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【禍話リライト】左から来る

昔は友達の家に行った時に一人で留守番任されたりすることありましたよね?
まぁ、最近はあまりないかもしれないですけど。

あの時に感じる、他人の家に一人でいる居心地の悪さというかちょっと気持ち悪い感じ分かります?

この話も、もしかしたらその気持ち悪さの延長線――みたいなもんかもしれないです。





あれは確か小学校三年生の時の事だったと思います。

クラスメイトのSってやつの家に遊びに行ってたんですけど、買い物出てたSの母親から連絡が来て、確か特売か何かで買いすぎて荷物が多いから運びに来い――とかそんな理由でSが出かける事になったんです。

「悪いな。30分くらいで帰ってくるから」

そう言ってSは出かけて行きました。
幸いSの家には漫画雑誌がいっぱいあったんで、私はダラダラとそれを読みながら留守番をしていました。

一五分くらい経ったでしょうか。
読みたかった漫画を丁度読み終えて、ちょっと暇になったんです。

それでなんとなく、部屋の外の庭を眺めてました。

早くS帰ってこないかなぁなんて思いながらぼーっと窓を眺めてると、左から誰かが歩いてきたんです。

曇りガラスのせいではっきり見えないのですが、大きいのと小さいの、二つの影が窓の前を横切って、そのまま玄関の方へ歩いて行きました。

一瞬、Sがお母さんと一緒にもう帰ってきたのかなと思ったんですけど、二人が帰ってきたら門が開く音が聞こえるはずなんです。ガシャンって結構デカい音が出るんで、聞き逃すのはあり得ないなって。

おまけにその二人は窓の左側、玄関と反対の方から来たんです。だからもし静かに門を開けて入ってきたとしても、なぜが玄関に行かず家の周りをぐるっと周ってきたってことになるんです。

それも意味がわからない。

え?じゃあ、あいつら誰なんだ?
というか、何しに来たんだ?
ぐるっと家を一周まわってから玄関に来るのか?

と思った所で

「そう言えば、玄関の鍵かけたっけ……」

って気づいたんです。
Sが出かけた時に「この後、玄関の鍵かけといてくれよ」って言ったのは覚えてます。ただ、うちはSが住んでる地域より田舎だったので、私自身あまり自宅の鍵をかける習慣がなかったんです。

だからもしかしたら、鍵をかけ忘れてるかもしれない……さっきの二人の影が、玄関から入ってくるのを想像して体が震えました。

頼む!あの時の俺、鍵をかけててくれ!
そう願いながら玄関に向かいました。



そしたら、やっぱり鍵をかけ忘れてて――玄関のドアが空いてたんです。


背筋がゾッとしました。

でも開いてたのは少しだけ。チェーンロックの範囲だけでした。
どうやら私、鍵はかけ忘れてたけどチェーンはしてたみたいで。少しホッとしました。

でも、ドアが開いてるってことは誰かが今ドアを引いてるんだって気づいたら、全然ホッと出来なくて。

急にまた怖くなってきたんです。玄関の向こうからあの二人が何か言ってくるんじゃないか。何かしてくるんじゃないかって。


でも、ずっと黙ってるんですよ。


ドアは開いてるのに、何も言わなくて。
ただずっと扉が空いてるだけ。

それもまた余計に不気味だったんですけど、このままにしとくのも怖かったので、私は思い切って玄関を閉めようとドアに近づいたんです。

その瞬間


ズルっ!


って、女の子の顔が隙間から滑り込んで来たんです。

びっくりしすぎて声も出ませんでした。

小さい、幼稚園くらいの女の子でした。
多分さっき見た小さい方の影はこの子だったんでしょう。

隙間から見る限り、帽子をかぶって制服を着た見た目は普通の幼女です。
ても、ドアの隙間から首だけ出してこっちを見てるんです。

不気味でした。

私が声を失ってると

「Sくん、いますか?」

急に、その子が口を開いたんです。
声は見た目通りの小さな女の子なんですけど、何というか、話し方は大人みたいにハキハキしてて、なんだか凄い不気味だったのを覚えてます。

「い、今いないです……」

私がそう答えると

「じゃあ、いつ頃戻ってきますか?」

ってまたハキハキと聞いてきて。
私はどう答えたらいいか分からなくて

「な、なんか遠くに行くから二、三日は戻らないって……」

と、なぜか言っちゃったんですよね。その時。
そしたらまた幼女の顔が


ズルっ!


てドアから消えて、バタン!とドアが閉まったんです。
それと同時くらいに

「なんか二、三日いないんだってさ」

って言ったんです。
多分、隣の人――さっき見た大きい方の人影に言ってるんだと思いました。

そしたらすぐにガシャン!って門が開く音が聞こえたんです。

あ、あいつら出ていったんだ……と思ってホッとしてたらまたガチャ!ってドアが開いて。
私は飛び上がるほどびっくりしたんですけど

「おーい、悪いな待たせちゃって。ここ、開けてくれるか?」

ってドアの隙間からSが言ってきたんです。
慌ててチェーンを外して玄関開けたら、Sとお母さんがいました。

他には、誰もいませんでした。

「い、今、変な二人組いなかった?」

と私が聞いても、二人とも顔を見合わせて、いや誰もいなかったけど……と不思議そうにするだけでした。
私の様子がおかしいと思ったSのお母さんが

「どうしたの◯◯君?何かあった?」

と聞いてくれたんです。
だから私は

「あ、あの……窓から庭を見てたんですけど、そしたら左」

って言った瞬間、殆ど被せるようにSのお母さんが



「あ〜〜〜!!はいはいはいはい!ねぇ〜〜〜〜アレねぇ〜〜〜〜〜!」



って言いながらめっちゃ笑顔で私の肩を叩いてきたんです。
『言いたいことはわかってる』
『全部知ってるよ』
ってそんな感じの雰囲気でした。

そして
『だからそれ以上何も言うな』
って言われてるような気もして……またゾッと怖くなったんです。
そんな風に私が何も言えずに黙ってると

「あ、ちなみになんて返したの?」

って急に聞いてきたんです。

まだ私、何も言ってないのに。

怖かったんですが、答えないわけにもいかないと思って、二、三日戻らないって答えた、って言ったんです。

そしたらSのお母さん、何も言わなかったんですけど、また凄い満面の笑みを浮かべてて。
それもただの笑顔じゃないというか

『おおー!』

って歓声をあげるような

『そう返したかー!』

って関心してるような

そんな感じの、何か面白がってるような、そんな表情だったんです。


それでなぜが買ってきてた高級そうなお菓子を一つくれたんです。


それもらってその日はそのまま帰りました。



その後、それとなく色々聞いたんですけど、Sの家に亡くなった妹がいるとか、あの家自体に何か因縁があるとか、そんなこと何もなかったんですよね。




未だに意味がわからなくて、不気味な記憶です。




人の家で留守番なんかするもんじゃないですよね。

<了>

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出典:
禍ちゃんねる 怒りのワンオペスペシャル (2019年3月4日)
『左から来る』(54:45辺りから)

こちらの話を文章化およびアレンジしたモノになります

タイトルはこちらのwikiより頂きました

二次創作についてはこちらを参考に

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