【roots2】 《21章》サイラス
ディランとデイブは釣りに来た。
湖の風は優しく気持ち良かった。
「エサは付けてもらえる?」デイブがディランに頼むと「お安いご用さ」とディランが針に付けて
ポチャンと湖面に糸を投げ入れてデイブの手に竿を持たせてくれた。
「ありがとう」
静かに揺れる水の音と鳥の声。穏やかな時間を過ごし心を休める事が出来た。
デイブが三匹、ディランが二匹。5人分釣れたので帰ることにした。
ディランが「サイラスの所に寄るか?」と提案した「そうだね、行こう」デイブも乗って森を歩き出した。
2人並んでデイブがディランの肩に手を乗せてゆっくりと進んだ。
*****
「デイブ心配していたよ」
空の上から声が聞こえた。サイラスの低くて温かい声。
「ありがとうサイラス。ごらんの通りさ」
デイブはあっけらかんと答えて
「治してやれないんだが…」とサイラスはますます低い声で悲しそうに答えた。
「いいんだ」デイブが微笑むと
「チェイスと話をさせてもらえないか?」とサイラスが言った。
「あれから出てこないよ。そんな事出来るかな」デイブが言うとサイラスはクルクルと光の粉のような物をデイブに振りかけた。
粉が地面に全て落ちるとデイブからチェイスが浮かび上がって来た。
「チェイス。はじめましてサイラスだ」
「あんたか。妙な術で色々と邪魔してたのは」
チェイスはデイブから身を乗り出してサイラスに近づいた。
「ということは効力があったんだな。お前、理由があって悪さをしているのか?」
サイラスが聞く
「悪さ?」
「目を差し出させたろ?」
「コイツがどうしてもって言うからさ」
チェイスが鼻で笑った。
「ルビーを狙うと言っただろ」
「言ってねぇよ」
「じゃあ、何て言ったんだ」
「もう力を抑えきれなくなる。誰彼構わず殺してまわる」
チェイスは自慢げに言い放った。
チェイスの言葉にディランは言葉を失った。
「何のためにそんな事を…!!」サイラスが声を荒げ葉がバサバサと音を立てた。
「自分が一番わかってたろ。本当だってさ」
「デイブを苦しめて何が楽しいんだ⁈」
ディランが怒りに耐えかねて口にした。
「俺が手柄を取るのさ。コイツを喰い散らかして全てを手に入れるためにさ!」
ケケケ…とチェイスの高笑いが響きわたる。
その隙をついて、サイラスの枝が四方から伸びてきた。枝はチェイスを縛り上げ空高くヒュンと持ち上げた。
デイブがガクンと膝をついて倒れそうになったのをディランが支えた。
チェイスは急いでスルリと枝から抜けてデイブの中に戻ろうとしたがもう入れなかった。
「おい!何をした!?」
「お前の好きにはさせない!」
サイラスがそう言うとそこだけ嵐が来たように風が強く吹き荒れた。風の勢いでチェイスはデイブに近づけない。
「もうお前は何の力も使えない。他の誰にも入れない。それがお前が手に入れたものだ」
サイラスの言葉にチェイスは焦って手のひらで炎を起こそうとしたが出なかった。
「声も出なくなる。姿も見えなくなる。2度と存在しない。俺も1000年この日を待ってたんでね。お前を消すためにな!!」
サイラスは凍りつくような冷たい声をチェイスに浴びせた。瞬間、スーっと砂のようにチェイスの姿が風に飛んで無くなった。
ディランが「どこに?どうなったんだ?」と言うと「俺の役目を果たせた。良く連れてきてくれたな。ありがとう」とサイラスはいつもの優しい声に戻って「チェイスを消滅させた。デイブは目を覚ませさえすれば見えるようになると思う。ただ少し時間がかかるかもしれないな。誰か迎えを呼んできた方がいい。俺がデイブを守っておくよ」と続けた。
ディランは「わかった。頼むよ」と家へ急いだ。
ディランはオーウェンとサイラスの元へ戻った。
「サイラス!はじめまして。あの…本当に?」オーウェンはチェイスが砂になり風に飛ばされた事が信じられない。
