朝本浩文インタビュー「ジャングル列車で行こう」(1995年/下山ワタル)
THE BOOMのリミックス・アルバム第二弾『REMIX MAN '95』のラスト、「帰ろうかな(Jungle Train Mix)」にフィーチャーされた最新のダンス・ミュージック、それが「ジャングル」だ。H Jungle with t のヒットなどにより日本国内でもその全貌を現しつつある話題のサウンド、ジャングルに、エセコミ編集部が迫る。さあ、行こう、ジャングル列車に乗って、いざダンス・ミュージックの密林へ!
(※本記事は、THE BOOMのファンクラブ季刊誌「エセコミ」第19号(1995年)に掲載されたものです。インタビュー、執筆の下山ワタル氏の許可を得て転載しました。同誌、1992年の朝本浩文インタビュー「電脳パンクス」と併せて読むことをお勧めします)
1990年暮れのイベント〈クリスマスカ〉での出会い以降、「5人目のTHE BOOM」としてTHE BOOMをサポートするとともに、THE BOOMをダブやテクノなどの新しい世界へと常に導いてきたキーボーディスト、朝本浩文。今回の『REMIX MAN '95』では、ダブ・テクノ・ユニット「R.J.W」名義で「帰ろうかな」のジャングル・リミックスに挑戦した。最近はDJとしての活動も増えてきた。THE BOOMサウンドの「化学班」こと朝本さんに「ジャングルのココロ」を聞く。(インタビュアー/下山ワタル)
■ パンク、ハウス、そしてジャングル
———朝本さんがジャングルに興味を持ったきっかけは?
朝本 テレビで、Mビートとジェネラル・リーヴィの「インクレディブル」のビデオクリップを見たのが最初かな。あの曲、イギリスで最初にヒットしたジャングルなんだよね。もともとラガ・テクノとか、REBEL MCみたいなのが好きだったんだけど、あれ以降そういうサウンドってないなぁと思っていたら「ジャングル」が出てきて、まだこういうことやってる奴がいたんだなぁと好感を持った(笑)。あと、アスワドとかのレゲエ・ミュージシャンの12インチシングルに、必ずジャングル・ミックスが入るようになったのが気になり始めて。「ああ、こういうのがジャングルっていうんだ」って認識したのがだいたい95年の初めの頃。
———朝本さんは『ディクショナリー』という雑誌で《思い起こせば15年前パンク、5、6年前ハウスで、今ジャングルって感じかな》とコメントしてましたよね。
朝本 なんだかんだ言ってミュージシャン始めて10年以上になるから、自分が好きなものが系統立って見えてきちゃって(笑)。気づいてみると、レゲエと共有できる部分を持っている音楽が好きだった。他にも好きなものはいっぱいあるけど、ベーシックな部分で好きになれるのはそういうものだったな。
———ジャングルの魅力って何ですか?
朝本 浮遊感、かな。元をたどればレゲエやオールディーズにもあったんだろうけど、「エコー感」っていうか空間がある……音少なめで気持ちいい感覚っていうのが昔からあって。そういう浮遊感のある音楽としてはいちばん新しいジャンルだと思う。もちろんジャングルにはテクノ・テイストのものもあるし、人によってジャングルのどの側面が好きかっていうのは違うと思うけど、俺が作るジャングルはどうしてもレゲエっぽい、浮遊感のあるものになるだろうね。
■ ジャングルの汽車に乗って
———「帰ろうかな」のリミックス(Jungle Train Mix)は、ジャングルを聴いてからすぐに作ったんですか?
朝本 すぐではないけど、自分の作品としては割と初期のものだったね。それまでは聴くだけで、自分で作ろうとは考えなかったから。「帰ろうかな」はMIYAからの要望で「過激な曲がないから、過激にしてくれ」って言われて(笑)。やっぱり、今「過激」って言ったらジャングルだよな、と(笑)。思い切ってジャングルやらなきゃ、と思ってやってみたんだけど、実際にやったらちょっとテンポが速くてキツかったりして(笑)。いろいろ苦労もありましたね。
———MIYAはジャングルを知ってたんでしょうか?
