「となりの住人」岩館真理子
しばらくは2021年〜2022年にかけて少女まんが館を訪問した際に読んだ漫画の感想を書いていきます。
2021年6月に初めて少女まんが館へ行ったときに読んだ漫画の感想!
🌷 「となりの住人」岩館真理子
書誌情報:岩館真理子「となりの住人」(1980、マーガレットコミックス、集英社)
収録作品:「となりの住人」、「さたでい・ぱあく」、「約束」、「メモランダム」
絵がかわいい。。。
岩館真理子は子どもの頃に読んだ「キララのキ」1巻のおかげでなんかもうすごいサイコパス漫画(語弊がある…)なイメージがついてしまって、、とはいえめちゃくちゃおもしろかったので高校生くらいになってから全巻買って読み、結末を知りました。昔は完結して何年経っても店頭で買えたんですよね…
「うちのママが言うことには」はまだ読んでない…
今回も例によって、少女まんが館では「となりの住人」までしか読めなかったため電子版で読み返しました。。
「となりの住人」
大学生の女の子がアパートで一人暮らしを始めるが、部屋の窓から見える部屋の住人が変わった男で、だんだん仲良くなる話。
好きだったのは雨粒がはいったコーヒーを飲む場面。。
セリフ無しで1ページまるまる使って、二人の表情を交互に描き、雨粒の落ちるコーヒーカップを映し出します。
主人公は多くを語らない人なのですが、、
幼少期から両親の仕事の都合で寂しい時間を過ごしてきて、ひとりに慣れている子のようです。
生活の中で見聞きしたいろんなものについてひとりで思索しひとりで納得する日常が描かれていて、そういうところもよかったです。
変人の隣人・堤さんは主人公(今更だけど名前は慶子)のムスッとした顔が良いと言い出したり、慶子のチビ猫をかわいいと言ったり、、
要するに慶子にとってありのままを認めてくれる不思議な存在となったのですよね。
女優の母や映画監督の父のように多くの人に愛されるような人間にはなれない自分を自覚しつつある慶子は、堤さんとの飾らないでいられる関係の心地良さに気づいていくのです…
堤さんの飄々としたカメラ小僧キャラは西炯子「お手々つないで」のさとくんの学友を連想しました。訛ってるところとか。
いま書いていて気づきましたが「お手々つないで」シリーズも変わり者どうしの物語なのですよね。
それにしても雨のコーヒーの場面はほんとうによかったです…
慶子にとってぽたぽた雨のおちるコーヒーはよるべの無い自分のような… 差し出されても他人が困ってしまうような寂しさを内在した自分のような存在で、でもそれをひょいと一口飲んだ堤さんに慶子はおかしみと不思議な安堵をおぼえ……たかどうかはセリフには一言も書かれていないのですが、そうなんだろうなあってちょっと勝手に読みました。
雨が降り始めたときの、慶子が静かに現実を受け入れる場面の表情もよかったです。
猫のチビが堤さんにからまれる場面は猫がかわいかった・・・・・・
「さたでい・ぱあく」
まだ初恋も知らない中学一年生の園子(そのこ)(公園の園だ…)が、土曜日の公園でちょっと大人の高校生たちと出会い、憧れる話。
伸ばしかけの髪をむりやりおさげにしている園子がかわいいです。。
園子の兄が無理解な人かと思いきや妹思いの優しい兄でした…!
園子はまだ中学生なのに男に裏切られたんだぞ!責任とる、もしくは謝れ!と兄が同級生に詰め寄るシーンはたしかにかわいそうだな…と思いました。。
公園の女子高校生と男子高校生はてっきり知り合いなのかと思っていましたが、そこまで込み入った設定ではなかったです。
最後、焼き芋を園子にくれた男の子がよかったです…!!
よかったね、園子。。
「約束」
これ映画みたいでおもしろかったです〜
パリが舞台のお話。
フロランスという女の子が3年後に3人の中から自分の伴侶を選ぶ!と幼馴染3人と約束をします。。
シモンも三郎もあんなにフロランスにアタックしていたのにふつうに新恋人ができるんかい!とも思ったけど、まあいいか。。
お話のなかにフランスの文学賞、ゴングール賞がでてきて、岩館真理子さんは文学好きなのかな、どんな本を読むのだろうと気になりました!
