小説✳︎「月明かりで太陽は輝く」第18話
結里子ー誤送信
紘太にプレゼントする小物に
「K」のイニシャルを刺繍して渡したことが何度かあって、一針一針、彼を思いながらの手仕事だった。
でも、今アルファベットの「K」の
文字を見た時、紘太ではなく佳太の「K」になってきている、私の脳内変換。
アキコさんに
足指のネイルをしてもらいながら
先日、女性の乳がん罹患率について
話題に上った。
アキコさんは、乳がん検診をここ数年
受けてなかったけど、わたしの話を聞いて
やっぱり行こうと思ったとの事。
「うちの病院の乳腺外来の先生は
いい先生ですから、なるべく早く
いつでもいいので、来てください」と
お伝えした。
それからまもなく、アキコさんは
来院して検査を受けたと、連絡が来た。
二週間後、ハガキで結果が来るのだけど
「要、精密検査」
との通知が来てしまったと。
でも今、仕事が立て込んでいて
なかなか行く時間も無いと言ってきた。
「少しでも早く行ったほうが良いです」
と説得したけれど、即答はしてくれなかった。
心配なので、ケイからも言ってもらおうとLINEを送ろうとした時
間違って、大地さんにも送ってしまった。
慌てて、すぐに削除したけれど
既読がついてしまった。
折り返しすぐに、大地さんから
電話がかかってきた。
「詳しく聞かせてくれないかな?」
「ごめんなさい。
弟の佳太くんに送ろうと思ったのに、
間違って送ってしまいました。どうしよう。アキコさんに、申し訳ない」
「いや、自分を責めなくていいと思うよ。故意にやったことじゃ無い」
「でも……」
「アキコさんに、会いに行ってくるよ。
明日の仕事帰り、サロンに寄ってくる。
僕からも話させてもらうよ」
「ああ、どうしよう」
すぐにケイに連絡した。
ケイは「姉さんを心配しての
リコの行動だもん。いいんだよ。
アキ姉にも俺、言っとくから。
元はといえば、すぐに検査に行かない
姉さんがいけないんだし」
「ありがとう、そう言ってくれると
助かるけど、アキコさんに
この事、連絡した方がいいのかな?」
「まずは俺が、今晩帰ったら
話してみるから。大丈夫」
次の日、大地さんは
アキコさんに会いに行った。
もう他には、誰もいない
閉店間近のサロン。
「こんばんは」
大地さんがお店に入ると
カーテンを閉めながら、アキコさんは
「いらっしゃいませ。もう閉店……」
驚いて手を止めると
「突然ですみません」
「あ、いえ。どうなさいました?」
大地さんは続けた。
「昨日の晩、結里子さんから話を聞いたよ。
“夢”も陸が生まれたばかりで忙しいからとすぐ病院に行かず、結局命を落としてしまった……。もう二の舞は嫌だ。
すぐ検査を受けに行ってほしい。
そして、わかった事がある。
僕は、なんとしても君を、失いたくない。想像もした。
君が、他の人と生きていく人生。
僕は、失いたくないだけでなく
離したくないとも思った。
不安はお互い、たくさんあるけど……
結婚を前提に付き合ってくれないかな?」
大地さんは
想いを伝える事が出来た。
アキコさんは
「わたしの方こそ、こんなに心配してくれて
本当に嬉しいです。大地さんの為にも
私、検査受けにいきます。
夢さんの分も、元気に生きて
陸くんのママになりたいです」
と、声が震えながらも答えることが出来た。
夜遅くにアキコさんから
LINEが私に届いた。
「結里子ちゃん、遅い時間だけど
お部屋にお邪魔しても良い?」
「ごめんなさい!佳太さんから
聞きましたか?
私こそ、直接謝りたかったので
私が伺います」
「ううん、今降りるから待ってて」
すぐに呼び鈴が鳴り、玄関に入るなり
ワインボトルを突き出しながら
「乾杯して!」と。
笑顔と少し赤く腫らした瞼の
アキコさんの話を聞いた。
わたしも嬉しくて、嬉しくて
一緒に嬉し泣きした。
「ケイには、知らせたんですか?」
「ううん、まだ!」
「一番早く伝えないといけないんじゃ」
「いいのいいの。今日も仕事遅いから」
「じゃあ私は、黙ってますね」
「そうして!驚かせたいし」
「でもきっと喜ぶだろうな」
また、ケイの口を大きく開いて
歯並びの綺麗な歯を目いっぱい
見せて笑う顔。
想像して、私まで笑顔になった。
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