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悪運探偵奇譚:魔酔猫-マヨイネコ-
「にゃ〜」
鳴き声を聞き二人は素早く物陰に隠れた。息を潜め聞き耳を立てる。
「……行ったか?」
「……た、多分」
はぁ〜〜
大きな溜息が二つ並んだ。
「なぁ、お前言ってたよな?『逃げたペットの猫を探すだけの簡単なお仕事』だ、って」
スーツ姿の男は相手をギロリと睨みつけながら言った。
「はぁ!?ウチも知らんかったやんこんなん!あぁ〜!腹立つあのクソババァ〜!!」
関西弁の小柄な女は手足をジタバタさせながら言った。
男は人差し指を口の前に立て、再度ギロリと彼女を睨む。気づいた女は慌てて口を閉じると、両手を合わせてぺこぺこと頭を下げた。
「お前、なんか武器持ってるか?」
「アンタ、ペット探しに武装してく探偵がおるん思うか?」
「そうだな。で、持ってんのか?」
女はブカブカのジャケットから、二丁の拳銃をゴトンと床に放り出した。
「にへへへ……アンタ、やっぱウチのことよー知ってんなぁ」
にんまりと彼女は笑ったが、男はそれを無視して拳銃を拾い上げた。
「こんなのでも無いよりマシか」
「言っとくけど弾は入っとる分だけやからな。大事に使いや」
「ああ。とりあえずこの"猫屋敷"から脱出するまで保てばいい」
物陰からチラリと顔を出す。
古びた洋館は辺り一面血飛沫に汚れ、真っ二つになった死体が転がっているが、今は妙に静かだ。
「よし、行くぞ」
「あ、待ってや!」
二人は転がるように駆け出した。素早く、しかし足音を立てない。探偵の基礎スキルだ。
猿渡羊一郎は銃を握りながら祈った。
今の戦力ではまともに戦えない。後ろを走る同業者、牛若虎子も当てにはならない。なんとか"猫"に遭遇せずに脱出を――
「にゃ〜」
背後から聞こえた鳴き声に、二人は素早く振り返った。
そこにいたのは、猫耳をつけた全裸の男だった。
その手には、真っ赤な血を滴らせた日本刀が一振り、握られている。
「にゃ〜」
そいつ再び鳴くのと、二人が銃を構えるのはほぼ同時だった。
<続く>