表裏の縁Ⅲ:弐
「本当だな?」
「ええ。絶影本人から聞いたわ。」
《スピットファイヤ》が店にいない隙に、ボスに仕事の話があると猫目石の部屋に入って貰って話を伝える。《スピットファイヤ》自身はどこで何してるのか分からないけど。どこほっつき歩いてんのかしら。証拠らしい証拠が無いと言うこともキチンと話したけれど、ボスとしては《スピットファイヤ》に疑念があるようで恐らくは絶影の予測通り《スピットファイヤ》の仕業だろうと思ったみたい。ボスは《スピットファイヤ》への信頼よりも絶影への信頼度の方が圧倒的にあると言う事ね。
「調べ上げてからにはなるが本当にやらかしてるなら、締め上げてどこから情報掴んだのか吐かせないとならないな。制裁も当然受けてもらう。」
「結構に重度な違反だと思うけど。」
「裏切り行為は重罪だ。」
ボスが普段はあまり見せない冷徹な顔になってるのが分かる。これは完全怒らせたわね。《スピットファイヤ》……ブレイズは消される可能性が高いわね。ボスの言った通り裏切り行為は最大級の重罪なのよ。店の評判や店員の安全にも関わる。ボスがそこら辺、かなり厳しいの知ってる筈なのに良くも絶影を闇討ちしようとしたわね……命知らずな事を。私としても絶影が嘘をつくとは思えないし、あの子の角で拾った音というのも充分、信頼出来ると思ってるからもう《スピットファイヤ》……ブレイズがやらかしてる前提で話しちゃってるけれどね。
「既に戻ってくる気がない、とかもあり得るかしら。」
「あり得るな。そうなれば俺達で探し出して始末をつける。」
「……なんで絶影を狙ったのかしら。新米の頃にアウラ族の特徴、貶してたのは私も覚えてるんだけど。」
「……ありゃ嫉妬もしてた様子がある。絶影、仕事の達成率高いだろ。店に詰めてる時間は少ないながら一定数、客取って成功率が高いのはアイツだけだ。」
レディとスカーは詰めてる時間長いから別枠な、とボスが言う。たしかに私と通称スカーは店に良く居るわね。居る事が多い、居る時間が長いって言うのはご指名がなかった場合に役割を振られる可能性が高くなる。私とスカーはその立場ね。絶影はと言えば表向きの仕事にもかなり比重を置いてるから、店に詰めている時間は少ないのよね。ブレイズはまぁ、その中間かしら。居ない時間もあるけど絶影ほど長くないし、居る時間も私やスカーほど長くない。それでいてツメの甘いトコがあってブレイズの仕事は成功率がやや下がる。尻拭いもそこそこ発生するから、ボスからの評価は厳しめ。それでもクビにしないのは人材は貴重なのと一応、腕は上がっていたから、なのよね。ボスは一応、ブレイズに伸び代があると踏んでたって事なんだけど……それよりも嫉妬だのからくる余分な行為が出たって感じかしら。
「仕事の質の良さはそのまま高評価になる。当然、俺から見たら絶影は手放したくない部下の一人だ。レディ、スカーとも良い関係だろ。そこら辺も妬んでた気はある。」
「はぁ〜……めんどくさい奴ってのはどうしてそうなのかしら。」
「そうだから面倒くさいんだろうな。スカーは実力主義だからブレイズを信用してなかった節もあるしな。」
「スカーはストイックだから。ヘマした時のフォロー、してはくれるけど必ず釘は刺してくるし嫌味を言われるものね。一言だけだけど。」
「さて、数日待ってブレイズが顔出さなかったらそれこそレディとスカーに追跡と始末付けてもらうぞ。」
「オッケーよ。あと手袋預かってるの。」
絶影がブレイズであろう奴からどうにかして奪い取った布手袋を一応、ボスに見せておく。証拠品になるから預けたいけど良い?と頼むとすぐに受け取ってくれる。ボスは今でこそ店に居て表の店員をしながら裏へのお客が居ないか目を光らせてるけど、もっと若い頃には裏側の店員もしっかりこなしてきた実力の持ち主なのよね。今でも必要とあらば情報収集に自ら赴くし、技術もしっかりキープ出来ている。今回の裏切り行為に関しては店のルール違反な訳だからボスも直々に調べるでしょうし、あの手袋は役にたつでしょう。じゃあ後はいつも通りにしておきましょうと部屋を出る。スカーは奥の部屋で得物のメンテナンスをしてるし、ブレイズは今のところ姿が無い。帰らないつもりかしら。それともそろそろ絶影の死体の確認に行ったかしらね。生きてるから忽然と消えてる事になるけど。ジゼルちゃんは絶影と何かしらのやり取りを今までもした事がある口振りだったけど、現場からあの洞窟までの足跡や血の跡も丁寧に消したらしくて残ってなかったから混乱するでしょうね。
