します。。
結果的に平手打ちが採用されたのは、志乃の度が過ぎていることと、マミリンが志乃に対して本気の心でぶつかっていることをよく表せるからではないかと思います。いい場面でした…

「そんなうかつなことしなかったのに くやしいな…」(りぼん1994年1月号)もいいセリフでした…


矢沢あい先生はこういう脆弱さを抱えたキャラへの視線がやさしいと思います。
志乃の精神性や向き合うべき課題をもっとバージョンアップしたのが「ご近所物語」のバディ子なのかなーと思います。バディ子もすごくすきなキャラクターです。ふたりともかわいいキャラクターなのですが、志乃やバディ子の「可愛さ」とは他者が与えてきた価値や存在意義であり、彼女たち自身もその自分の資産に乗っかって生きてきた側面はあるのですが、自分の思うように進めなくなったと感じた人生のどこかのタイミングで、自分が本当に求めている関係性とは何か、自分はどう在りたいのか、という問題に向き合わざるを得なくなるのではないのでしょうか。

こういうキャラクターたちの脆い自分と闘う姿は、ときに主人公の魅力をすこし超えてしまいます。。
でも主人公は主人公で、主人公ゆえに全能感を押しとどめてくる壁や課題と闘っているのですが。(主人公ゆえにうまくいかない)


やっぱりこんなに天真爛漫な「天ない」でさえ重い。矢沢あいの重さがちゃんとあると感じます。
矢沢あいの漫画はよくよく読むと重いです。でも見事に少女漫画のロマンのお洋服を作品にきちんと着せたうえでその重い精神性をストーリーに昇華しているのです。
だから読者は、かわいい漫画を読んだ!という充足感も得られるし、読んでから時間が経っても、あの場面、あのセリフの意図は…と反芻することで人生哲学を見出してしまうのかもしれません。

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