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6話
「まぁた風呂場で寝てる」
浴槽の縁にもたれて目を閉じている私は、目を閉じたまま『寝てない』と答える。
そろそろ上がりたいと思っているのに、逸がいたら上がれない。
別に恥ずかしいとかでなく、後ろめたい?が正解かもしれない。
でも、逸がその手にタオルを構えているという事は、上がって来いという事だから。
大人しく逸に従う。
私の身体をタオルで包む時、やっぱり嫌な顔をした。
「だって…別れたばっかりだし」
だからって別れる直前にしてなきゃ残るはずもないと正論言われても…
「でき易いうえに、残り易いし」
こんな言い訳聞き飽きている逸は、呆れた様に私の身体に残るアザを確認する。
転んだも、ぶつけたも理由にならない場所にあるソレをどうする事もできないから、いつもより優しく身体を拭いてくれた。
家に遊びに来ていた逸は、私が『お礼』をしているのを1番最初に気づいた人だ。
家庭教師が帰った後、玄関でぼんやりしていた私の手首にあるアザに気がついたのだ。
長袖だったのに何で見えちゃったのか、気をつけていたつもりだったのに。
聿はその時期特有のやっかいさで適切な距離を取っていたし、私がいつもぼんやりしている姿を見ているので気がつかない。
だから逸は聿に警戒を促した。
逸のいつもと違うただならぬ雰囲気に何かを感じたらしく、私を助けてくれた。
一人暮らしを始めた頃からこんな風に接するようになった逸だけれど、私たちの間には何も無い。
『護る』『見張る』が形になったのがコレなのだ。
「いつもごめんね」
「いや、来週あるだろう。だから…」
あぁ…もうすぐ父の…忘れていた。