数日して、ブレイズが店に顔を出した。落ち着きなくキョロキョロしてるのは絶影が居るのかどうか確認しようとしてるんでしょうね。恐らく、ここ数日の間に死体の確認をしに行ったはず。でも絶影は生き延びたわけだから身体は現場に残ってない。絶影の殺したターゲットのは転がってたかもしれないけど。結局、仕留めたと思った相手が確認出来ない、生きている可能性が有ると悟って近辺を探すくらいはしてみたんでしょう。無駄なわけだけど。なら、店に戻って来たのか?と確かめに来たんでしょうね。最も今、絶影は示し合わせてあるから不在。ブレイズが居ない内に、裏切り行為があった事をスカー達にも共有しておいたから店員達は全員、事情を把握済み。裏切り行為を行った存在をどう扱うか?なんて改めて言わなくても、みんな理解しているからある意味、全員で待ち構えていたようなものね。実際、同僚の1人はやっと《ネズミ》が来たねと笑っていたわね。私達は基本、誰かを《片づける事》に慣れてるからそれが突然身内に発生したとしてもこんな具合で楽しめちゃう手合いが多い。もちろん、面倒な事態に違いないんだけど。
―あの小僧、いけ好かねえとは思ってたが一線超えたかぁ。覚えとく。絶影にゃ災難だったなぁ。―
スカーは表情の分かりにくい顔なんだけど、話をした時には呆れたように笑ったのが分かったわね。何というか、獣の顔そのもので表情汲み取りづらいわよね、ロスガルって。他の店員達にもとっくに通達はされてる。何日か前にボスはスカーを連れ出してアレコレ調べてきたらしくて、あの手袋の片割れをブレイズの隠れ家からしっかり見つけてきたみたい。裏の店員達はそれぞれ拠点だとか隠れ家を持ってる筈ではあるけど、当然場所は秘密でお互い知らないのに探り当てたのね。流石だわ。とりあえずコッソリと絶影本人ににも連絡して、ボス達とも示し合わせて閉店間際には店まで出向く様に伝えておいた。あの子は何日か、どこかの山奥に隠れていたらしい。漸く、ベッドで寝れそうか?と冗談を言いながら直ぐに向かうと通信を切った。あの病み上がりで野宿してたとかズレてるわね……回復遅れるだけでしょうに。若いころ……この店に来たばかりの頃からずっとそうだけど、あの子はあんまり自分の負傷を気にしてない様子なのよね。
他の店員にも、裏切り行為が有ったのでブレイズには仕事を振らない事と、警戒をする事が通達済みなわけだし、その話題には触れずに通常通り接しつつ、お客が現れたとしても仕事も割り振らない、と言う状況を全員で作っておく。店に顔を出しに来た以上、今夜締め上げる事になるわね。夜分遅くに全員お客を返して店が閉まる頃、頃合いだろうとスカーがブレイズに声をかけて捕まえる。ここしばらく姿見なかったがなんかあったのか?と心配する素振りで。ブレイズは絶影のように長く留守にならないからスカーの接触の仕方は自然なんだけど、ブレイズの側に後ろめたいモノがあるから本来なら普通の声掛けなのにビビってる節があるわね。表向きの店が閉まると、それは裏の店も今日の受け付けを停止する合図になる。スカーの声かけでウロウロしていた足を止めさせられたブレイズが当たり障りのない会話を続けてはいる。どこか視線が定まらないのは不安だからでしょうね。気づけば店員達がブレイズを囲んで立っている形になった。表向きの店員達も裏側を知って勤めている癖の強い連中で、物腰柔らかそうな感じの人達ばかりなのに皆んな当たり前に強い。一線を退いた元殺し屋や怪我で引退せざる得なくなった元傭兵。そんな人達が店員だったりするのよ、ここ。気が付いた時には囲まれていたから、ブレイズが何事かと周りを見渡してる。身に覚えがあるから怖いでしょうね。
「な、なんだよ皆して。」
「なんの連絡も無しにしばらく来ねえから皆《気にしてた》ってだけさぁ。」
スカーが声音を変えずにそう言うのと同時に、ボスが最後に姿を見せた。奥の部屋で何かしてた見たいね。何してたのかしら。
「閉店なら帰って良いよな?」
「いや、ちょっと時間寄越せ。」
ボスが普段よりも冷たい声になる。表向きの店にも頻繁に出入りして接客もするからボスはかなり愛想が良くて人も良さそうなんだけど、裏側の顔はこうなのよね。威圧的。
「お前がルール違反をしたと報告が上がってる。それも同僚への襲撃と最大級の裏切り行為だ。ルールを犯した奴がどうなるか、忘れちゃ居ないだろな?」
「何の話だよ!」
「絶影への襲撃行為を確認してる。腹くくれよブレイズ。俺は裏切り者がこの世で一番嫌いなんだよ。」
「証拠はあんのかよ!とばっちりは辞めてくれよな!?」
