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小説✳︎cafe『あけぼの』【はじまり】 7
あっさりと別れた。
愛していた。
いや未練はある。
でも男の最後の強がりで
愁は淡々と日々を過ごした。
カメラマンの男から
弁護士を通じて
慰謝料の話が来た。
謝罪か。
いや、罪なのか?
どっちがだ。
俺はミズホを幸せに出来ると
勘違いしていたのかもしれない。
今、ミズホはあのカメラマンとの
人生を選んだのだ。
俺の方が謝罪しないと行けないんじゃないか?
そんな葛藤を抱えながら
カメラマンの弁護士には
一切の連絡もお互い取らない。
ただミズホを、悲しませる事だけはしないでくれと、連絡を入れた。
仕事も辞めた。
働く意味も見出せないまま
なんとなく馴染みの喫茶店に
久しぶりに顔を出した。
マスターの笹内は、以前と変わらない接客で愁に笑顔で話しかけた。
「またお越しくださって、嬉しいですよ。露木さん」
「忘れられそうなくらい、ご無沙汰してしまいました」
「忘れませんよ。いつもので良いですか?」
「はい。お願いします」
静かなお店の微かに聞こえるBGM。
頭を空っぽにして、愁はただコーヒーを飲んでいた。
ふと気がつくと、お店には客が
いなくなっていた。
愁は慌てて
「あ、すみません。もう閉店の時間ですね」
「良いんですよ。露木さん、宜しければ、例のバーに行きませんか?」
喫茶店の戸締りをして
2人で、バーへ向かった。
そこで、酔いに任せて愁は
今までのことをマスターに話した。
「そうでしたか……」
しばらくの沈黙の後
「露木さん……夢だったお店。
やっては如何ですか?新しく出発されては」
「そうですね。なんだかすっかり、そのことは頭から飛んでました。ミズホとの思い出や彼女への想いを断つために、ひたすら頭を空っぽにする日々を送っていましたので」
「私でよければ、お手伝いしますよ」
「それは心強いです。よろしくお願いします」