「オーウェンか?デイブを助けてこれまで良く頑張ってきたな」サイラスは優しく褒めてくれた。
「あ、ありがとうございます。僕はデイブが好きだから。それだけです」オーウェンがデイブを抱きしめて答えると
「俺もだよ。こんなに優しい子が1000年も苦しむなんて…見ていられなくてね」
とサイラスが言った。
「デイブは…どうなるんだ?」ディランが待ちきれなくて口を挟むと
「チェイスはデイブに必要がないものだから消してしまったが、確かに今までデイブの中に入っていたものだからな…目が覚めるのに時間がかかるかもしれない」
サイラスの答えにディランは少しうなだれた。それを見てオーウェンが続けて質問をした。
「視力は?戻りますか?」
「戻るよ。悪の契約は無効だから大丈夫だ」
「じゃあ、目が覚めるのを待つだけですね。ありがとうございます」オーウェンはデイブの顔にかかる髪をかき上げてホッとした笑みを浮かべるとシャツをめくって背中を見た。綺麗だった。
「信じたかい?」サイラスが優しく聞いた。
「あ、すみません。安心したくて」
「君もデイブと同じ良い奴だな」
サイラスはふわふわっと温かい気を出して周りを包み込んだ。
*****
オーウェンがデイブを背負ってディランと帰宅した。ルビーが驚いて駆け寄る。
「どうしたの?何があったの!?」
「デイブを降ろしてからな」とオーウェンが微笑んだ。デイブをベッドに寝かせるとルビーを連れてリビングに移動した。
「ディランがサイラスに会わせてくれて」
「うん」
「チェイスを消滅させてくれたんだ」
「え?」
「消えて無くなったんだ」ディランが説明を始めた。「デイブからチェイスを出させて、戻れなくさせて…それで完全に消滅を…」
「そんなことが?サイラスに?」ルビーは自分の胸を押さえた。上手く理解出来ない様子。
「それでね、デイブの中にいたものを消したから目を覚ますのに時間が…かかるかもしれないって」オーウェンが続けた。ルビーはまるでどこか別の人の話をされているような気がして頭の中に言葉が入って来なかった。
意識無く帰宅したデイブの姿から良い未来が想像出来ない。
「そう…」上の空な返事をする。
「視力も戻るって」
「そうなの…」
「ルビー大丈夫か?信じられないのはわかる、わかるけど…本当なんだ」ディランがルビーの両肩を揺さぶった。
ルビーは私に出来る事は…と考えた。
こんな不思議は今までもいくつもあった。その度信じて乗り越えて来たじゃない!皆に心配をかけないでいなくちゃ!と自分に言い聞かせて
「じゃあ、待つだけね!良かった!!ディランありがとう。」と自分を励ますように明るく声を出しディランに抱きついた。ルビーを受け止めてディランは
「目を…もし目を覚さなかったら…」不安そうに呟いた。
「デイブは待たせるのか得意なの。私は待ってばっかりなんだから」とルビーがディランの胸に顔を埋めて呟いた。しんみりして、2人して背中をトントンと叩きあってから顔を見つめて。
ニッコリと笑うと「そうだね。いつもだ」
とディランがルビーに言って子供にするように頭を撫でた。
ルビーは2人を階段で見送ると、寝室で寝ているデイブの長い髪を整えた。寝ているだけよね。きっと前みたいに…戻るのよね。穏やかな笑みを浮かべる顔を見つめて「眠り姫みたいね」と寂しく言っておでこにキスをした。
温かい。デイブの体温が希望を感じさせてくれた。
to be continue…
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サイラス…ありがとう!
ありがとうで、良いんだよね。
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