青ざめた顔と微かに震えた声では強がりにしか見えないし、実際ハッタリのために精一杯、強がってんでしょうねコレ。裏で働いているわりにはブレイズは結構小心者なのよね。別にそれで構わないけど《同僚》を裏切るのはダメに決まってる。ボスが酷く冷めた顔のまま、呆れたように肩をすくめてみせる。証拠を出せ、と言う台詞ほど墓穴掘ってるように聞こえる言葉はねえんだけどな、と。身に覚えがないならそんなに慌てねえだろうにと呟いてるのが聞こえた。身に覚えありすぎてもうパニック起こしてるわね。店員達が包囲してきたと言うことは皆んなも既に何かしらを知っていると流石にブレイズも理解してるでしょうし。そりゃ怖いわよね、殺しのプロ達に囲まれるなんて。
「証拠ねぇ、本人に聞けば良いか?」
「は?」
「しらばっくれる気らしいぞ、どうする?」
ボスがブレイズを睨んだままで誰かに向かってそう声をかけてすぐ、スッと絶影がスカーの背中から歩み出てくる。ブレイズが声にならない悲鳴をあげて蒼ざめたのが良く見えた。見事な陰に潜む術。足音どころか呼吸音さえ聞こえてこないと言うのが絶影の怖いところなのよ。人の隣を通り抜ける時、ほんの僅かに風の流れが起きてしまうのにそれさえほとんど感じ取れないと言う不気味な程の隠れ方。勿論、気配だって感じ取ることができない。自分の後ろに絶影が居たと気づいたスカーさえ、あれお前其処に居たのかよぉ?と目を丸くしてる。ボスは示し合わせてあったみたいでわかってた様子ね。奥の部屋で絶影とこっそり相談してた感じかしら、これは。ゆっくりとブレイズの前に立って、絶影が陰った笑みを見せる。
「証拠か、俺の証言が証拠で良いな?」
「なっ、おまっ……。息してなかっ……!」
「相変わらずツメが甘いねぇお前さんは。息してなかっただぁ?そう言うのの確認したって事の自白だぞ。」
スカーに笑われて、しまったとブレイズが唇を噛むのがわかる。やっぱりこの子、殺し屋向いてないわね。小心者でも仕事さえこなせればそれで良いけど、この子はそれ故に軽率な行動と発言をしすぎる気がするわ。なんでこの世界に首突っ込んだか知らないけど。成功させれば報酬が大きいのは確かで、それを目当てに首を突っ込む子達ってのは居るんだけど……ブレイズもそうだったのかしら?だとしたら自分への向き不向きが分かっていなかったのでしょうね。目先の利益だけに飛びつくのは、殺し屋だろうとそうじゃなかろうとリスクが伴い過ぎる。特に殺し屋なんか危険性が段違いなのだし。
「生憎、俺はあの世に嫌われてるらしくてな。……痛かったぞ?アンタに腹刺されんのは。」
「ッ……!」
「おぉっと抵抗なんか辞めとけよぉ。裏切り者は絶対に許さないのがボスの方針だ。そしてこの店に勤めてる俺らにとって、ボスが法律だぁ。」
「もう一つ、この手袋はお前のだろ?絶影が抵抗中に奪った奴の片割れがお前のアジトから出て来たぞ。」
隠れ家まで見つかってるのかとブレイズが声を失うのがわかる。ルール違反をすると言うのはこう言う事なのよ。あらゆる方向から逃げ道を徹底的に塞がれて一歩も動けなくされる。獲物が動けなくなった後はどうするか?簡単な話よね?私達は狩人なのだから。だからこそ店員達はみんな下手なことをしようと思わないし、しない。ここの店に勤めると合意した以上は、店のルールは絶対。その一線を超えたのだから自業自得よブレイズ。同情の余地もない。
「絶影。お前の仕事は?」
「復讐専門の殺し屋。」
「そうだったな。じゃ、《復讐》果たしとけ。」
ボスが暗にブレイズを消せと言った瞬間、店員達が全員それぞれの武器を握るのが分かる。金属の音から革や木材の擦れる音。刃物に限らずナックルや杖に槍、それに弓や銃。凡ゆる武器が次々に取り出される音と光景。店員達が全員で逃がさないと言う意思表示をする。ブレイズの味方は居ない。ボスの方針、この店のルールに従わないと言うことは消される事とみんな知ってる。だからこそ、裏切り者が出ればみんなも許さない。ボスの方針を守る事が自分の身を守る事だから、ね。ニヤッと絶影が笑うのが見える。
「お前が蒔いた種だ。収穫しておけ?」
「ひっ!」
逃げ場もない。抵抗するにも数が多すぎる。絶望的でしょう。でも絶影の言ったように本人の蒔いた種。するりと一瞬で距離を詰めた絶影が、恐怖で固まっているブレイズの腹に思い切り得物を突き刺した。された事をやり返したって事ね。避けるどころか身構える暇さえ無かったからアッサリと体を貫かれてブレイズの目が白黒となる。ブレイズがビビってたのもあるけど、絶影は動きが速いのよね。身構えていても一瞬で目の前まで距離を詰めてくるから怖い。
「……それじゃあな。」
