プロットも完成し、文章の練習も終えました。もう物語を書くのに、なんの障害もありません!
ただ一応、念のため。物語の冒頭部分について、軽く解説をしておきます。
冒頭の重要性
皆さんミュージシャンのライブと聞くと、何を思い浮かべますか?多くの人は数万人が入るドームでのワンマンライブを想像するかと思います。
ただこういったことができるのは、ほんの一握り。小説を書いている人で言えば、名の知れた商業作家がこれにあたります。
これから小説を書き始める人を例えれば、路上ライブのアーティストがあたるでしょう。小説を書いたとしても、相手が目を留めてくれるか分からないあたりが。
別に小説を読んで貰うのは厳しいよ、という訳ではありません。形態が違うという話です。
たとえば好きな作家さんが本を出すとなれば、熱量を持って予約し、いち早く手に入れようとするでしょう。
しかし本屋でたまたま気になる表紙の本を見かけたとします。多くの人は可能であれば最初の数ページ立ち読みし、興味が引かれなかれば買い、そうでなければ他の本を探すでしょう。
そう。名前を知って貰っていない場合、最初の数ページで読むかどうか判断されるのです。
これが小説投稿サイトに投稿したばかりだと、最初の1ページ(1話)が勝負。場合によっては最初の数行でバイバイされる事もあります。
もしあなたの小説が10ページ目(10話)から面白くなるとしても、そこまで読んで貰える保証はないのです。
だから冒頭が勝負!誰かに作品を読んで欲しい人は、これは絶対に覚えておきましょう。
どこから物語を切り取るか
物語の冒頭の大切さは分かって貰えたかと思います。ここからは具体的に興味を持ってもらうための冒頭をどう作るかをレッスンしていきましょう。
まず、物語にとって大切なのは、どこからカメラを入れるか?です。このカメラというのは、読者の視点と考えて下さい。
たとえば大学生の恋愛小説を書くとします。作者の頭の中には主人公の生まれた瞬間から幼少期、高校での青春、大学受験などなど、主人公の人生についての設定が沢山入っている筈です。
しかし主人公とヒロインが出会うのは大学の入学式。だったら主人公の生まれた瞬間から書き初めて、ヒロインが登場しないまま数十ページ続けられても、多くの読者は興味が湧かないない訳です(それで面白くできるなら構いませんが)。
たとえばこういったシーンから始めると、「お?ここからヒロインを落とすのか?」「主人公情けなー、もっと頑張れ!」なんて思って貰える可能性があるのです。
もちろん主人公に恋愛的なトラウマがあるのなら、「高校時代に告白したけどキモがられて泣かれてしまい、それ以来イジメられた」なんてシーンから初めてもいいでしょう。
とにかくそれ単体で興味を惹きつける、面白いシーンから始めてください。
物語の冒頭は面白くするための助走部分ではなく、作品が面白いとアピールするための最も重要な場所です。
状況説明は必須
冒頭シーンが面白い事の重要さを説明しましたが、もちろんそれ以外にも重要な事があります。
それは登場人物や物語の設定、ストーリーの方向性の情報を入れる事です。
恋愛小説を書くのであれば、上記のように書くべきものが沢山あります。
これがないと読者はどう読み進めていけばいいのか分からず、ストレスを感じてしまいかねません。
わざと説明しない作家もいますが、それは説明しなくてもストレスを感じないように高い技術で補っているだけ。強いて言えば、「この物語には謎がある」と明示しているだけです。
説明しない確固たる理由がない限り、ちゃんと冒頭に説明を入れましょう。
説明が長すぎるのは危険
冒頭で説明をしっかり入れるのが大切と説明しました。ただし説明を入れ過ぎるのも危険です。
今から小説を楽しもうとしているのに、難しい参考書ばりにストーリーの設定説明が入っていると、それで萎える人が出てきかねません。
たとえば異世界転生もので、上記の様に自作の用語説明に終始していると、「もういいや……」となってしまいかねないでしょう。
冒頭のシーンでは、必要な情報を必要な分だけ入れる事をおすすめします。
とはいえ参考書ばりに用語説明しているのが誰かにぶっ刺さる事もあるので、そうすべき確固たる理由があるのなら問題は無いでしょう。
