
さくら
#9
「えっ…何て?」
久しぶりに顔を見せたと思ったら、相変わらず訳のわからない人だ。
「いや〜、柊子が言ってた事の確認みたいな気持ちで言ってみたんだけどさ」
大荷物の中から、小さな袋を取り出して私を見る。
「はい、お土産」
海外へ行く度に、柊子と私にはお土産を必ず買って来るようになった。
柊子には、訳のわからない現地のお守りみたいなモノ。
私には、唯一の趣味とも言える紅茶を。
それを、柊子が作って来てくれるお菓子に合わせて私は出している。
紫郎のお土産とは言わずに。
「これ、て紅茶じゃないよね」
「うん、一応石入ってるよ。モルガナイトとかって言って、お前の名前の色だよ」
少し幅のあるストレートなラインの真ん中に、埋め込まれるように小さなピンク色の石がある。
「俺のは石無しね」
とはめられている左手を見せ笑う。
紫郎にこんな情緒ある事に少し驚いて、言葉を無くした。
でも『気に入ったんだ』と言われて、私が頬を緩めている事を知る。
私たちが一緒にいる事で、紫郎は兄妹のように、私は親友のように、柊子の側にいつでも行ける。
苦しくなって、逃げるように外の世界へ行く事をしなくていい。
心が縛られる事なく自由になれたのかもしれないと私は思った。
でも…
「違う。俺は柊子を俺と同じにしただけだ。
気がつかないよ、一生。それでも幸せだろう。お前もいるし」
そうかもしれない、柊子は気がつかないままいつもを過ごせるのなら、それでいい。