朝本 どうだろう。MIYAとはあまりジャングルの話をしなかったから。でもMIYAも嫌いじゃなかったんじゃないかな。だってDJイベント(1991年)の「テクノ・レゲエ講座」でSL2のレコードかけたり、「夏祭り」(92年)でもふざけたことやってたし、何だっけ、イエロー・マジック・オルケスタ・デラ・ソウル(笑)。テクノあり、ヒップホップあり……。あの時もラガ・テクノっぽいことやってたから。MIYAもきっとやらずにはいられないんじゃないの? そういうフィールドがこの世にある限り。俺も目の前においしいものがあったら、食べずにはいられない性格だから。「これください!」って(笑)。音楽もそれと一緒だからね。テンポのことなんか関係なしに(笑)。自分でもジャングルが気になってた頃でタイミングがよかったから、パクッと(笑)。
———完成したリミックスを聴いて、MIYAは何か言ってましたか?
朝本 気に入ってくれたよ。まあ個人的には俺もMIYAも後半のダブになるところがいちばん落ち着くんだけどね。
———R.J.Wのもう一人、渡辺省二郎さんもジャングルに詳しいんでしょうか?
朝本 渡辺君は俺よりもテクノ的な感性があるから、ジャングルを完全にアンビエント・ミュージックの一種と捉えているようだね。俺が作るとどうしてもラガっぽくなるんだけど、それを渡辺君がミックスすると、アンビエント的なエッセンスが混ざってちょうどいい感じになる。
———「帰ろうかな」のジャングル・ミックスを初めて聴いた時、不思議と笑いが込み上げてきたんですよ。ギャグの感覚があるというか。Mビートが作った「スウィート・ラブ」(アニタ・ベーカー)のジャングル・ヴァージョンを聴いた時にも感じたんですが……。
朝本 ああ。あれを聴いた時は「やられたな」と思った。まあ、ああいう手法(スローなオリジナルのトラックに倍速のビートを乗せる)自体は、以前からラガ・テクノやハードコアにもあったんだけどね。その点、ジャングルに限らずイギリスのクリエイターたちは、切り口が大胆だよね。みんな心の中では思っているんだけど実行に移さないようなことを、信念を持ってガーンとやってくれる。だから、「スウィート・ラブ」を聴いた時もうれしかった。
———「帰ろうかな」もそうだったけど、美しいものをブチ壊してしまうような感覚がありますよね。
朝本 そうそう。そういうセンスは大好きだよ。
■ ジャングルは雑食性のある音楽だ
———これからジャングルはどうなっていくと思いますか?
朝本 うーん。カヴァーじゃなくオリジナルでカッコいい曲がもっとたくさん出てくればきっと面白くなるだろうね。でも、今までパンクなりハウスなりいろんな音楽が産まれてきたけど、ジャングルってその中でもいちばん野蛮なジャンルだよね。パンクはロックンロールやR&Bが自然に進化して生まれたものだし、ハウスにしてもディスコの流れで自然にできたものだけど、ジャングルはブラコンとレゲエとハードコア・テクノっていう、いちばん両極にあるような音楽がくっついて生まれたジャンルだから面白いよね。一種の発明に近いものだから。
———朝本さんは今後、どのようにジャングルと関わっていくつもりですか?
朝本 ジャングルは本当にパンクに負けないくらい雑食性のあるジャンルで、ジャンクもネオアコもパンクも何でも吸収できると思うから、そういう実験的なことはいろいろと試していきたい。この前作ったYOUちゃんのシングル(「陽炎」)もある意味では実験だしね。いろいろやってみますよ。やれることは全部やろうかなと思ってる(笑)。もある意味では実験だしね。いろいろやってみますよ。やれることは全部やろうかなと思ってる(笑)。