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近廣直也 『どうげんぼうずという仕事』 のお知らせ

2024年9月1日に刊行された書籍、近廣直也 『どうげんぼうずという仕事』は、東京・中野の人気ラーメン店 「麺屋どうげんぼうず」 店主が語る「仕事」論です。

「ラーメン屋はラーメンだけ作ってろ」と散々言われるわけやけど、ラーメン屋がラーメンを作るのはただの業務なんよ、ギョーム。差別や虐殺や戦争をやめろって声を上げるんは、「大人の仕事」で、この国の住人の殆どは大人の仕事をサボっとるんよ。(「麺屋どうげんぼうず」Twitterより)

日本産と韓国産の唐辛子を使った、真っ赤なスープが食欲をそそる人気メニュー「辛そば」は差別解消への願いから生まれたこと。近所の子どもやお年寄りをいつも気にかけ、障害を持つ子の介助を続けたこと。年末にはホームレスの人たちの支援に出向くこと。店の定休日にはイスラエル大使館前に「虐殺やめろ」と一人で抗議に立つこと。政治的発言に不寛容な世の中でも常に政治や社会にはっきりと意思表示すること――。

この本では、そんなやさしくも、気骨あるラーメン店主が「仕事」とは何かと語ります。それは、目の前の業務だけではない。困っている人がいたら手を差し伸べ、理不尽なことには声を上げることこそ、「大人の仕事」ではないか、と。

ラーメン屋であり、町のコミュニティであり、プロテスターでもある著者が「仕事」について語り尽くした本、『どうげんぼうずという仕事』。店主・近廣直也(以下、チカヒロ)と、取材・構成を担当したライター・川口和正との「note」での特別対談からその一端を受け取ってください。


近廣直也 『どうげんぼうずという仕事』
取材・構成/川口和正
発行/TUK TUK CAFE
定価 本体 2,000円+税
B6サイズ/オールカラー/156ページ
編集/杉山敦、撮影/沼田学、デザイン/下山ワタル

麺屋どうげんぼうず 店頭
及び、TUK TUK CAFEの通販サイトで販売中。
※ 問い合わせ= tuktukcafepublishing@gmail.com



◉ 著者略歴

近廣直也
1975年、山口県下関市生まれ。ミュージシャンを目指し、17歳で上京。ソロシンガーとして活動する。多くのアルバイトを経て30歳過ぎからラーメン店で働き始め、2013年、東京・笹塚に「麺屋どうげんぼうず」を開業する。2014年、独立して、現在の新中野・鍋横商店街に移転。差別や悪政に明確に反対する舌鋒鋭いツイートも人気で、フォロワーは1万人を超える。イスラエルのパレスチナへの侵攻、虐殺に対し、2024年2月より店の休日を使い、東京・麹町のイスラエル大使館の前で一人で抗議を始める。その様子を記録した動画はアラビア語圏でも大きな共感を呼んだ。好きなものは広島カープと猫。

取材・構成/川口和正
1964年、愛知県生まれ。ライター。テーマは、人と仕事、戦後史など。著書に『ひとりから始めるーー「市民起業家」という生き方』(同友館)、『道遠くともーー弁護士 相磯まつ江』(コモンズ)など。


◉ 特別対談 近廣直也 × 川口和正 『どうげんぼうずという仕事』 を語る


ーーー「麺屋どうげんぼうず」の本を作ろうと思ったのはいつ頃で、どんなきっかけからですか?

