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小説✴︎梅はその日の難逃れ 第30話

千鳥は張り切ってラベルのデザインを考えた。春翔の事を思い浮かべながら
思考する時間は、楽しかった。
小春もまた、自分に出来ることがあるのは嬉しくて、イベントに向けて
張り切っていた。

ある日の夕飯時
小春、千草、千鳥と3人が揃った日だった。

千草が、この所忙しくしていて
久しぶりに3人揃ったのだった。
千草は老人ホームのケアマネ兼副施設長の仕事をしていた。
最近は入居者も多く、従業員は増やすものの、千草自体は相変わらずの忙しさだった。

「千草、体は大丈夫?」
「小春さん、ありがとう。休める時は休むようにしてるから。今日も泊まりは代わってもらったのよ」
「お母さん、無理はしないでよ」
「あら、千鳥まで。ありがと。
それより最近2人して、何やら楽しげにしてるよね?なんなの?」
小春と千鳥は顔を合わせて笑った。
「今ね、千鳥ちゃんと一緒に色々企画してて、楽しいのよ」小春が言った。
『あけぼの』でのイベントの話を
千草にも聞かせた。

小春と千鳥はとても楽しげで
千草も嬉しく見ていた。
「そのイベント、私も行きたいわ。あ、うちの施設の皆さんもお連れして行くのどうかしら?」
「え!良いじゃん、良いじゃん!」
千鳥も手を叩いて喜ぶ。


千鳥のラベルのデザインが出来上がり
3人のLINEに披露してみた。
すぐに小春さんが千鳥の部屋にやってきて
「千鳥ちゃん、可愛いのが出来たわね。私も嬉しい!」
「そ、そう?これで良いかな?」
「うんうん、良いわよ」
手で良いねマークを出す小春。
「小春さん、ありがと」
そこに春翔からもLINEが入った。
【すごく可愛いのが出来たね。千鳥ちゃん、ありがとう!後は瓶の大きさを決めないとね】との返事。

「あ!そうよね。ウチのありあわせの瓶ってわけにはいかないわよね」
小春も笑いながら言った。

【そこで、小春さん。瓶を買いに行きませんか?今時はネットでも良いんですけど、せっかくだからちゃんと見て買いませんか?】
春翔の書き込みに、小春が微笑んだ。
【買い物デートしてくれるの?】
そう書き込みをした小春の
横顔に目を向けてしまった千鳥だった。
【もちろんです】
春翔の返事とやりとりの間に
全く入り込むことが出来ず
絵を褒めてもらって、浮き足だっていたはずの千鳥は複雑な気持ちに
なってしまった。

(おばあちゃんの小春さんに何を
ジェラシー感じてるんだろ私)
普段は冷めた方と自認していた千鳥も
ここ最近の感情の起伏に戸惑っていた。

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