色々な冒頭の種類
おもしろいシーンから始めるのをオススメしましたが、もちろん冒頭シーンの正解はありません。
あなたの書こうとしている物語のどこが一番面白いのかは、あなたにしか分かりません。
千差万別なので正直に言えば、こう書きましょう!というメソッドを出すのは逆効果ですらあるでしょう。
でも幾つかパターンがあるので、その紹介をしておきます。自分の物語の面白いシーンを表現するのに、一番使い易いものを参考にして見て下さい。
主人公が読者の代弁者タイプ
記憶を失って転生した主人公の話。何がなんだか、訳がわからない状態です。
このタイプは「何もわからない主人公=まだ説明を受けていない読者」の構図になっています。
主人公が説明を受けて世界の事を知るのと、読者が情報を得て物語を理解するのがリンクしている訳です。
衝撃的な事件から入るタイプ
プロローグでヒロインが亡くなってしまうミステリーの冒頭。生真面目な主人公がヒロインに興味を持った矢先に……という展開になっています。
冒頭から事件が起きて、それを解決していくタイプですね。
これと同じパターンで、過去に起こった事件をプロローグに入れ、1話からは平和に話を始めてるのもオススメです。
主人公の独白から入るタイプ
主人公の独白から入る、異世界転生ものの冒頭。「これからこんな主人公が登場しますよ!」というのを、状況説明と併せて行っています。
読者から共感を得る主人公というよりは、言い難い事をバシッと言ってくれる系主人公に向いているでしょう。
またこれについては、一人称で行うのが良いと思います。
ポエムから入るタイプ
いわゆるポエムから入るタイプの小説。ポエムから入るのは賛否両論ですが、この冒頭がラストシーンにバシッと決まると非常にカッコいい形態です。
刺さる人には刺さるので、カッコいい冒頭にするべき物語を思いついたら、挑戦してみてください。
冒頭が決まればそのまま書けば大丈夫
冒頭のシーンを書くため気を付けるべき事、冒頭シーンの幾つかのパターンは頭に入ったかと思います。
後はもう恐れずに書いてみてください。今まで体験した事のないほどの面白さが、そこにある筈です。
小説を書くことは、小説を読むことの何倍も楽しいのですから。
物語を完成させる瞬間は、初恋の相手に告白する時ぐらいドキドキする筈です。是非!
今手元にあるその設定を、書き出した冒頭シーンを、最後まで書き進めて下さい。
大丈夫です。ラストシーンもそこに至るまでの道筋もしっかり考えているのですから、最後まで書けない理由はありません。
自分の作ったキャラを信じて、結末まで導いてあげて下さい。
全て書き終わった後で再度冒頭を調整する
冒頭の大切さをあまりにも解いてしまったので、書き出しに悩んで先に進めなくなってしまった人もいるかも知れません。その場合は冒頭は適当に書いて、まず先に進んで下さい。
全て書き終わった後で冒頭に戻り、再度冒頭を考え直せば大丈夫です。
またしっかり冒頭を考えて書いたよ、という方も同じ。物語を書き終わったら、冒頭に戻って冒頭を書き直してください。
よっぽどのことが無ければ、最初に書いた冒頭の方向性と、実際に書いた物語の結末はズレれている筈です。
そしてそのまま冒頭から最後まで手直しをしていくのです。時間を掛けて良いので、物語を丁寧に飾ってあげて下さい。
それが終わって初めて、その小説は完成します。
今後の更新の案内
全10回に渡って長編小説を書くためのレッスンをしてきました。お付き合いいただきありがとうございます。
全ての工程を超えた今、きっと小説を書き上げる力がついているでしょう。とは言え、まだまだ詰まることは多い筈。
物語をより綺麗に書くための文法に、魅力的なキャラ設定、小説投稿サイトの使い方、小説を書くのに参考になる作品の紹介などなど。
「ただ小説を書く」以上の事をするために、必要な知識は沢山あります。
今後はそういった講座を行っていくので、ぜひチャックしていって下さい。
また「この部分をもっと詳しく教えて欲しい」というのがあれば、気軽にコメント頂けるとありがたいです。
ではまた次の講座でお会いしましょう。まだ見ぬ物語が世に生まれる一助になると信じて。