短い別れの言葉を口にしながら、絶影がブレイズを刺したままの片方の双剣を持ち替えて一気に下へ。当然、肉も内臓も損傷して強引に裂けていくから酷い痛みでしょうね。痛すぎて声が出ない様子だけど。目を真っ白に裏返してブレイズの体が頭からひっくり返る。ドスンと重い音とホコリを立てて倒れたまま痙攣するばかりで動かない。動けない、の間違いね。
「《掃除屋》頼む。」
もう助かりはしないと分かりきっているから、ボスが直ぐさま店員のフリをしている《掃除屋》に仕事だと割り振る。はいよと馴染みの《掃除屋》がまだ痙攣したままのブレイズを覗き込んで笑うのが分かる。彼は普段は店にいないんだけど、ブレイズが顔だしたからボスが呼んだのね?今、気が着いたけどいつから居たのかしら。
「おバカだねえ。表のルール違反よりも遥かに、裏のルール違反は《重罪》なのに。さぁ綺麗さっぱり消しちまおう。」
癖のある喋り方。《掃除屋》は初老のヒューランなんだけど見た目の割にテキパキ動くのよね。何というか老けてるだけで実際にはまだ若いのかしら?私達ヴィエラは見た目としての老いがないからイマイチ、ピンとこない。彼には仕事の時に度々、遺体の掃除を頼むけど本当に綺麗に消しちゃうのよね。どうやってるのか見当もつかないけど。一応、彼以外にも後二人ばかり、遺体処理専門の《掃除屋》が居るけどあまりに綺麗に掃除するから彼が一番人気ね。今回もその腕前を買ってボスが直々に呼んだんでしょうし。なんせここは表向いた店の顔もあるから血の匂いだの死臭だのが残っちゃいけないもの。
「手伝うか?」
「そうさね、血の後処理はちょいと面倒だ。頼めるかい絶影の坊や。」
「あぁ。」
俺がシメたんだしな、と絶影が答えて、《掃除屋》を手伝い始める。《掃除屋》は私達のことは普通に呼ぶのに絶影の事だけは坊やと呼ぶのよね。最年少だからなのか、何か《掃除屋》個人の基準が有るのか分からないけど。呼ばれてる側の絶影も、最初こそ不思議そうにしてたけど直ぐに気にしなくなってたわね。絶影とは付けてくれてるから俺だと分かるし困る訳でも無い、実際俺はガキだろうし、と。ここに初めて来た頃の話だから絶影は10代半ばか、後半の頃だったわね。他の店員達も、何事もなかったように普通に店の片付けをし始めた。この辺の動じないっぷりが明らかに俗世の人達と違うわよね。ほんの数分前に人が殺されて遺体も転がってるのに普通の飲食店としての片付けが当然のように始まるんだから。
「でも良かったのか、情報漏れの事聞かなくて。」
「それなんだがな。お前のターゲットと接触してたのが分かった。お前が狙ってるのを教えつつ、ターゲットの行動を把握しといて守ってやるとかテキトーな事言って見張ってたらしい。」
「俺のターゲットはどうやって割った?」
「詳細書類を見た。自分の仕事確認したいからとか管理補助をする奴にうそぶいたらしい。補助担当には厳重注意した。」
ブレイズの《片付け》を手伝いつつ、ボスの話も聞く。どうせ暇だしと私とスカーもお掃除を手伝いながら聞いたけど割と初歩的な情報漏れね。仕事内容をまとめた書類は基本的にボスが管理するけど数がそれなりだから信頼に足ると判断された店員が一人、補助担当として触れる権利を持つのよね。その子に適当な嘘をついてた、と。
「すみません。皆様、そう言った嘘を仰ったことが無かったので信じて見せてしまって……。」
その補助担当がしっかり顔だして来て頭を下げている。顔色が悪いのはこんな騒ぎにまでなったからでしょう。それこそこの子に罰則が発生する事も有る。そもそも書類を確認したいと言われたとして、書類にかかれた案件担当の名前と聞き出そうとした奴の名前が合致するかくらい見るはずなんだけど……。それを怠ったのかしらね?今まで嘘を吐かれたことが無くて、店員達は皆、真面目だからと油断したって事かしら。なんにせよ迂闊な行動ね。
「俺もあの程度の不意打ち対処できなかったんでな。そこは俺の責任だ。元締め、担当への罰則は有るのか?」
「迂闊だったのは間違いないんでな、今月分いくらか減給になる。」
「……そうか。」
「疑うのを悪く思わないで欲しいんだけど、ブレイズとグルだった訳じゃ無いのね?」
最悪の事態としては、ブレイズとこの担当ちゃんがグルで絶影を嵌めようとした展開かしらね?と念を押す。そんな話になってるなら私達、他の店員達にだって不利益だもの。《同僚》を誰かに売り渡すような奴が情報管理してたらたまったもんじゃない。店員達の中で情報管理の才が有る子に何人か目をつけて、店での振る舞いや素行を吟味した上でボスが直接任命するのが補助担当だから、大概真面目でしっかりした人が成る。ボスの目は厳しいから。今回、やらかした担当ちゃんは結構長く役目をこなして来てたから驚きでもあるのよね。ブレイズ如きに騙されるなんてって意味で。私達が嘘を言わないから、と彼女言ってるけど、嘘なんかつこうもんなら片されちゃうの分かってるから保身の為なのよね。特しないのよ嘘ついたところで。ブレイズは嘘ついてご覧の通りなワケだし。
