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小説✴︎梅はその日の難逃れ 第46話

梅にうぐいす


米村家の庭の手入れが終わり、後は離れのリフォームだけとなったある日。

庭の完成祝いを、カフェ「AKEBONO」で行うとの知らせが
木杉ガーデンに届いた。
もちろん、関係する米村家の人達も集まる。

ただの庭の完成祝いの為には、結構大勢集まっているのを千登勢は不思議に思った。
しかも、主催の千草から春月に
出来ればモーニングを着て欲しいと言われたからと、何を大袈裟なと思っていたが
「最後の大仕事に、完成祝いをしてくださるんだから、せっかくだし着て行きましょうよ」と春月にたしなめられ、渋々袖を通した千登勢だった。

「じいちゃん、久しぶり」
春翔もはるばる和歌山から、やって来ていた。
「なんだお前、良いのか仕事は」
「大丈夫。川原社長にも良くしてもらって、今日はじいちゃんの仕事見ることも勉強だからって来させてもらってます」
「おお、そうか」
「はい。あ、それとね。紹介するね。今お付き合いしてる五十嵐マキさん」
「初めまして、マキと申します」
「おや、彼女まで作って来おったか」
「会わせたかったから、良い機会作ってもらってありがたかったよ」
「春翔が選んだお嬢さんなら間違いないんだろう。まぁ、よろしく頼むよ」

「おじいちゃーん!」
「おお、凛か」
「おじいちゃん、モーニングめちゃ似合う!」
「大袈裟だろ?」
「かっこいいよ!」
「モデルのお前が言ってくれるなら、悪くはないんだろうか?凛まで来たのか?忙しかろうに」
「ううん、大丈夫。ちょうど撮影空いてる日なの」
「そうか、ゆっくりしていけ」
「ありがとう」

お祝いと言うがどんな事をするのかよく分からずに、千登勢は庭に面したテラスの椅子が並んだ席に案内された。

そこには野崎や駿太郎の顔まであった。

進行役には千草が声を上げる。


「えーそれではお時間になりましたので、始めたいと思います」

素敵なピアノ音楽が流れてきて
奥の方から、女性が出て来た。

花びらが舞う映像が映され、そこから出て来たのは、純白のウエディングドレスをまとった小春だった。
凛が仕事先の衣装部から借り受け、自分担当のメイクさんも協力してくれて、美しい花嫁姿になって現れた小春。

千登勢もつい、立ち上がり見とれていた。
はにかみながら、千登勢の隣に立つ小春に、千登勢はうっすら涙ぐむ。

「千登勢さん、驚かせてごめんなさい。サプライズにしたくて、内緒にしてました。庭の完成祝いと同時にお二人の結婚式をプレゼントさせてください」
千草がそう言うと、奥からゾロゾロ親族や木杉ガーデンの従業員達も拍手しながら出て来て、口々に「おめでとうございます」との言葉をかけてくれた。

駿太郎と野崎も二人で並んで裏方作業をしながら、小春達を見守る。

愁と笹内で作ったウエディングケーキにナイフを入れて、皆で乾杯をした。

あの日の千登勢と小春の会話を聞いていた愁が
みんなに声かけして、二人の結婚式を企画したのだった。

千登勢と小春の姿に、千鳥も凛も【恋はしない、結婚しない】の気持ちが揺らぐ。

「本当に素敵な二人です。もしも運命の出会いってあるんなら、こういう事なんだろうな」
駿太郎が言うと
「本当だね。羨ましいと思うよ」
野崎もそう答えた。

皆からの祝福の言葉がそれぞれ送られて、最後に千登勢が促され挨拶をした。

「今日はみんな祝ってくれて本当にありがとう。びっくりしたよ。
最初はこんな歳になって、結婚式などやるのは恥ずかしい事かと思ったが、夢だった小春さんの花嫁姿を目の前にして、生きていて本当に良かったと思ったよ。小春さん、本当に綺麗だよ」
「私もこの歳でこんな素敵にしてもらえるなんて、夢にも思いませんでした。ありがとうございます」小春もそう答えた。

ヒューヒューと皆が囃し立てる中
千登勢は「私らの年齢から考えれば、この幸せな時間も、そう多くないかもしれない。でも、永遠の別れでお互い目の前に居なくなったとしても、こうした思い出も作れたし、心はずっと繋がっていると思えるなら幸せだと思えるようになった。心からお礼を申し上げます」

たくさんの拍手に、全員が笑顔で溢れる式となった。



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