#34 サケノチカラ
酒の力がないと言えない!
そんなセリフを耳にしたことがある。
普段勇気がなくて言えないことも、お酒の席なら話してしまえる。
そんな力が、お酒にはある。
例えば、告白。
好きなあの子に言いたいけれど、しらふじゃとても伝えられない。
そんな時、お酒の力があれば。
心に秘めた思いの丈を、声を大にして伝えられるかもしれない。
だが一方で。
「お酒の席での失敗」というものも数多くある。
上司にため口を聞いてしまったり。
お財布や荷物をなくしてしまったり。
朝まで会場で眠ってしまったり。
気持ち悪くなって吐いてしまったり。
そして、そんな昨夜の記憶がなかったり。
こういった「記憶のないこと」を後で友人から聞けば、たいてい穴があったら入りたいほどの恥ずかしさを覚えることだろう。
そこで、ひとつ疑問がわく。
この、「飲んで記憶にない」ときの行動は、果たして普段言えない本心が、酒の力を借りて出てきてしまったものなのだろうか??
先日、わたしの誕生日祝いを兼ねて、パートナーと飲みに出かけた。
都会で生活していた時と違い、田舎で飲むときは車で出かけるのが常。
なので、普段は「代行」で帰る必要があるのだが、この日は、行ってみたかったクラフトビール店が遠方にあったこともあり、ホテル予約の上、一泊で飲みまくる予定にしていた。
もう籍を入れる日にちも決め、その日はプロポーズを受ける記念日になるはずだった。
しかし、照れを隠したい気持ちも手伝ったのか、いつもに増してお酒のペースが速いパートナー。
ビール好きな彼は、一件目のクラフトビール店でご飯もろくに食べないまま、一時間未満の滞在でたぶん2L以上は飲んだ。
そして続いて焼き鳥屋さんへ。
こじんまりとした店内は、カウンター席が6つほどと、テーブル席が4つほど。
わたしたちは一番奥のカウンターに通された。
焼き鳥数本などおつまみを注文して、改めて乾杯。
わたしももともとお酒は好きなのだが、この日は持病の薬の効果が切れてきたのか、途中から気持ち悪くなってきたため、飲むのを控えていた。
パートナーはハイボールを数杯。
わたしが残した梅酒も飲んで、いい感じに酔っぱらってきていた。
酔いのせいか、だんだんと声が大きくなるパートナー。
いつもわざとわたしをからかう癖があるのだが。
この時は、まあびっくりな問題発言が飛び出してきた。
「〇〇(わたしの名前)ってさ、ほんとブサイクだよね」
結構な大きさで、衝撃発言。
一瞬、周囲の会話がストップした。
寄せられる視線。いや確かに、面と向かってこんなこと相手に大声で言ってたら、話の内容気になるよね。笑
「ちょっともう、またそんなこと言っていじめるんだから~!」
冗談やめてよ~と、笑いながら受け流すわたし。
周囲もその言葉で、「ああ、冗談なのか」という感じで視線が離れていく。
そのあとまた別の話をし、少ししてパートナーがトイレに立つ。
わたしはそこで複雑な胸に手をやった。
(ちょっと待って。お酒に酔っぱらって言ってるってことは、もしかしてこれが本音ってこと?!)
わたしは特段、自分がかわいいとか美人とか、そんなことは思っていない。
だが、まあ人並というか、少なくともブサイクな部類ではないと思っていた。
普段から、からかって「もっとかわいい子がいたらそっちにいく」とか言われることはあったけれど、面と向かって「ブサイク」といわれたことはないため、正直困惑した。
たぶん相当酔っぱらってるから、無意識での発言だろう。
ならば、本当は顔に不満があったということなのか?!
結婚を間近に控え、なんだったら今日指輪をもらう予定だったのに(注:ばれている)、なかなかの爆弾投下をしてくれるではないか!!
その後、わたしの調子がさらに悪くなり、二軒目にしてホテルに退散。
パートナーはもはや前後不覚で、足元もおぼつかない。
(ここまで酔っぱらうのも珍しいな)
よっぽどいつも言いたいことが言えずに我慢がたまっている証拠なのか?と、わたしの脳裏には悶々とした思いがうごめいていた。
コンビニで追加のお酒とおつまみを買って部屋に戻ると、おもむろにカバンをごそごそしだすパートナー。
カバンから紙袋を取り出し、ベッドに横になるわたしに投げてよこした。
「逃げるなら今のうちだぞ。これ受け取ったらもう逃げられないからな」
これが、プロポーズの言葉になった。
投げてよこしたのは、指輪のはいった紙袋。
「これのサイズがあわなかったら結婚相手じゃないってことで」
まるで靴がぴったりな人が結婚相手、というシンデレラを探すかのようなセリフを吐いて。
そのまま、パートナーは寝てしまった。
おおお。
まさかの指輪を投げつけられる事件?!w
さっきのお店での発言もあるし、いろいろ大丈夫なのか???
思わず、わたしは携帯でGoogle先生に質問してみた。
『酔っぱらいの話 本音』
すると、諸説出てきた。
酔うと本音がでる、という説。
対して、酔っているときは判断力が極めて低い状態。だからこそ車の運転も禁止されており、信用などできない、という説。
むむう。
まあでも、普段サプライズとか誕生日のお祝いとか、照れくさいのか、こういったことにはとんとうといパートナーが、今日この日ばかりはいろいろなプランを練ってくれていた。
酔っぱらって前後不覚になっても、寝る前に「指輪を渡す」ことは覚えていてくれたことなどもプラスに考えれば、「お酒の失態」として、さっきのブサイク発言は後者、「酔っぱらいの戯言」として大目にみてあげようか。
ふう、とため息をつき、パートナーの寝顔にデコピンをした。
…翌朝。
「昨日の夜のこと、覚えてる?」
念のため追及すると、パートナーはまるで身に覚えがない、といった風だった。
「あ、ちょっと待って、俺、指輪渡したっけ??」
「投げつけられたよ、覚えてないの?」
「うわあああ、全く記憶がないいいいい」
ブサイク呼ばわりしたことも、指輪を渡したことも、全く記憶になかったようで。
「しばらくこのネタでいじるからね。じゃあ、プロポーズもやり直しで」
後悔を隠し切れない彼より、正式に指輪をはめていただきました。
とりあえず指輪のサイズはぴったり。
無事にシンデレラにはなれたようです。笑
お酒の席の発言を、どこまで真に受けるか。
これは、最終的には自己判断でしかない。
調べていると、結構それでもめているカップルが世の中には存在しているようで。
まあでも、そんな失敗も含めてつきあえる相手なら、この先も末永く続く気がする。
というわけで。
あなたもサケノチカラに躍らせられないようご注意を。
月猫は、パートナーの弱みをひとつ握ったと喜びながら、3度目のお嫁に行きます。笑