3人のうちのひとり、ギイは高校卒業後、観光バスの運転手になりました。フロランスが指定した3年後となる日の大晦日も観光客を乗せて遅くまで仕事をしていました。
でもそんなばたばたする一日でも、合間合間に考えるのはあの約束のこと…
言うまでもなくフロランスが待っていたのはギイなのですが(堂々としたネタバレ…)いろいろあって大団円を迎え…
最後にフロランスはなぜ3人に3年待ってもらったかを話します。
えっ それ、本人の前で言っちゃっていいの?
と気になっちゃいましたが、ギイ本人は自分は今までなにをなやんでいたんだろう…と我が身を振り返り素直になれたようだったので、よかったです。。
ほんとうにコンプレックスのつよい人は指摘するほど気にしちゃうような気がするんですけど、そしたらこの話もギイのコンプレックスが改善されるまで10年20年と続くお話になって(ゆくゆくはレディースコミックのような内容の話になって)しまうので、ギイが素直になれてよかったなーと思いました。
劣等感で思い出したんですけど「ライ麦畑でつかまえて」のなかにこんな一節があります。
つまりその人自身にほんとうに劣等意識があるかどうかに関わらず女の子がその人を好きならその人は劣等意識を持っているということになる…ってことなんですよね。
学生時代に読んだ時にはまったく記憶に残らない箇所でしたが、数年前読み返した時にはほんとにドキリとし、 ホールデンの言う通りだわ!ごめんね!! と思い(みなさんはどう思いますか?わたしは見抜いてるなーと思いました)、人の感じの良さを挙げる際に劣等感を理由にするのだけは絶対にやめよう。。と固く誓いました。
ホールデンの言うとおり、女子がシンパシーを抱くのは『好きな相手』に対してだけです。。
「メモランダム」
これまでの控えめな感じとは一転して、なんだかけっこうこじらせたお話でした!
すっごい若い担任教師をいろいろと困らせるような言いがかりをつける問題児の瞳。
担任も担任で若い男性なのですがまるでおかんのように瞳を叱るので、なんと面倒見のいい人なんだ…と感じます。
瞳の友人の子・真貴がふわふわ頭ですごくかわいい。
しかも冗談なのか本気なのか分からない感じで百合っぽく瞳を大切にしているんですよね。この年頃の女子のベタベタ感というか…こういう子いたなあ…とか思います。
しかも瞳は瞳でうつくしい真貴に劣等感をいだいているのか、担任や同級生の男友達がほんとうは真貴を好いているのでは…と考えるシーンもあるのです…
そのためかラストまで彼らの関係性がどう決着するのか読めなかったです!
真貴が女性を好きっていうのはどうやら職員室も把握しているようなのですが…自分はちょっと断定できないなー…と思っちゃう。。
真貴は男の人が苦手なだけなんじゃないかな…真貴を主人公にして佐次くんとのスピンオフがあったらいいな…!
おもしろいなと思ったのは瞳が「先生が好きだからよ!!」と叫ぶ場面(183ページ)は背を縮こませ読者に背を向けている絵が描かれているんですよね…。
感情が発露する場面なのに表情を描かないなんて…それだけ瞳の感情は内に秘めた熱い熱いものだったのだろうな……と感じるのです。
そのあとの「きらいなのっ きらいなの 大っきらい」としゃがみ込んで叫ぶ場面(191ページ)は「千と千尋の神隠し」の姿が消えかけた千尋みたいに消え入りそうな線で描かれていて…
この辺でさすがに大人の自分が出てきてしまい、もうそのへんにせえよ、、とムードのない一言をついついかけてしまいたくなりました。。
以上、味わい深い4篇だったのですが、感想を書くのが思いのほか大変でした…
いい場面を紹介しただけでは当たり前の内容になってしまうというか…
岩館真理子作品って、漫画の中であえて描いていない部分とか、言葉になっていない部分が味わい深い雰囲気を作り出してるのかも。。と思いました。
「キララのキ」もぜひぜひおすすめです。
リンク先の復刊ドットコムのコメント欄になぜか4巻だけ入手できていない方のコメントが連なっているのですが、そうかあの結末を読めていないのか……
この方々に4巻をお貸ししたいくらいです…。結末は結末でツッコミどころがいろいろあるのですが…。
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