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絶望の中で 10話

 ボクは3日間熱を出して、学校を休んだ。

 今日は、耳の奥に溜まった液体を出す為に、鼓膜切開をする事になっている。
 麻酔をするから多分強い痛みはない事、切開する時音がする事、鼓膜表面の麻酔から切開の間まで動かない事等の説明を受けて、診察台に横になる。
 目を閉じて、兎に角終わるのを待つだけのボクに、あの時の彼女が思い出される。
 (ごめんね……)

 ボクはあの時、彼女が少し青い顔をしていた事を知っていた。
 それに、図書室に入る前に司書先生と話をしていた声も聞こえていた。
 いつも図書室だったり、保健室で眠っている姿も、話した後に息苦しくしている姿も知っている。
 でも、彼女がそれを扱って欲しくない事も知っている。
 ボクにとっての彼女は、気が強くて我儘で、彼女に振り回される話し相手だ。
 それが子どもであるボクと彼女の間柄。
 話をする事も、しない事もお互いの我儘の中にある。
 それ以上がある時は、司書先生が見ていてくれて、声を掛けてくれて調整する。
 心地よい空間に気持ちが緩んでいた。
 あの時『見ててね』と司書先生に言われていたのに。

 その時ボクの耳に、音と痛みが広がった。
 それが合図のように、ボクの目から涙がにじむ。
 先生は、心配して優しく慰めてくれたけれど、この涙はきっと痛みのせいじゃない。
 だけれど、それを先生に伝える事はできないから、早く涙を止めるように目をふさぐ。
 今度の左耳の鼓膜切開の時は、泣かないようにしようと思った。






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