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1話
きのう、ふたりからひとりになった。
別にいい。
少し好きになりかけていたけれど、すごくじゃなかったし。
彼から最後のメッセージは簡単。
『零(しずく)ありがとう
特に大事な物ないから捨てていいよ』
ありがとうってなんだろう。
家に泊まらせてあげた事かな?
まだ毛先のきれいな、歯ブラシを捨てた。
雨に降られた時、服を洗濯してあげた事かな?
初めて泊まった時、コンビニで買ったパンツも捨てる。
ご飯奢ってあげた事かな?
時々コンビニ弁当を持ってきて、増えていった割り箸も捨てる。
夜中にミルクティー入れてあげた事かな?
ドリンクのおまけでもらった、カップも捨てる。
返ってこないセーターの事かな?
彼が友だちから、借りたままのパーカーもいらないよね。知らない人だし、返せないし。
「ほんと、大事な物何も無いなぁ…」
多分私は、中間者。
彼が次に行く為に、自信無くしちゃった言葉とか、表情とか、身体の使い方とか…
きっと取り戻せたから、いらなくなっちゃったんだね。
ほんとこの家に、大事な物何にも無かったんだね。