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小説✳︎「月明かりで太陽は輝く」第35話


佳太ー頑張った証

コーヒーを飲みながら
ぼんやり彼女の背中を見つめていた。

突然、彼女は着ていたTシャツを
脱ぎ、下着を外し
ゆっくりとこちらに向き直した。
腕で胸を覆いながら
「ケイの気持ちもわかった。
本当にありがとう。
でもね、一つ気かがりがあるの」
と言った後、リコは
ゆっくりと腕を下ろした。

僕の目に、リコの胸が映る。
平たくなった右胸。
「ケイ……これが現実の私の胸。
こんな私でも受け入れてくれる?」
リコのさっきの笑顔は
こわばった表情に変わった。
それでも目は、僕の目を
一生懸命見つめている。
まばたきもせず、強い気持ちを
なんとか保とうとしているリコの瞳を
僕も、目を逸らさず見つめた。

僕は手を伸ばし言った。
「胸……
   ……触れてもいい?」
うなずくリコは、目を閉じた。

僕は答えた。
「このあったはずの乳房は
君の命を守ってくれたんだ。
忌み嫌うどころか、感謝すべき跡だし
僕は、世界で一番愛おしいと思うよ。
リコの命を救った。
そして、リコが頑張った証だよ。
勇気を出してくれて、ありがとう」
そっと傷跡に触れた
僕の伸ばした腕に
リコの涙の雫が次々と流れた。
「体、冷えるから」
僕は小さな肩に上着をかけて
抱きしめた。
僕の胸に顔を埋め、手を回すリコ。
僕ももう一枚、上着を掛けるように
僕の腕でリコを包み込んだ。
涙で潤んだ瞳で、僕を見上げたリコに
そっと口づけた。

「リコ。あのさ……
今夜は帰らなくて、良いかな?」
「うん。側にいて。……いて欲しい。」

そして僕たちは
初めての一夜を過ごした。


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