川口和正 チカヒロさんのことを記事に書きたいと思ったのは、数年前からです。客として店に通ううち、チカヒロさんの話を聴くようになったんですが、とにかく毎回、惹き込まれた。
 一杯のラーメンが出来上がるまでの話から、動物や子どもたちに対する思い、近所のお年寄りとの関わり、街頭演説に来た自民党の政治家に抗議したときのことなど。ラーメンを食べ終わってから、1~2時間、話を聴いたことは何度もありました。
 チカヒロさんの仕事に対する姿勢、人との関わり方、そして、政治や社会に対して臆せず、発言して行動していることを、活字にしてぜひ伝えたいと思った。
 それで、チカヒロさんにインタビューをお願いしたんです。ただ、文章にまとめたとしても雑誌や本の企画として実現するかどうかはわからない、それに付き合ってもらうのは申し訳ないという気持ちもあって、そのことも合わせて、チカヒロさんに伝えた。すると、「やりましょう!」と快諾してくれた。
 最初にインタビューしたのは、2021年6月です。当時、コロナ禍で何度目かの緊急事態宣言が出されていた頃で、お店は昼のみの営業でした。夕方からシャッターの降りた店内で、話を聴きました。

チカヒロ まず、「企画ありき」ではなかったのが良いと思いました。「書きたいものを書く」というライターさんのシンプルな動機が良い。そのモチーフに選ばれることなんて、なかなかないことだと思うので、照れ臭さもありましたが、川口さんの熱意に負けました(笑)。
 テープレコーダーに録音されてのインタビューなんてのは初めてなので緊張しましたが、録音されてない言葉なんかも川口さんはちゃんと拾ってて、肝は普段の会話だったりします。


ーーーそれが大きく動いたのは今年5月からですよね。まずフォトセッションがあった。写真集『築地魚河岸ブルース』の
写真家・沼田学さん。いかがでしたか?

チカヒロ 写真家に写真を撮ってもらうことなんてないので、とにかく緊張しました。ここでもやっぱり「照れ」との闘いになるのですが、後から撮られた写真を見せてもらうと「ワシ、こんな表情したっけ?」みたいな感じで、いつのまにか照れ笑いと真顔の間の絶妙なところを切り取られてました。

川口和正 沼田さんは、チカヒロさんの働く姿、ラーメンを作っている手の動きなどを活写していて、すごくカッコいい写真なんです。ライブ感が溢れている。厨房や店の前に佇むチカヒロさんからは、素顔も垣間見えてくる。
この本を手に取って、表紙から順にページを繰っていくと、「いま、自分はどうげんぼうずでラーメンを食べている!」という感覚に包まれるはずです。そして、きっと、すぐにお店に食べに行きたくなりますよ。
 本に先がけての企画、フリーペーパー『どうげんぼうず通信01』で行った、チカヒロさんと「甲羅干し懸垂」こと古澤裕介さんとの対談も刺激的でした。イスラエルのガザ虐殺に対して、ひとりでプロテストを続けている2人。チカヒロさんが「大人の仕事」として意思表示していると言えば、古澤さんは「大の大人が明確にバカみたいに戦争反対と言わなくてはいけない」、それは憲法で言う「国民の義務」なのだと。2人の話は、「自分のやり方で声を上げていこう」と背中を押してくれている気がします。

左が「甲羅干し懸垂」こと俳優の古澤裕介さん

チカヒロ 古澤さんを知ったのは「入管法改悪」の時に高円寺かどこかでスタンディングをしてるのを、ツイッターで見た時でした。その時は俳優をやってる人だとは知らなかったのですが、「表現者」だと思ってて、自分でもなぜだかわからないのですが、「板の上の人」に見えてました。
 で、古澤さんに会った時に「立ち姿が綺麗ですね」と言うと、「芝居をする上で、あれが一番難しいんです」って言われて、やっぱり「板の上の人」だと思いましたね。だから彼が街角で立つ姿を見て、ワシらが何かを感じ取るのは、「表現」だからだと思います。