「疑われるのも当然ですので気にしないですが、グルじゃ無いです。」
「一応、俺らで調べはしたんだがなぁ、嘘ついてねぇよこの姐ちゃん。」
「あら、スカーいつの間に?ボスと調べてたって事?」
ボスも疑ったのね?そりゃそうよね。それでいてしっかり調べもした、と。補助担当ちゃんがヒェッと小さな声で呻くのが分かる。いつのまに!?とびっくりしたらしい。まぁ、情報収集は基本よね。それでいて担当ちゃんは調べられてる事には全く気がついてなかったと。ボスなんかは元殺し屋らしいんだけど、引退済みで直接的な仕事はもうしてない筈。それでも当然のように気が付かれずに調べて回ってるんだから侮れないわね。多分、仕事そのものもまだ出来る筈なのよね。まだまだ現役でやれるのを退いたのは、年齢的にヘマをし出す前に若手育てる側に回ろうと思ったからって話してた事あるけど、本音かどうかはまた別ね。悪意がなかったとはいえ情報漏れを起こした子なんかそれこそ消されると思うんだけど、お咎めとしてはお給金減らすので済ませる見たい。調べをつけた末に、悪意は無くブレイズともグルじゃ無いから、みたいだけどだいぶん優しい対処ね。最も今後、補助担当を見る目がキツくなるからそれだけでもかなり怖いんだけどね。ボスは警戒させたり怒らせるとやっぱり店内一、怖い。
「さてさて此処だと大きな作業は流石に出来ないから運び出すとするよ。」
「なら其処からは《掃除屋》任せの方が良いよな?」
「そうさね。《仕事場》に持ってくからねえ。床掃除だけ坊や達に頼むかね。ボスはどうするね、確認しに来るかね?」
「そうだな。俺は確認に行こう。」
「ええともさ。やましい事なんざ無いからね。」
ケラケラと笑いながら、《掃除屋》がブレイズの死体を綺麗に袋に詰め込んで担ぎ上げる。彼の仕事場は何処だか知らないけど、そこまで運んで多分、バラバラにするんでしょう。ここで切断されたらめちゃくちゃになるから運び出すって事みたいだけど。ボスが着いて行くのは死んでる事と死体の処理を見届けるため。店仕舞いはやりに来るから暇な奴が俺が帰るまで居残ってろと言い置いてボス達が去って行く。床に落ちた血だの体液だのを、特に戸惑うこともなく絶影が掃除してる。スカーと私も手伝うけど、この子、掃除も好きよね多分。
「傷はもう平気なのかぁ絶影。」
「問題無い。数日、動かないでおいたし。」
「あんま無理すんなよ。まだ顔色良くねぇから。」
「そうか?」
絶影は元から顔色は悪い子なんだけど、スカーの言う通りちょっといつもより青いわね。表の店員や他の《同僚》達が帰るかどうするかと考えているのを見て、私がボス待つから、みんな帰って良いわよと声を掛けておく。どうせ帰る先は私一人過ごす小さな部屋だし、用事もないからここでノンビリしてれば良いわ。じゃあ、と少しずつ店員達が帰って行く。店を一歩出れば表裏も何もないただの人。家庭のある人もいれば独り身もいるし、なんなら身寄りのないもの同士で寝床となる家を共有してる人もいる。片づけをしている最中、スカーがなにとなしに腹が減ったと零すのを聞いて、なんか作ってくるか?と絶影が首を傾げた。片づけ優先してもいいが、と。じゃあ片づけやっといてやるから食い物くれとスカーが言うのでついでに私のもお願いと頼んでおく。待っている間、スカーと一緒に片してればいいし。承知したよ、と絶影が一度、手洗い場まで去っていく。きっちり手洗いをしてから調理を始めるんでしょう。あの子は料理が好きらしいのよね。今日の余り物で適当な食事を作ってくれる見たい。有り難いわね、帰ってから支度するより作ってもらったやつをここで食べて帰る方が私としてもラクだわ。色々やってると慣れちゃうとは言え、仕事済ませて帰宅してから自分の食事作るのって億劫なのよね。
気付けば私達三人だけになっていて、ボスが帰って来た頃には絶影の作ったまかない料理ができていた。絶影はしっかり、ボスの分もこしらえておいたみたいね。そういえばこの子、目隠しのまま料理するのね……?一応、あれは仮面だから視界はあるらしいんだけどぱっと見どう見ても前が見えない装備にしか見えないから不思議だわ。私とスカーでフォークやらスプーン、小皿を出して絶影の作った賄いご飯も並べてもらう。余り物のくず野菜のスープと、明日に持ち越さない方が良い大山羊の肉をサイコロ型にして焼いた奴と、こんがり焼いたパン。
