小説の9割は地の文!正確に情報を伝えるための練習 小説講座その3
会話とキャラ固めができたので、いよいよ地の文を書いていきます。ただ地の文というのは非常に広い範囲を指すので、無軌道に練習する訳にはいきません。
今回は範囲を絞る意味で、対話式小説に地の文を足す形で解説を行っていきます。
対話式に地の文を足す
今まではキャラ同士の会話や、その会話の元となる設定について練習してきてもらいました。ここからは地の文について解説していきます。
ただ小説における地の文というのは、「会話以外の文章」と定義されています。つまり主人公の心理描写も情景描写も設定の説明すら、全て一緒くたに地の文と区分されてしまう訳です。
これを無軌道に学ぶのは、少々非効率的。なので最初は対話式小説から少しだけ広げ、会話と会話の間に入る説明的な地の文から練習していって貰います。
地の文の練習・例示
会話と会話の間に入れる地の文は、文学的な表現にする必要はありません。「必要な情報を過不足なく入れる」ことを第一に考えましょう。
これが会話のみで成立する対話式小説。ここに地の文を入れて、通常の小説にしていく訳です。
そのためには何をしなければいけないのか?気付いていた人もいると思いますが、「」の前の「男子高校生A」と「女子高生B」というネームタグを外す必要があります。なぜなら、これが付いていると小説ではなく「台本」に近くなってしまうからからです。
ただ実は『男子高校生A』と『女子高生B』というネームタグには、非常に多くの情報が詰め込まれています。なのでただ外すだけでは文章が成立しません。
一度細かい解説をする前に、例として男子高校生Aと女子高生Bのセリフ割りを外し、代わりに必要な情報を入れ込んでみます。
必要な情報を地の文に入れ込みました。入れたのは自然にするために、必要な情報だけです。しかし会話だけの文に比べて、かなり長くなってしまうのが分かります。
「そもそも行動がプラスされている」という指摘もあるかと思います。これは地の文で情報量を増やしている関係で、「恋愛ってね、かわいいものじゃないんだよ」の一言で含みを持たせてFOすることが難しいというのが理由。
バランスをとるために行動をプラスする必要があるのです。
誰が話しているかをわかるようにする
最初の対話式小説では、カッコの前に「男子高校生A」「女子高生B」と、誰が話しているのか分かるようにマークを付けていました。
ただこれは舞台の台本の方法で、多くの小説ではこの手法は使いません。小説にするには、地の文で誰が話しているのかを説明する必要があります。
これは意外に難しかったりするので、幾つかの気を付けるべき点を紹介していきます。
上が誰が話しているのかのネームタグを除外したものです。2人で話しているという前提がないと、かなり読みにくいかと思います。
誰が誰に話しているのかを明らかにする・実践
会話の地の文に絶対に必要な情報は、「誰が誰に話しているか」です。まずそれをメモしていって下さい。
下記の様に不自然な文章になりますが、一旦それで大丈夫です。
2人での会話だと説明を入れること自体は簡単。ただしこのままだと、まるで英語の教科書の出来の悪い和訳のよう。
次の省略をうまく使うことで、小説の形に近付きます。
要らない情報をまとめてメリハリを付ける
先程の会話が英語の和訳のように奇妙なのは、減点されないように情報を過剰に入れ込んでしまっているからです。
日本語らしくするには、省略の作業が必要。たとえば以下の部分を考えていきます。
少々不自然ではありますが、誰が話しているのかはなんとなくわかる筈です。
ただ情報を省略し過ぎだと感じた方もいるでしょう。以下の様にすると、より分かり易くなるかと思います。
まあ伝わる文章になりましたが、AIの書いた文章みたいです。
AIっぽい違和感の正体は、日本語表現の不正確さ。それを直すとこうなります。
これで違和感は消えた筈です。
ちなみに今回説明のために手順を分けましたが、実はもっともっと省略することができます。
これについては後の見出しで説明していきましょう。
本当に必要なのは状況説明・実践
この文章が分かり難いのは、誰と誰が、いつ、どこで話しているのかが分からないからです。
なので、まずはその3つを考えていきましょう。
誰?:男子高校生Aと女子高生B
どこで?:ファストフード店
いつ?:放課後
基本的にこの3つの情報は、必要不可欠です。逆に言えば、この情報さえ入れれば小説は成り立ちます。
本当に必要最低限の3つ情報を入れる場合、以下の様な文章になります。
このように最低限の情報を入れれば、十分伝わる文章になります。正直、拍子抜けするほど簡単でしょう。
これほどまでに情報を削れるのは、この会話が2人で行われているから。最初の鍵括弧をどちらが話しているのかさえ説明すれば、あとは読み手が理解してくれる訳です。
もちろん最低限だけしか入れていないので、これよりさらに情報を入れる事はできます。最初に例として出した文章を思い出して貰えれば、分かり易いでしょう。
ただ情報は多ければ、それでいいというものでもありません。
重要なシーンであればしっかりと情報を入れる必要があるでしょう。しかしどうでもいい日常のシーンでくどい文章が続くと、読んでいる内に疲れてしまいます。
丁寧に情報が入った文章と、さっくり読める文章。使い分けてメリハリを付けると良いでしょう。
表現のパターンをストックして使い分ける
上記では全ての文章を「言った」と表現しているので、奇妙な文章になってしまっています。
これを防ぐには表現のパターンを変えていく必要があります。
たとえば上の表現は、様々に言い換えることが可能です。
全て「男子高校生Aが女子高生Bに言った」の、言い換え表現になります。
人間は同じことが繰り返されると、ストレスを感じてしまう生き物。ですので、できるだけ様々なパターンで表現できるようになりましょう。
この表現はその場その場で考えるのではなく、自分の得意のパターンとして持っておくと便利です。言い変えについては、都度類語辞典で調べてメモしておきましょう。
因みに「そう尋ねたのは、男子高校生Aだった」などの表現が成り立つのは、この場にいるのが2人だけだから。「男子高校生Aが尋ねたなら、尋ねられたのは女子高生Bに決まり切っている」となる訳です。
心情や様子を入れる
どういう状況で会話をしているかなどの情報を、地の文に入れて貰う練習をしました。次はキャラの動きや心情を、文章に入れ込んでいきましょう。
例として下記の一文を考えていきます。
まず考えるのは、「私『ぽっくりさん』にお願いしたら、木村くんと付き合えたし」と言った女子高生Bの心情です。
ただ事実として言っているのか?付き合えてうれしい気持ちが多いのか?ぽっくりさんに頼ったことを後悔しているのか?これらの気持ちがないまぜになっているのか?
今回の場合は「後悔はしているが、開き直って自己を保っている」という風にしておきます。
次に考えるべきは、その心情を女子高生Bがどう表現するかです。
後悔を悟られないように淡々と話すのか?後悔を滲ませるのか?逆に開き直って自慢する感じなのか?
様々な選択肢がありますが、今は「後悔を悟られないように淡々と話す」としておきます。これによってこの状況説明は、「後悔はしているが、開き直って自己を保っている」女子高生Bが「後悔を悟られないように淡々と話す」になります。
注意が必要なのは、これを知っているのは作者だけということ。事前に女子高生Bの心情を開示していない場合は、直接的な表現は避け、気持ちを匂わせる程度の行動描写を留めておきましょう。
地の文の勉強は、どこまで行っても正解はありません。今は完成を目指さなくていいので、ある程度自由に描写できるレベルまで練習をしておいて下さい。
3人登場する対話式小説については、次回以降のレッスンで練習をして貰います。