小説✳︎cafe『あけぼの』【はじまり】 3
いつもマスターとは、カフェで軽く話はしているが、笹内の方は仕事中でもあるのでそれとは違い、バーではお互いゆっくりと色々な話をする事ができた。
愁は、妻との関係やカフェをやってみたかった話もした。
笹内は、じっくりと話を聞いてくれた。
「露木さん、一度きりの人生。思いがあるならそこに向かってみてはいかがでしょう?奥様の事も含めて、よく話し合い、道を進めてみては?」
「私も、このまま何の意味もなく過ぎていく人生はどうなのか、思い始めていたところです」
「真面目な露木さんの事だから、冒険の一歩は勇気が必要でしょうが、実は僕も脱サラなんですよ。まぁ、会社が倒産したので、訳が違いますが」
軽く笑みを見せながら、笹内は愁に打ち明けてくれた。
「会社が倒産して、妻も子供も私から去って行きました。まぁ、身軽な分、
新しい事に向かえたのかもしれませんね」
「ご結婚されていたんですか」
「ええ。金の切れ目が縁の切れ目とは言いますが、甲斐性のない男ですから、今の様な生活が合っているのかもしれませんね。これはこれで僕は幸せですよ」
「奥様やお子さんとは?」
「あ、もちろん養育費も送ってましたし
時々会ってますと言うか、うちの店にも寄ってくれるんですよ。でも、妻は再婚しました。その旦那も一緒に遊びに来てくれます」
「何だか、良い関係ですね」
「ここに来るまでは多少の時間は
必要でしたがね」
愁は、妻との生活を思い起こし
妻との幸せな生活は何かと、考えた。