「いいね美味そうだぁ。いただきます。」
「頂きます。絶影は暫く無理するなよ。大分いいとはお前言ったがやっぱり顔色が良くねえ。」
「スカーもそう言うんだよな……。分かった。」
「手当てはしたけど、ダメージそのものはどうしても多少残るから無理も無いわ。災難ね。やっかみで刺されるなんて。」
「初対面の時から俺が嫌いだったらしいからな。」
絶影が初めてこの店に来た時、ブレイズはこの子を揶揄ったのよね。角や鱗、尻尾のある種族が物珍しくてでしょう。その当時、既に私もスカーもここに居たから主に私達が止めたのよね。ヴィエラとロスガルもその頃はあんまり居なくて私達も散々、悪意のある揶揄いをされて来たからこそ、新米のアウラをおちょくるのは見てて気分の良いものじゃなかったから。ただ、揶揄われた絶影はきっぱりと種族を貶すのは最低で、趣味が悪いと言い放ったのよね。先祖達からのルーツを否定するのは失礼にも程があるって。真っ向から反論があると思ってなかったのか、ブレイズはそれ以降も何かと絶影に突っかかりがちだったわね。絶影の方といえば、まともに相手をする程の価値はないと思ってたらしくて適当にあしらってた。アウラ族を貶す言動の時だけは淡々と反論してたけどそれ以外は聞き流してたわね。どっちが年上なんだか分かったもんじゃなかったわ。
「先輩ヅラしたかったぽいなぁ。その実、双剣士に基礎仕込まれてた絶影のが上手だったんだけどなあ。」
滑稽だったな、とスカーが笑う。絶影がここに来たのは双剣士からのツテだったのよね。非常に優秀な双剣使いで飛び抜けて気配を断つのが上手いって。それもそのはずでこの子の技は双剣士のソレを凌駕する忍びの技だった。アイツは磨けば伸びると踏んだんだが……結局は本人が自惚れてて駄目だったな。早めに切るべきだった。良い働き手を自惚れた三流に殺されちゃ大損害だ、とボスが苦い顔になる。絶影が無事でよかったよ、と。
「簡単にゃ死なないからそこは心配無い。さっきも言ったが俺はあの世に嫌われてる。」
「お前のなぁ、そう言うトコ心配なんだよなぁ。」
スカーが大山羊のサイコロステーキをフォークで口に放りながら言うのが聞こえてくる。まるきりライオンが食器使いながら食事してるみたいで何度一緒に食事しても面白いわね。ロスガルの寿命は知らないし、見た目では年齢も分からないながらスカーも絶影よりはずっと歳上のはずね。ボスはもちろん、私も歳上。そもそもドライドロップの最年少は今でも絶影なんだもの。誰から見てもヒヨコちゃん扱いになるのよね。アウラ族としてはもう中堅なんだぞ?と本人は苦笑いを浮かべてるけど。
「スカーの言う通り、もう少しお前の生命は重要なものとして扱え。お前は優秀な人材なんだ。雇ってる側としちゃ簡単に手放したく無い。あの世に出入りしてるような気配が始終付いて回ってるのが心配だ。」
そうなのよね。絶影は独特の気配を纏ってるんだけどソレがどう考えても、何度考えても、死の気配なのよ。ボスが言うようにまるであの世に出入りしてるんじゃ無いかって言うような独特の気配。明らかに生きているのに気配だけは《死んでる。》酷くうっすらと質のいい絹の布がこの子の周りを包んでいるみたいに、死者としての気配が纏わり付いている感じ。その気配は凄く美してく冷んやりしていて蠱惑的であるのに、同時に異様に恐ろしい。魅入られたら変なとこに引きずり込まれそう。ある意味では出入りしてるんだろうな。死にかけても死なずに戻って来てるから俺は、と絶影が小さめの声で呟く。表情は分からない。けど。死を受け入れてしまっている者の顔だと感じる。この子は抗わないのかしら。ブレイズにやられて危険だった時は死ぬ気は無かったように感じたけど。
「私に手助けを頼んだりするのに、どこか生きる気力は希薄なのよねあんた。」
「《死にたく無い時には死にたく無い》からな。気に入らない奴に死なされるのは俺としては受け入れ難いってだけだ。」
逆を言えば納得出来るような相手からの死なら受け入れてしまうって事なんでしょうね、この口振りは。このあたりの気力の無さというか、生きる事への執着が感じられない部分が絶影の気配を不気味にしている要因でもありそう。生きているのに死者のような気配を纏う理由に、その生きる気力の無さも関わってるように感じる。
「そう言えばお前を助けようとした子が居たそうだな?危ない橋を渡るカタギの子が居たもんだ。」
