小説✳︎cafe『あけぼの』【はじまり】 2
今年の結婚記念日も、ブログに載せたいからと高級レストランを予約するミズホ。
ブランドのネックレスのプレゼントリクエストにも、愁は答えていた。
愁は、久しぶりに二人で過ごせると喜んでいたが、ミズホにとっては、リア充の演出のためになっていた。
レストランで食事をしながら、愁はすれ違い生活を解消したいとの思いで、自分は仕事を早期リタイヤして、二人でカフェでもしないか?と提案した。
ミズホは笑顔で「それも良いかもね」と、話を合わせて終わった。
しかし家に戻っても、二人は背中合わせで眠る。みずほを誘っても気が付かないのか、眠ってしまった。
その後も相変わらず、すれ違いの日々。
仕事帰りに一人、喫茶店で飲むコーヒーと馴染みのマスターとの他愛ない話をするのが、愁のホッとする時間になっていた。
たまに真っ直ぐ家に帰っても
妻のミズホは、配信の為の動画撮影で自室に篭りっぱなしだ。
物音を立てないでくれと言われる。
もしくは主催やイベントの為に
ミズホの方が留守だったりする。
まともに顔を合わせる時間は、ほぼない。
だから自然と、真っ直ぐ家に帰る事も無くなった。
かと言って喫茶店に、そうそう長くは
居られない。
閉店も早い。
仕方なく、特に酒に強いとか好きとかでは無いが、バーに移動して一人で飲む事になる。
ある日、バーで飲んでいたら
行きつけの喫茶店『purple cloud』のマスターが入ってきた。
「おや?露木さん?」
「あ、マスター。先程はどうも」
「店を閉めてた後.こちらに来てたんですね」
「あはは、ええ、家にはなかなか足が向かなくて」
「素敵な奥様が待ってるんじゃ無いですか?」
マスターの笹内は、愁の隣に座った。
「妻とは……」