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5話
冷えた体がようやく温まってくる。
小さなお鍋でお湯を沸かして、はちみつ紅茶を入れてくれる。
逸(すぐる)は不器用なぶん、できるまで集中する人。
お茶を淹れるのも、聿から長時間指導を受けたみたいだ。
そんな逸は、私みたいなのにつけ込まれる優しい人。
中学生だった時、保健室通いが通常の私は、皆んなから好かれていなかった。
私を『認知しない』『どうでもいい』『見下している』のどれかだった。
その『見下している』枠に、逸の妹がいた。
兄の友人として、いつも近くにいた聿の事を好きだったらしい。
逸は聿の付き添いで、初めて私と言葉を交わした時は『どうでもいい』枠にいたはずなのに、自分の妹が私をやり込めていた現場に遭遇した時から『護る』というか『見張る』枠に自分を入れた。
その時の私は、自身のコントロールを放棄してふらふらしている様に見えたらしい。
今思うと、通常通り保健室にいた私を何度も訪ねてくる聿にも、そう見えていたのかもしれない。
私をやり込めていた妹の方は、聿から『認知しない』枠に入れられてしまった。
それから、聿の前でだけ優しい気に振る舞うものの、それ以外では酷い態度のまま。
それでも聿からの『認知しない』枠を外される事もなく、逸からも護られている私を、遠くから睨むだけの存在になった。
昔のことを思い出して、肩を撫でた。
逸はそんな私を見て、ベッドに誘導して重なるように横になる。
そして背中やお腹を、私が眠りにつくまでさすってくれた。