「……見て見ぬ振りをして立ち去れと言ったよ、勿論。だが瀕死と見て捨て置けなかったそうだ。」
「優しい子だなぁ。俺らに関わるのは危ねえのに。」
「危険な事に飛びこむのを愉しんでる節のある子なんだろうと思う。」
「ははぁなるほどなぁ?俺が言うもんじゃ無いだろうが物好きだなぁ。」
俺達は人殺しが生業なんだからなぁとスカーが笑う。ホント、私達のがよっぽど物好きよ。お金もらって誰かを殺して生活するのを楽しんじゃってる。勿論、ここに勤めてる店員が全員そうって訳じゃないんだけど、私とスカーと絶影は間違い無く愉しんでやってる手合いね。絶影はそれこそ表向きの仕事ってのも愉しんでるらしくて店に顔を出さなくなる期間も長い子だけど、私とスカーは入り浸ってる域だもの。それだけここの仕事に関わる回数も時間も多い。他の店員は絶影のように表向きの仕事に比重を置いてる子も居るし、給金がいいからと言う金銭面が理由で裏稼業をしてる子も勿論居る。自分の技術が明らかに裏で役立つと踏んだからと言う割り切った子も。楽しいからってこの仕事してるのは少数派。つまりは物好きって事になるわね。
「何にせよお前が無事で、お前を助けた子も無事ならそれでいい。礼を払うのなら丁重にな。」
「ああ、そうする。俺の方こそ元締め達に手間かけさせて悪かった。」
「気にするな。お前は巻き込まれた側でやらかした奴が諸悪の根源だからな。それも排除済みだ。」
ついさっき其処で誰かを消した直後に、こうしてそいつの話題を出しながら食事が平気でできてしまうのも多分、なんかおかしいのよね。人殺した直後に関係ないとは言え生き物の肉を平然と食べちゃえるんだもの私達。駄目な人なら吐くわよね、これ。それこそ絶影はこの遺体の片づけを手伝いした後に、お肉を生の状態で切ったり焼いたりしてたわけだけどなんら不愉快そうにしてないし。それを平気で食べているわけだし、やっぱ私たちは全員なんかズレてるわね…。
「元締めもスカーも顔色悪いって言うし、もう少し休むかな。」
「そうしろ。《表向きの顔》に支障が出ても困るだろう。」
「ちゃんと回復してから帰ってこいよなぁ。」
じゃないと張り合いも無いからなぁ、とスカーが絶影の頭をガシガシと撫でる。《同僚》とは言えライバルでもあるからね私達。ただしお互いの足を引っ張るような真似はしない。協力はすれど妨害はしない。それもここのルールだし、不利益を出すのはそもそも不毛だしね。実際、足を引っ張ろうとしたブレイズはあの世へご案内されているわけだし。そうなるのが分かっているから私たちは掟破りをしない。そもそもここに勤めると決めた時の契約書にきっかり《ルールを破った場合は命の保証はしない》と書いてあって私たちはそれに同意してるわけだからね。同意するとサインまでした契約を破るというのはそれだけ重たい行為なのよ。
「やられといて疑問なんだがトドメを刺さなかったのはなんでなんだろうな。」
心臓なり喉なり脳なり、潰しときゃ確実に死んだろうに、と絶影が本気で不思議そうにする。たしかに、呼吸の有無は確かめたのに駄目押しはしなかったのよねブレイズ。念のために急所を損傷させる判断だってできた筈よね。呼吸が無かったあたり気絶してたんでしょう、絶影。
「ターゲットからの抵抗でヘマをしたと思わせたかったらしい。一撃だけ正確な反撃をするなんて素人には無理なんだがな。」
「……どこなら確殺できるかなんて素人は判らないからむしろあちこち浅く刺したりすんだけどな。」
殺したいわりに確殺を狙わないなんて、と絶影が肩をすくめる。自分ごとなのに他人事みたいに言うわね……。あるいみダメ押しが無かったから助かったようなもんなのに。ただ殺し屋って殺しきるのが仕事であるからこそ絶影が疑問に思うのも理解は出来る。けど、ブレイズの襲撃は仕事ではなかったわけだし……。絶影のターゲットが襲われたとき、抵抗した末に絶影に反撃を直撃させたみたいな体を装いたかったんでしょうけどちょっと無理があるわね。ボスが言うように、素人が正確な反撃を一撃で行うなんてのは不可能なんだから。絶影が言うように、やみくもに得物を振り回したり刺そうとしたりして浅い傷が複数着いたりするほうが自然なのよ。なにせ私達の側はプロで攻撃のいなし方なんて慣れてるし、今回のターゲットは一般人だったから武器を扱う技能なんかも持っていない。となれば絶影が一撃だけ、素人に腹を刺されるなんてまずあり得ない。せいぜい腕とかに抵抗した時に浅く斬れた傷が出来る程度のものでしょう。そう分かるからこそ、絶影を刺したのは素人ではないだろうなと私達なら勘繰る。それでいてこの子は店の中でもかなりの技量の持ち主で相手がプロだったとしてもそう簡単に被弾をしないとも知ってるから……。罠にハメられたか、手の込んだ不意打ちをされたか?くらいは予測するわね。罠にハメられても打開できるし、不意打ちにも対処できる子ではあるけどそれでも例外ってのは起こるし。
