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絶望の中で 9話

 ボクは自分が子供である事に、こんなに恐怖を覚えた事はない。

 放課後の図書室は静かで、居心地の良い場所だった。
 今は彼女のせいで、少しうるさい。
 けれど、出会いの時の印象と違って、本当に少しだけだった。
 彼女は我儘を言うけれど、激しくはないし、我儘を言った後に、ボクの顔を伺うように見る。
 我儘を言われているのはボクなのに、そんな彼女の顔は意地悪な感じではなく、かわいそうな感じがした。
 だから、少しだけ我儘を聞いてあげた。

 今日の彼女は少し顔色が悪い。
 そして機嫌も悪かった。
 ボクが図書室に行くと、すでに司書先生が彼女と話をしていて、ボクは本を読むのを諦めてふたりの所へと向かった。
 ボクに気がつくと、ふたりが話すのをやめて司書先生が慌ててボクに声をかける。
 いつもと違う雰囲気に嫌な感じがする。
 彼女は「遅い」と言ってボクを睨む。
 いつもの雰囲気になった事で、少し安心して
 「ごめんなさい」
 といつものように言う。
 その後彼女は、机にうつ伏せて寝てしまった。
 「少し疲れているみたい」
 と司書先生が呟いてボクに、
 「用事があってここを離れるから、彼女の様子を見ててね」
 と頼んで図書室から離れる。
 ボクは、彼女が寝ている時は本が読めるので喜んだ。
 最近お気に入りの『世界の歴史』を、借りていく本と今読みたい本を選んで、その場に座り込んで読み始めた。
 夢中になって読んでいたから、気が付かなかった。
 外が暗くなってきているのに。
 慌てて借りる本以外を、棚に返す。
 受付を見たが、司書先生は帰って来ている様子がない。
 とりあえず彼女を起こしに近づくと、青白い顔を歪めて、苦しそうにうずくまっていた。
 「どうしたの…」
 手を伸ばそうとして、やめた。
 (それよりも司書先生を…違う、保健室の先生を…かな)
 彼女にどう言葉をかけるべきなのか、誰か大人を呼ぶべきなのか。
 苦しんでいる彼女を残して行っていいのか…だからといって彼女を抱える事もできないボク。
 どうするべきなのか迷ってボクは固まってしまった。

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