
さくら
#5
紫郎の事はよく知らない。
柊子が子どもの頃の話しをする時に、時々出てくる。
今目の前にいる紫郎の様子からすると、兄妹みたいな感じなのかなと思った。
「柊子の事は、面倒くさいと思う時は過ぎた」
そう言うと、キョトンとした顔をして
「あんた見かけによらず、我慢強いんだ」
とちょっと馬鹿にされたような気がする。
キョトンとした顔は少しかわいいと、見直しかけたのに、やっぱりやな奴だと思った。
そんな紫郎は暫く私をじっと見てくる。
そして『まっいいか』と呟いて
「あのさ…」
と柊子の小さい頃の話しをし始めた。
最初はよくある(うちの子天才かも…)みたいな感じだったらしい。
些細な事でもよく覚えていて、何処に何があるかとか、何かさせたりすると、気が済むまで何度もやり直したりとか、兎に角何でも自分でやって、手のかからない子どもだった。
だけれど、その反面『違う』と言われたり、手を出そうとすると抵抗して泣き出す事もあった。
親たちは自立心の強い子だと、見守る事にした。
ただ、親戚の集まりで急にいなくなり、慌てて捜すと納戸代わりにしていた部屋に篭って、ひとりて本を読んでいたりしてちょっと変わった子どもとも言われていた。
小学生になると、時々学校を休みたがる事があった。
理由は席替えだったり、体育の授業がある時だったり、給食で嫌いな献立だったりで、流石に『いいよ』とは言えないので無理やり登校させていた。
柊子はその度、保健室に逃げたり、図書館で本を読んで過ごしたりしていた。
もちろん親への報告、呼び出しがあった。
何度目かの呼び出しの時、スクールカウンセラーの立ち会いがあり、
「お嬢さんは、HSPかもしれないですね」
と言われ、戸惑ってしまった。
柊子との面談で理由を聞いてみると、体育教師からタバコの臭いがして嫌だったり、給食で出された物が家と違う味で食べられないけれど、残す事か許されないという事だったり、席替えに関しては、今の席から変わりたくないからという理由だった。
紫郎は馬鹿みたいな理由だなと思っていたが、柊子にとっては重要な事だった。