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『テクノロジーの地政学 シリコンバレー vs 中国、新時代の覇者たち』(シバタナオキ、吉川欣也)の紹介

過去に書いた記事「7冊の本から未来を想像してみた」(2019年10月5日)で、アイディアの元になった書籍を紹介を予定していました。かなり、遅れましたが、紹介します。その第二弾です。

もう、4年前なので、内容的には古くなっている部分もあると思いますが、ご了承ください。


2018年の本です

『テクノロジーの地政学 シリコンバレー vs 中国、新時代の覇者たち』(シバタナオキ、吉川欣也)は、2018年に出版されました。それを前提に、以下、お読みください。


テクノロジーの地政学とは?

「地政学」と聞くと、領土や資源、軍事力などを思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし、現代においては、テクノロジーこそが国家間の覇権争いを左右する重要な要素となっています。

特に、米国の伝説的な投資家マーク・アンドリーセン氏が2011年に提唱した「Software is eating the world(ソフトウェアが世界を飲み込む)」という概念は、今日の現実を的確に捉えています。 ソフトウェアは、あらゆる産業に浸透し、既存のビジネスモデルを破壊し、新たな価値を創造しています。  

本書では、この「テクノロジーの地政学」という視点から、世界経済を牽引するシリコンバレーと中国のテクノロジー戦略を比較分析し、今後の世界情勢を展望しています。  


この本を選んだ理由

シリコンバレーと中国という、世界の二大テクノロジー拠点に焦点を当てている点が、本書の魅力です。 シリコンバレーは、GAFAをはじめとする巨大IT企業が、イノベーションを牽引してきました。一方、中国は、政府主導の積極的な投資と巨大な国内市場を背景に、アリババやテンセントなどの巨大企業が台頭し、シリコンバレーに迫る勢いで成長しています。  


この本の注目ポイント!

本書で特に注目すべき点は、以下の3点です。

  1. シリコンバレー vs 中国の構図: GAFAに代表されるシリコンバレー企業と、アリババやテンセントなどの中国企業。両者の戦略や強みを比較することで、世界のテクノロジー動向を深く理解できます。シリコンバレーは、自由な発想と起業家精神を重視する文化を背景に、破壊的なイノベーションを生み出してきました。一方、中国は、政府主導の強力なリーダーシップとスピード感あふれる開発力で、世界市場を席巻しつつあります。

  2. 6つの重要分野: 人工知能、次世代モビリティ、フィンテック・仮想通貨、小売り、ロボティクス、農業・食テックという、特に注目すべき6つの分野に焦点を当て、具体的な事例を交えながら解説しています。これらの分野は、いずれも私たちの生活に密接に関わっており、今後のテクノロジー進化によって大きく変化していく可能性を秘めています。

  3. 豊富な事例: 各章では、130以上の企業やサービスが紹介されており、テクノロジーの進化が私たちの生活にどのように影響を与えるのかを具体的にイメージすることができます。 これらの事例は、単なる企業紹介にとどまらず、それぞれの企業がどのような戦略で市場に参入し、どのような課題に直面しているのか、詳細な分析が加えられています。  


テクノロジーの地政学を深く理解する

本書では、以下の6つの章に分けて、シリコンバレーと中国のテクノロジー戦略を解説しています。

第1章 人工知能

AIは、様々な分野で応用が期待される、まさに現代の「キーテクノロジー」です。本書では、画像認識、音声認識、自然言語処理など、AIの主要技術について解説するとともに、シリコンバレーと中国におけるAI開発の現状や課題を分析しています。

特に興味深かったのは、中国のAI開発のスピード感です。中国政府は、AIを国家戦略として位置づけ、巨額の投資を行っています。その結果、顔認証技術や音声認識技術など、一部の分野では、中国がすでに世界をリードしているという指摘もありました。 例えば、顔認証技術は、セキュリティシステムや決済システムなど、様々な分野で実用化が進んでいます。  

第2章 次世代モビリティ

自動運転技術の進化は、自動車産業だけでなく、物流や交通インフラなど、様々な分野に大きな変革をもたらすと予想されます。本書では、自動運転技術の現状と課題、そしてシリコンバレーと中国における開発競争の現状を解説しています。

シリコンバレーでは、Google系のWaymoやTeslaなどが自動運転技術の開発をリードしていますが、中国でもBaidu(百度)やDidi Chuxing(滴滴出行)などが積極的に開発を進めています。  

