見出し画像

柊子 末

 中には指輪がひとつ。
 シンプルで細い指輪は片割れを無くして、心細く収まっている。
 紫郎は捨てていいって言っていたけれど。
 「かわいそう」
 『高嶺の花子さん』は、紫郎の相手が私では無かったからか、仮に入れてあったこの指輪を何故か私宛で返してきて、静かになった。
 私は紫郎に散々文句を言って、指輪を取りに来るよう伝えたのに、
 「それ、お前にやるよ」
 と言うと勝手に電話を切る。
 それから直ぐに(しばらく帰って来られないから、さくらと遊んでな)とメッセージを送ってきた。
 花子さんはコレはめてみたかもしれないし、紫郎には捨てられて、かわいそう。
私は、指輪を中性洗剤に浸して、柔らかいブラシで汚れを落とし、洗ってタオルで丁寧に拭いた。
 ピカピカになった指輪は、そんなにキズも無くすごくかわいくなった気がする。
 磨いた指輪の写真と一緒に(いらないなら私がもらうね)とメッセージを入れた。
 (いいよ)と直ぐにメッセージが返ってくる。
 私のモノになった指輪をどこにはめようかと、色々試してみたが、右手薬指にピッタリ収まった。

いいなと思ったら応援しよう!