「アンタの体に抵抗した際の傷見たいのも無かったわね。あの一撃だけとは言え随分、あっさり刺されたわよね?らしく無いわ。」
「麻痺毒を避けられなかったのがデカいな。アレがなきゃ違ったとは思う。なんにせよ近寄って来てたのを気づけなかったのは俺のミスだ。」
「今後は気をつけろよ。お前は良い働き手だから俺のとこに置いときたいんだ。呆気なく死なれちゃ困る。」
他所に持ってかれたり死なれるのはと損害だ、とボスが渋い顔になる。依怙贔屓とは違うと思うけどボスは随分と絶影が気に入ってるわね。まぁ私も何故かこの子はお気に入りだし、スカーもどう言うわけか弟分みたいな構い方をしてる。理由は定かじゃ無いけど、人を惹きつける子なのよねこの子は。掃除屋が坊やなんて呼びかけるのも、なんとなくそう呼びたくなる可愛げを絶影に見出してるんでしょうし。大男に可愛げってのもなんかおかしな表現かもしれないけど、この子が新米としてやってきたころは今ほどは大きくなかったし細かったしね。本人に他人を惹きつける自覚があるのかどうかも分からないけど。まぁブレイズみたいに嫉妬する奴もたまにいるわね。腕前が明らかに優れている、という同僚に嫉妬する子ってのはどうしても出るんだけど、だいたいみんな自分の中で折り合いをつけてるのよ。敵わないのならば別の方向を伸ばそうとか、叶わないのは確かなのだから受け入れよう、とかそういう形でね。実際、絶影はあらゆることの腕前がかなりものだからこの子の能力を追い越すのは難しいと思う。私やスカ―で多少張り合えるかもしれないけど、技術的な事で勝てるかは疑問ね。まあ私の最大の武器は変装で、そこは絶影にも出来ない芸当だからそこは私の勝ちね。
「……この際だから言っとくが俺は忽然と消えかねないからそこは理解しといてくれ。」
「そりゃ俺らはいつ何時、消されるかわからねぇからお前だけに限らなくなく無いかぁ?」
「消されるワケじゃ無い。《消える》かもしれない。本当に前触れもなくな。謝りに来る事ももう来られないとも知らせに来れないだろうから、そん時は済まん。」
「縁起でもないわね。気持ち悪い事言わないで頂戴?」
「……自分でもな、解らないんだ。でも、漠然とそう思う。《俺は突然、消え去るかもしれない。》跡形もなく。」
「……聴いてて気持ち良くはねえが、お前がそう言うなら俺は腹をくくっておく。だがよく分からんがアッサリ消えるなよ。」
「……善処するよ。」
時々こう言う話を口にするけど、何かこう、自分自身は破滅する存在だと思い込んでるのかしらこの子は?何か、崩れたような、奇妙なズレを感じる。生きることも死ぬこともこの子には虚無に見えてるんじゃ無いかしらと。消え去ってしまうかもしれないと言いながら、消え去ること自体は嫌だと思ってるように感じ取れないのよね。別に自分自身はいつ消え去っても構わない、と思ってるように見える。生きる気力を感じない。たまたま死んで無いから生きてるだけ、みたいに。ボスは比較的、あれこれと突っ込まないままで分かったと消化できるようなんだけど、私やスカ―としては気持ち悪くて疑問が残り続けるのよね。深入りは不要と分かっていても、この子の不安定な空気と言うのは見ていてこちらも不安になる。ボスは線引きを私達よりもしっかり綺麗に出来るんでしょう。伊達にお店のボスをやってないわね。折り合いの着け方も手慣れてる。
「食器片すのは任せてもいいか?」
「ああ、食い終わってんなら休みに帰っていいぞ。ちゃんと大人しくしろ?」
「あー、片づけんのは俺がやっからボスとレディは戸締りの確認してくれやぁ。絶影はホントちゃんと休めよなぁ。」
「分かったよ。」
ちゃんと休めと二人に言われて、絶影が苦笑しながら立ち上がる。じゃあ片づけは任せて帰るよ、と去っていく。当然のように椅子を引く音も足音もしないのが面白いけど気持ち悪いわね。絶影が店から帰って、宣言通りにボスと私で戸締りの確認をしっかりやっている間にスカーは食器を洗って片しておいてくれる。全部済んだのを三人で確認して解散。最後の出入り口のカギをボスが閉めて、また明日と挨拶して別れる。ひと段落で良かったわ。やっぱりボスは怒らせない方がいいわね。
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