ーーー『どうげんぼうずという仕事』の前半は、麺屋どうげんぼうずができるまで、というチカヒロさんの個人史が中心ですが、「仕事」論としても大変刺激になります。

川口和正 前半では、どうげんぼうずのラーメンが出来上がるまでのプロセスとストーリーも語ってもらいました。「1ミリでもいいから、昨日よりも成長していたい」という意思、「失敗こそが相棒であり、先生である」といった経験から紡がれたメッセージなど、ラーメン屋に限らず、すべての仕事において大事なことが語られています。
 消費税増税やコロナ禍で飲食店は大きな打撃を受けましたが、どうげんぼうずも大変でした。チカヒロさんがその危機をいかに乗り切ったか、あるいは、乗り切ろうとしているか、ここも読みどころです。
 また、先日、チカヒロさんがツイッターで予告していましたが、「ラーメン先生」と題した章も必読ですね。先日、どうげんぼうずが店を構える中野・鍋横商店街の夏祭りに、どうげんぼうずも模擬店を出したんですが、「ラーメン先生」の教え子さんが手伝いに来てくれたんですよ。「ラーメン先生」とは何か、ぜひ本で確かめてください。

チカヒロ 昨日、原稿を改めて読みました。いわゆる「仕事論」を書いてますが、「儲け方」は一切書かれてないという(笑)。なぜなら儲けてないから。道半ばの悪あがきがひたすら書かれております。

ーーー後半はイスラエルによるパレスチナ侵攻後の世界にどう抗いながら生きるかがテーマであるように思えます。

川口和正 イスラエルのガザ虐殺が始まってから、チカヒロさんはさまざまな形で意思表示を続けてきました。今年(2024年)2月からは、東京・麹町のイスラエル大使館前で単身、抗議を続けている。本書の後半では、なぜ、この抗議を始めようと思ったのかということから、話を聴いています。
 このイスラエル大使館前での抗議は、チカヒロさんの友人のダブ山さんが動画で撮影して、SNSにアップしたところ、ものすごい反響があったんですよね。「動画を見て、励まされた」と他県からお店を訪ねる人たちが現れたり、アルジャジーラ系のメディアに取り上げられるなど、国内外からも注目された。そうした広がりをどう思っているのかも語ってもらいました。
 また、政治や社会に対して意思表示することについて、チカヒロさんの考え方が、ここでは存分に語られているのですが、これはたくさんの人を励ますメッセージだと思います。僕自身、とても気持ちが楽になりました。

チカヒロ これも、こないだ改めて1回目の動画から観てみたんですよ。回数を重ねるごとに小慣れてきてるのがわかるんです。これは怖いなと思いました。抗議することの「慣れ」。そのうち虐殺に対する耐性もできてくるんじゃないかという怖さがあります。

ーーーデザインともう一度、写真について語りましょう。本のデザインができていく過程で何度かチェックされていてどうですか?

印刷所から届いた色校正の紙。素晴らしい写真とデザインの束。

川口和正 最初にデザイナーの下山ワタルさんから、本のデザインが送られてきたとき、「おおーっ!」と思わず声が上がったんですよね。その素晴らしさに興奮したんです。沼田さんの写真が持っているライブ感と、下山さんによるデザインの力が組み合わさって、「眺めて楽しめる本」にもなっています。
 本文の間に掲載しているダブ山さんが撮影した写真も素晴らしい。チカヒロさんが近所の子どもたちと遊んでいる様子など、友人として長い間、チカヒロさんと行動をともにしてきたからこそ撮れた写真だと思います。

チカヒロ ワシの剥き出しの言葉に一張羅を着せてもろうた感じがあります。まさにダンヒルの背広。この本はダンヒルです(笑)。

チカヒロさんと川口和正さん、どうげんぼうず店内にて。


ーーー最後に、これから『どうげんぼうずという仕事』を読む人に向けてメッセージをどうぞ。

川口和正 本の全編を貫くテーマは、「大人の仕事とは何か」です。ここで言う仕事とは、職業や業務といった文字通りの仕事だけではない。戦争や差別に対して反対の声を上げたり、困っている人がいたら手を差し伸べることこそ、「大人の仕事」ではないかとチカヒロさんは語っています。ぜひ、そこを受け取ってほしい。

チカヒロ 人間、思うようには生きれないのが世の常で、死後評価は「どう生きたか」やったりしますが、ワシは「どう生きようとしたか」が大事やと思ってます。これからも社会の濁流の中を自分の泳ぎ方で、不細工に泳ごうと思います。


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