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「あわゆき通信」第5号より~ひとり一句鑑賞

配信中のさっぽろ俳句倶楽部の俳句ネプリ「あわゆき通信」第5号、たくさんの方にお手に取っていただき、ありがとうございます。29日まで各コンビニ複合コピー機にてプリントできますので、引き続きよろしくお願いします。

というわけで、発行者の私からも、掲載作家おひとり1句ずつ鑑賞していきたいと思います。

春の雲すきま時間はすかせとく  八日きりん

「春だから」と題する一連の7句は、すべてに「春」の字が入る季語が入るやわらかで、どこかイロニーも漂う作品となっている。

掲句は中七下五のフレーズの韻を踏んだ口語調のリズム感が心地よい句。「すきま時間」すらも、何かを詰め込んで「有意義」に過ごそうとあくせくしてしまう現代人を尻目に、軽やかに無為に身を委ねようとする姿に大いに共感する。「春の雲」は、そんな作中主体と同化して穏やかに自由だ。

鷹鳩と化す天麩羅につゆの染む  山田すずめ

「明日へ続く」と題する一連だが、7句の中のどこにもこのフレーズは登場しない。もちろん、タイトルは必ずしも句の中のフレーズを持ってきて付けるわけではないが、どこにも見当たらないとなると、「明日へ続く」が一連を通底するメッセージでもあるのだろうと、そこへ各俳句を紐づけて収れんさせて読んでみたくなる。

そこで、掲句。実際には起こり得ないことを春の幻想的な気分に重ねた「鷹鳩と化す」の季語と、現実(俗)の「天麩羅につゆの染む」の二物衝撃の構文は、読者の感性を揺さぶって「読み」を引き出す挑戦的な句だ。「鷹」と「鳩」は実際の生き物を指すばかりでなく、思想的なメタファーとしても使われる。そのあたりの「骨抜き感」とつゆの染みた天麩羅のふにゃふにゃ感に通底するものを見た。イキってばかりでは生きられない年齢に達した人ならではの、いい意味での脱力。それが「明日へ続く」生き方の、少し大げさな言い方をすれば奥義でもあろう。

ミステリは未完薔薇の芽の黙秘権   村瀬ふみや

「推理小説」と題する一連の中でも、ひときわ尖って存在感を放っていた句。早春ならではの明るさの中の揺らぎを抒情的に描く句が多い中で、この句は写実から一歩「虚」の世界へ踏み込んだ奥行きがあり、ざらつきに詩の成分を感じる。

ミステリはスッキリ解決してこそカタルシスを得られるのに「未完」なのである。そしてその原因は「薔薇の芽」が「黙秘権」を行使しているから。開いたら、真っ赤な嘘、あるいは血が流れ出てくるのかもしれない。そんな幻覚に囚われる不思議な読後感。

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