絶望の中で 最終話
ボクは、少し大人になった気がする。
あの後、もう片方の鼓膜切開をして、もう一度最初の方の耳を切開した、
先生は多分もう鼓膜切開しなくても大丈夫だろうと言ってくれた。
年齢が大きくなると、身体も大きくなるから耳菅も大きくなって治るよと説明された。
後は時々先生の所で診てもらう以外は、自分で鼻をつまんで耳抜きをしたり、あくびをしたりした。
「やりすぎない様に」
と言われ、この時初めて先生に文句を言った。
「先生、ボクはもう誕生日も来てひとつ大人になりました。いっつもわかりやすく話すのは有り難いですが、今度からやめてください」
先生はしばらくポカンとした顔をしていたけれど、直ぐに笑って
「わかったよ」
と言ってくれた。
実は、先生に会う時言おうと思って言葉を考え、練習をしておいたのだ。
練習の成果は出た気がするけど、先生はまだ笑っている。
ボクは少しずつ面倒臭い事に慣れるようにした。
お母さんの話を聞いてお手伝いもする。
お父さんは毎日帰って来るようになるかもしれない。
クラスの子とも話をするし、笑うし、違うっていう事もある。
担任とも普通に話せている…と思う。
そうやって過ごして疲れる事にも慣れてきて、ボクはひとつ学年が上がった。
ボクは図書委員になって、自分の為だけじゃ無い日にも図書室に行く。
司書先生はいなくなって、話ができなくなったけれど、どこかの学校でボクみたいな子と話をしてるかも。
保健室にはあまり行かなくなった。
ボクはまだ、誰かと話をする事も下手くそだ。
だから疲れて眠る前に、時々彼女の事を思い出す。
彼女が笑っていて、怒っていて、走っていて、歌を歌っている。
『感情を出すのって疲れちゃうよね』って言って嬉しそうにしている姿を想う。
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