失恋ポケット
赤い空
陽が橙に染まる夕暮れ時
空から雪が舞い始めた
この場所に1人で来るのは今日が初めてで
肩に落ちる雪はやけに寂しげなんだ…
なのに陽の光を浴びて夕空色に染まった雪はきれいで
きみの瞳から零れ落ちる雫に似ている
人はそれを「なみだ」と呼ぶんだけれど
もしもその雫に名前がなかったら
今のぼくなら「夕空色の雪」
愛しさと切なさを込めて
そんな名前をつけるだろうな
雪は溶けても雫となって残り
きみの涙も消えてもぼくの心に残る
そんなところもまた似ているね
いつも2人で空を見上げたこの場所から
今日からは1人で空を見上げるんだね
「ごめんね」
左手はきみの涙をぬぐうように舞う雪へとのばして
右手はポケットにつめこんでぬくもりを閉じ込めた
このポケットにつめこまれたきみのぬくもりが
夜が来て赤い空と共になくならないように…
橙の陽が空を赤く染めて
夕空色の雪がぼくを涙色に染める
もうずっと隣にきみがいない
そう思うと
きみのぬくもりがさらに恋しくなって
できるだけそのぬくもりを逃がしたくなくて
ぼくは左手もポケットにつめこんだ
夜が来た
「寒くなるから暖かい格好するんだよ」
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