近年注目されているMaaS(Mobility as a Service)についても詳しく解説されており、MaaSが普及することで、私たちの移動手段やライフスタイルがどのように変化するのか、具体的なイメージを持つことができました。

MaaSは、様々な交通手段を統合し、シームレスな移動体験を提供するサービスです。しかし、MaaSを実現するためには、様々な課題を克服する必要があります。例えば、サービスをシームレスに提供するためには、事業者間でリスクをどのように負担するかが問題となります。また、決済や融資においては、サービス単位、MaaSオペレーター経由の支払い・課金となることから、既存のプレーヤーは、そのスキーム変化への対応が求められます。  

第3章 フィンテック・仮想通貨

フィンテックは、金融サービスとITを融合させることで、新たな金融サービスを生み出す試みです。本書では、モバイル決済、オンライン融資、仮想通貨など、様々なフィンテックサービスについて解説し、シリコンバレーと中国におけるフィンテックの現状を比較分析しています。

中国では、アリババのAlipay(支付宝)やテンセントのWeChat Pay(微信支付)などのモバイル決済サービスが爆発的に普及しており、すでにキャッシュレス社会が実現しつつあります。 一方で、シリコンバレーでは、SquareやStripeなどの企業が、中小企業向けの決済サービスやオンライン決済サービスを提供し、市場を拡大しています。  

第4章 小売り

Amazon Goに代表される無人店舗や、EC(電子商取引)の進化など、小売業界はテクノロジーによって大きく変化しています。本書では、小売業界における最新のテクノロジー動向を解説し、シリコンバレーと中国の企業がどのように小売業界を変革しようとしているのかを分析しています。

Amazon Goの技術革新には驚かされました。無人店舗では、カメラやセンサーなどを駆使することで、レジでの会計を不要にし、顧客の購買体験を大きく変えています。 中国では、アリババのHema(盒馬鮮生)やJD.com(京東商城)などの企業が、オンラインとオフラインを融合させた新たな小売モデルを展開し、注目を集めています。  

第5章 ロボティクス

産業用ロボットから家庭用ロボットまで、ロボット技術は様々な分野で進化を続けています。本書では、ロボット技術の現状と課題、そしてシリコンバレーと中国におけるロボット開発の現状を解説しています。

シリコンバレーでは、Boston Dynamicsなどの企業が、高度な運動能力を持つロボットを開発し、注目を集めています。中国では、DJIなどの企業がドローン市場で世界をリードしており、物流や農業など、様々な分野での活用が期待されています。

第6章 農業・食テック

食料生産の効率化や食の安全確保など、農業分野におけるテクノロジーの重要性が高まっています。本書では、農業分野における最新のテクノロジー動向を解説し、シリコンバレーと中国の企業がどのように農業を変革しようとしているのかを分析しています。

植物工場や遺伝子組み換え技術など、食料生産の未来を変える可能性を秘めた技術が次々と登場していることに驚かされました。 シリコンバレーでは、Beyond MeatやImpossible Foodsなどの企業が、植物由来の代替肉を開発し、注目を集めています。中国では、Pinduoduo(拼多多)などの企業が、農産物の流通を効率化するプラットフォームを構築し、急成長を遂げています。  

これらの6つの分野は、それぞれ独立して存在しているのではなく、互いに影響し合い、新たなイノベーションを生み出しています。


2025年の世界から見ると

人工知能は2018年当時の予想を上回るほどの発展ぶりですね。ますます、加速している感じがします。どこまで、この加速が続くか、それとも、どこかで理論的な限界に到達するのかが気になります。

その他の分野は、予想されたほどではないですね。以下、簡単にそれぞれの分野を見ていきます。

次世代モビリティは、今ひとつですね。特に、MaaSは、全然、盛り上がりを感じません。フィンティクもモバイル決済と仮想通貨が順当に発展して、オンライン融資は今ひとつですね。小売とも予想されたほどの変革ないですね。ロボティクスは、ドローン以外、ぱっとしないですね。農業・食テックは、全然ですね。

それと、中国に勢いを感じなりました。やはり、民主主義の国でないと技術革新は起こせないかもしれませんね。経済の話で、「国民所得1万ドルの壁」というのがあります。これは、政治体制が民主主義的でないと、自由な活動ができず、結果、技術革新もおこらず、中進国の水準である所得1万ドルを超えられないというものです。

なかなか、未来予想は難しいですね。

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