絶望の中で 11話
ボクは先生にほんの少し見栄を張った。
ボクの耳は少し周りの音が聞こえづらいくらいで、もっと痛くて熱を出したり、大変なひともいるから今のままでも怖くないと。
でも、先生はそう言うボクを叱った。
痛みや熱が出ないからそのまま放っておくともっと耳が聞こえなくなったり、重度の中耳炎に変わっちゃう事もあるみたいだ。
先生の話は難しかったけれど、ボクが考えているよりは怖い事になるらしい。
散々脅されてうつむくボクに
「ちゃんと治療すればそんな事にはならないよ」
そう言って笑った顔はいつもの優しい顔より、ちょっと意地悪な顔に見えた。
きっとボクのよくないクセに気が付いているからだ。
先生と話しする時は気をつけているけれど、普段のボクは聞こえないフリをする事がある。
お母さんにもよく怒られていた。
でも、病院に通うようになってからは、あまり怒らなくなった。
クラスの子や担任には、天然とかボーッとしている子だと思われて許されてきた。
許してくれなかったのは司書先生と、先生だけだ。
怒るわけではないけれど、ボクの顔を見て、ボクのペースに合わせて話をしてくれるから逃れられない。
今熱を出して聞こえないフリをしているのは、
あの日の図書室での出来事を、誰もボクを責めずにいるからだ。
あの時、お迎えに来ていた彼女のお母さんの慌てた顔を今も思い出す。
ボクが悪いのに、ボクがダメだったのに。
もう一度彼女に会ったら、ボクを責めてくれるだろうか。
彼女もボクを逃してくれないひとだから。
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